
だろう運転からかもしれない運転へ きっと大丈夫だろう?
いいえ 危ないかもしれませんよ!
「安全運転」にまつわる話や講習会では必ずと言ってもいいほど登場する「だろう運転」と「かもしれない運転」。安全運転の基本ではあるのだが、実は知識、経験、想像力、そして運転に対する姿勢までが問われる、奥深いものなのです。
- 今回のアドバイザー 交通教育センターレインボー浜松
下浦紀世人インストラクター

あらためて、だろう運転とは?
誰でも一度は聞いたことがあるであろう「だろう運転」。「こんな危険があるかもしれないぞ?」と注意深く運転する「かもしれない運転」に対して、「危ないことは起きないだろう」と、自分に都合よく状況を捉えてしまい、危険が迫った際に対応できないような運転をしてしまうことを指します。
クルマでもバイクでも、もしくは自転車や歩行中であっても、公道を通行する上で多かれ少なかれ「大丈夫だろう」と、つい楽観してしまう意識がありませんか? 「自分は交通ルールを守って走っているし、無理をしているわけでもない。何事もなく走り続け、目的地に着くことができるだろう」という意識です。
しかし、このような楽観的な見方が積み重なると、「あのクルマは曲がってこないだろう」「前のクルマは進路変更しないだろう」などと、そこに潜む危険から目を背けてしまうことになってしまいます。知らないうちに「だろう運転」をしていないか、日常の運転を振り返ってみてください。
日常的に遭遇することの多い「だろう運転」

- 黄色信号で止まるだろう
- バイクは遠くにいる(ように)見えるので、先に右折できるだろう
- 黄色信号で急いでしまう
- 直進優先なので「クルマは右折してこないだろう」と判断
交差点は予測が難しいシーンのひとつ。直進するバイクは「直進優先」の意識が働き、右折するクルマは車格の小さいバイクとの距離感を見誤りがちです。バイク側の「まさかこのタイミングで曲がってこないだろう」、クルマの「先に右折できるくらい遠いだろう」、それぞれ「だろう運転」が重なると危険。お互いの「相手が譲るだろう」という意識も事故の要因になります。

- いったん停止
- カーブミラーを確認
- ゆっくりと右折を開始
- しかしバイクに築けない
- 横からのクルマは認識
- 自分は直進なのでクルマは自分を待つだろう
- 実際より小さく映るので、遠くにいるように見えてしまう
「見えてはいないが、何も起きないだろう」も、だろう運転に多いパターン。見通しの悪い交差点では、「誰も来ないだろう」と都合良く判断するのは要注意。特に車線の左側を走るバイクや自転車は、死角に入りやすい上にカーブミラーにも小さくしか映らず、存在が把握しづらい。バイク側も「相手が自分を認識してくれるだろう」と、二重の「だろう運転」が起きてしまうことも。
なぜ、だろう運転をしてしまうのか?
だろう運転をしてしまうのは、日々の「大丈夫」の積み重ねが要因。「いつも通る道だから」「これまで大丈夫だったから」と、危険な目に遭わずに日々通行しているような道でこそ起きやすいと言えます。「ヒヤリハット」を体験せずに運転していると、いつしかその「大丈夫」が当たり前となり、不安全行動が積み重なっていきます。すると大切な安全確認を怠ったり、危険予測能力が落ちてしまうことも。こんな運転が習慣化してしまうと大変危険です。
これに対して心がけたいのが「かもしれない運転」です。「かもしれない運転」は常に何かが起きるかもしれないと予測し、それに対応できる余裕を持って運転すること。「前を走るクルマが左折するために突然減速するかもしれない」「あの自転車は歩行者を避けて車道に出てくるかもしれない」「路地から出てこようとしているクルマは、こちらを認識できていないかもしれない」といった様々な可能性を想定することで、車間距離をとる、減速をするなど、あらかじめ危険を回避する行動がとれ、事故を未然に防げるのです。
初めて通る道や見通しの悪い道、あるいは運転し慣れていない乗り物に乗っている際は慎重になるため、比較的自然にこの「かもしれない運転」ができていることも多いです。ただ「いつもの車両」「いつもの道」「目に見える明確な危険がない状況」などでは、ついつい「だろう運転」となりがち。慣れてきた時ほど、この「かもしれない運転」に立ち返ってみてください。
だろう運転は交通違反?
「だろう運転」という違反項目そのものはないものの、だろう運転と結びついている各種運転動作は違反となりうる。例えばわき見運転や漫然運転は「安全運転義務違反」という違反となるし、前方不注意といった違反も元をたどれば「だろう運転」に起因することも多い。「そのぐらいは大丈夫」「いつも平気だから今日も問題ない」といった日々の不注意はみな「だろう運転」の仲間。違反に問われることも十分あり得るのです。
「だろう」を遠ざけ、「かもしれない」を引き寄せる3つのポイント
意外なことに、ある交通状況を下図のように図解すると、多くのドライバーはそこに潜む危険を言い当てることができるといいます。ところが実際の運転では、刻々と変化する状況に想像力や予測機能が追い付かなくなり、「かもしれない」を見落としてしまいます。「かもしれない」の精度を高めるためには、知識や経験を現実の交通環境に落とし込み、あらゆる状況において適切な判断力を持つことが大切。そして焦りやイライラといった感情は「かもしれない運転」の大敵。冷静で落ち着いた運転を心掛けましょう。


どうすればもっとかもしれない運転できる?
「かもしれない運転」で大切なのは、運転手の知識や経験、そして想像力。目の前の状況を注意深く観察し、どのような危険が起きうるかを予測することが求められるため、危険予測トレーニングなどを受け、危険の種類をあらかじめ知っておくのも重要です。なお「かもしれない運転」は目に見えているものに対してだけではなく、クルマの影からのこどもの飛び出しや、死角から現れる自転車など、目に見えないものも含まれるため、常に意識して取り組んでみてください。
また、「かもしれない運転」を遠ざけるのは、運転手の感情です。急いでいる、焦っている、もしくはイライラしている……こういった感情の時はついつい危険を見落とし、「だろう運転」になってしまいがち。原点に立ち返って、常に冷静に運転し、「今日も無事に目的地に着くぞ」という確かな気持ちを持つことや、感情の起伏を感じたら「我に返る」ことも重要なのです。
だろう運転から生まれる危険