お盆を過ぎると、にぎわいを見せていた森の昆虫たちの姿も日に日に数が減り、夜長とともにハローウッズの景色は秋の様相へと変わり始めてきました。盛夏、青々としていた田んぼが徐々に黄金色へと変化していき、垂れる稲穂が一面を埋めるころ、いよいよ稲刈りの時期を迎えます。
茂木町のような里山で暮らす人にとって、稲刈りは今も昔も秋の風物詩です。
田んぼはイネ(稲:お米)を生産する場です。おいしいお米をたくさんつくるため、農家の方たちは田起こしから収穫まで手間暇かけて田んぼを維持し、管理しています。こうした田んぼとその周辺では、イネ以外の植物たちはイネの生育を妨げる「雑草」とされ、除草されてきました。かつては当たり前のように生えていた田んぼの雑草たちですが、コンクリート護岸や農薬の普及などによってその数を減らし続けています。もしかすると、今はまだ見ることができる「雑草」と呼ばれる植物たちを、この先見ることができなくなってしまう日が来るかもしれません。
しかし、「雑草」という区分けはあくまで人間の立場からのものであり、彼らも立派な植物の仲間、自然の一部です。よく観察してみると、田んぼの周りには、さまざまな種類の植物たちが表情豊かに暮らしているのです。そうした植物たちに今一度目を向けてみると、自然に対する理解が深まり、田んぼの風景がまた変わって見えるかもしれません。
田んぼに生える雑草のうち、日本全国の田んぼで目にすることができる定番とも言える雑草が、「オモダカ」「イボクサ」「コナギ」の3種類です。いずれも水田や湿地、ため池などに生える水生植物で、田んぼと関わりが深い「水田雑草」と呼ばれています。
このうちイボクサとコナギはインターネットで検索すると駆除方法が予測変換に出てくるほど迷惑がられている存在で、特にイボクサはイネに絡みつくように生育し、収穫時に稲刈り機(コンバイン)の刃に引っかかてしまうので、農家にとっては悩みのタネとされています。
しかし水田雑草というフィルターを外してしまえば、どれも愛らしい花や葉っぱで、里山の散歩を彩ってくれます。
植物のうち、種子ではなく胞子で増える種類のひとつに「シダ植物」がありますが、シダ植物の中には水中生活ができる「水生シダ」もいて、田んぼで見つけることができます。ハローウッズのある茂木町では「ミズニラ」と「ヒメミズワラビ」がその代表格。畦(あぜ)が土で固められた、昔ながらの田んぼの縁や休耕田などで群生していることがあり、田んぼに水が入っているときはあまり目立ちませんが、稲刈り後など乾田化しているとよく目立ちます。
一方、水路や畦がきれいに整備された田んぼや大規模に農薬を散布するような都市型の田んぼで姿を見ることはほとんどなく、県によっては絶滅危惧種に選定されているところもあります。
田んぼの水面をのぞくと、びっしりとウキクサなどの植物が浮遊していることがあります。本来「ウキクサ」はウキクサ属の水生植物のことを指しますが、水面に浮かぶ植物を総称して「浮草・ウキクサ」と呼ぶこともあります。その場合、花を咲かせるウキクサ属の「種子植物」とアカウキクサなどの「シダ植物」、ウキゴケと呼ばれる「コケ植物」などそれぞれ違うグループの植物が含まれます。いずれも水面を漂いながら光合成をして生育しています。
ホシクサという植物をご存知ですか? 漢字にすると星草、小さな白い花をたくさんつける可愛いらしい植物です。ホシクサの仲間は湿地に生える種類が多いため、あまり身近な植物ではありませんが、田んぼや休耕田でも見かけることがあります。夏の終わりから秋にかけて花を咲かせるため、稲刈り後の田んぼで花を見ることができるかもしれません。キクモという小さな花を咲かせる植物も稲刈り後に見つかることがあるので、ホシクサと同じく、ぜひ探してほしい植物です。
除草剤の普及や乾田化で数を減らしている田んぼの植物。田んぼにどんな農薬を利用しているかどうかによって生える種類は大きく異なります。また、ひとくちに田んぼと言っても、川から水を引いているのか、山の沢から水を引いているのか、水を張る時期など管理法の違いによっても生える植物の種類が変わってきます。隣あった田んぼ同士で、生えている植物が全然違うなんてことも珍しくありません。
水辺を好む生きものにとって田んぼは大事な住処です。「田んぼの生きもの」と言うとカエルやタガメ、ゲンゴロウばかりが注目されますが、見過ごしがちな「田んぼで暮らす植物」に目を向けてみると、新しい発見があるのではないでしょうか。
ハローウッズは42ha(東京ドーム約9個分)の広さがあり、いつでも、誰でも、思いっきり遊べる元気な森です。人と自然が楽しくかかわり合い、自ら体験し、発見できるプログラムをたくさん用意して、皆さんをお待ちしています。
ハローウッズのホームページへ里山の自然が残る「もてぎの森」には、たくさんの生きものが暮らしています。そんな森の中に、どんな生きものがいるのか生きもの博士と一緒に調べてみませんか?
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