あの人に聞く! クルマ&バイクライフ 「1番かっこいいのは、マシンも走り方も、自分にあっているかどうか」 藤岡弘、さんインタビュー

来年で芸能デビュー60周年を迎える俳優であり武道家の藤岡弘、さん。言わずと知れた、仮面ライダー1号・本郷猛役を演じた元祖仮面ライダーであり、世界中に老若男女のファンを持つバイクヒーローだ。そしてもちろん、現在進行形でバイクに乗り続けている現役のライダーでもある。そんな藤岡さんの、バイクとの向き合い方とは?

*インタビューのダイジェスト動画の公開は終了しました

馬も、バイクも、クルマも、いちばん大切なことは……

 「いまは昔のように時間がないので、バイクは気分転換に乗ることが多いんです。月に1度とか、週に1度とか、乗るタイミングを定期的に決めるようなことは僕はいっさいなくて、臨機応変に、体調が良くて『今日は乗りたい』と思いついたら乗る。ちょっと気分を変えたいなと思ったときに、高速道路を箱根まで走って、戻ってくるだけでリフレッシュできるんですよね。自然との一体感を感じ、走りに集中する。その快感には、エネルギーをよみがえらせるというか、眠ってる五感すべてを一瞬で呼び戻すような体感があります」

 藤岡さんが初めて仮面ライダーを演じたのは1971年のこと。藤岡さん演じる仮面ライダー1号/本郷猛役は大反響を呼び、子供たちに一大変身ブームを巻きおこすなど、社会現象ともなった。
 2016年には映画『仮面ライダー1号』で、45年ぶりの仮面ライダー1号/本郷猛役として主演。当時と遜色ないキレのある変身ポーズと、Honda・F6Cをベースとした“ネオサイクロン号”を見事に乗りこなす姿は、歴代ライダーファンの間でも大きな話題となった。

 「僕は、あの撮影で初めて1800ccのエンジンに乗ったんですよ。しかもバイクが現場についてから撮影まで、15分くらいしか乗る時間を与えてもらえなかった。さすがにちょっと心配だったんで、周辺を少しだけ試乗しましたけど、パワーのすごさと重量には圧倒されましたね。
 それからすぐ本番で、本郷猛の最後の変身を描く流れで、あの走りをやったんです。いま思い出してもあのパワーというか、まるでクルマのようにシュルシュルッて発進する感覚には、ワクワクしましたね。素晴らしいマシンでした」

 ほぼぶっつけ本番の撮影が見事成功したのは、それまでの豊富なバイク経験があればこそ。では、初めて乗る大型バイクでも、気後れせずに乗りこなすコツがあるのだろうか?

 「あんまり考えたことないねぇ。なんて言うのかな……乗ったらそのままマシンと一体化している感じですね。もう最初から全身がマシンと一体になろうと、寄り添っていく感覚がある。そうやって身体が一生懸命、新しいものに順応しようとする感覚がすごく好きなんだね。もちろん乗る前はドキドキしますけど、初めてのものに挑戦するワクワク感の方が強い。僕の場合は、なにかに挑戦すること、そこに興味と関心を持って突き進むことを、身体がとてつもなく喜ぶんですよ。これは武道家でもあった父の教えでもあるし、小さい頃から山や海といった自然の中に連れて行ってもらっていた、生まれ育った環境のおかげでもあるんですが」

 現在、仕事の移動手段はクルマがほとんどだが、普段から運転を人まかせにすることはなく、自らハンドルを握って現場に向かう。二輪と四輪の乗りわけをとくに意識することはないが、「バイクに乗っていると路面状況に非常に敏感になり、その感覚がクルマを運転する時にも活きている」とも。

 「僕は撮影での事故で生死をさまようような経験もしているし、あらゆる状況でさまざまな二輪に乗ってきましたからね。そういう経験値が身体中に染みついて、運転にもにじみ出ているんじゃないかと思います。世界中のあらゆる馬にも乗ってきましたから、僕にとって、馬に乗るのと二輪に乗るのは同じような感覚です(笑)。馬に乗るときは馬との相性を慎重に測っていきますが、バイクも、クルマも、いちばん大事なことはマシンとの相性。見た目も大切だけど、自分の五感や身体能力とマシンが、まさに“馬が合う”かどうかだと思います」

年齢を重ねるごとに変化している楽しみ方

 いまでは考えられないほど危険なアクションシーンの経験に加え、100回を超える海外でのボランティア活動でも、藤岡さんは何度も命の危険に遭遇してきたという。しかし、一般道の運転での失敗経験はゼロ。その秘訣は、つねに最悪のパターンを想定して走る想像力と注意力と、そして謙虚な運転姿勢にあった。

 「僕は運転していても、何をしていても、最悪の事態を頭で想定しています。もし対向車がセンターラインを超えて向かってきたら……最悪でしょう? そういうときにどう逃げるかを、常に考えていますし、実際に何度か逃げたこともある。バイク乗りの先輩に『対向車を信用しちゃいけない』と言われて以来、その言葉をいつも意識してきました。やはり実践経験を積んだ先輩たちの話は、大きな財産。だから僕はいつも謙虚な気持ちで、先輩たちが伝えてくれる助言や教訓には、感謝しながら耳を傾けることを心がけてきました」

 長年バイクに乗り続けてきたが、年齢を重ねるごとにバイクの楽しみ方にも変化が出てきた、と藤岡さんは言う。

 「昔ほど冒険的な乗り方は避けるようになりましたね。やはりこの歳になると、若い時のような失敗を乗り越えられる対応力は、だいぶ落ちてきた実感があります。だからそこを踏まえたうえで、絶対に無理はしない。ストレスを感じない程度に自分をコントロールして、今までの経験を活かしながら、ゆとりを持った乗り方を楽しむようになりました。
 ただ、いざなにか危機的な状況に陥って、自分の身を守るためとか、愛する者を守るためなら、これまでの自分の経験を総動員してでも対応するであろうスキルやノウハウは、常に私の中の引き出しに眠っていますけどね」

たくさんの失敗をしてきた自分だから、子供たちに伝えられることがある

 近年は、長男の藤岡真威人さんが朝の情報番組のパーソナリティーに抜擢されたり、長女の天翔愛さん、次女の天翔天音さんが、NHK大河ドラマ「どうする家康」に出演するなど、“藤岡ファミリー”の活躍が増している。父の背中を見て育ったお子さんたちも、クルマやバイクへの関心は高いようで……。

 「いまちょうど長男がね、バイクもクルマも両方免許を取りたいと言い出していて。できれば大型まで取って、その次は飛行機にも乗りたいと言っているんです。僕が自家用飛行機の国際ライセンスを持っていますし、クルマは大型や大型特殊、当然バイクも大型で、二級小型船舶免許に、スキューバライセンスと、陸・海・空に海底まで、全部の免許を持っていますからね(笑)。そのうえで子供たちが小さい時から、いろいろな山や海に連れて行って遊ばせていたので、親の背を見て何か感じるものがあったのかもしれないです。長女もバイクの免許を取りたいと言っています。
 実際に子供たちが免許を取ったらですか? 僕としても、アドバイスを言わざるを得ないでしょうね。やっぱり失敗を知らない人よりも、失敗を経験して乗り越えた人の方が、安心じゃないですか。その意味では、僕は数限りなく失敗してきましたし、その失敗が成功の源になったというか、すごく糧になっているんです。だから子供たちにも、失敗してもいいから命だけはなくさないように、自分が経験して得たことを伝えないと、とは思いますね。今の状況だったらまだ僕が、子供にいろんな経験をちゃんと教えることができる。今のうちだな、と思っています」

 陸・海・空の乗り物に精通する藤岡さんが、長年乗り続けてきたからこそ感じるバイクの魅力についてたずねると、こんな答えが返ってきた。

「やっぱり風を受けて自然を楽しみ、自然を体感する一体感ですね。繰り返しになってしまうけど、バイクによって五感に刺激を与えられることで、身体がとてつもなく喜んでいるのがわかるんです」

憧れていた、Hondaのバイク

 Hondaバイクについての印象をうかがってみると、嬉しそうな笑顔が溢れた。

 「僕にとって“Hondaのナナハン”は、東京に来て芸能活動を始めて、自分で貯めたお金で初めて買ったバイクで、ひと一倍思い入れがあります。田舎でも二輪には乗ってましたが、Hondaのバイクにとても憧れていた時代があってね。欲しくて欲しくてしょうがなかったその想いを、初めて自分の力で叶えて、手に入れることができた最初のマシンがホンダでした。それまでは人のマシンに乗せてもらったり、借りたりするしかなかったから、やっと手に入った時の嬉しさは、今でも忘れられないですね」

かっこつけないのが、いちばんかっこいい

 これまで仮面ライダーをはじめ、たくさんのヒーローを演じてきた藤岡さん。ご自身の言動や佇まいそのものが、まさにヒーローのようだが、そんな藤岡さんにとって“かっこいいライダー”、“かっこいい運転”とはどんなものかをたずねてみた。

 「僕はかっこよく見せようという意識で乗ってないし、そんな甘いものじゃないですよね、二輪って。かっこつけているうちにあの世に行っちゃったら、もう終わりですから。
 それに、自分をよく見せようと気張ったり、ちょっとかっこつけたりしている運転って、僕から言わせると、周りにはすぐわかってしまいますし、逆に周囲に不安を与えかねないんです。それよりも大切なことは、マナーを大事に、無理をしないこと。安全を考え、自分の技量に合ったゆとりのある運転をされてる方が素敵じゃないですか。自分の身体と技量に合ったバイクを選んで、自分に合った運転を楽しんでらっしゃる方が、いちばんかっこいいと思いますよ。
 僕くらいの年齢になるとね、飛ばすことなんかより、大型のゆったりと乗れるバイクで、威風堂々とゆっくり走ってる方が楽しいんですね。アメリカの公道を走っていると、見るからに『かっこいいおじさんだな』と思うようなライダーには、どデカいマシンをゆったりと走らせて楽しんでる感じが多くて、あの姿には憧れますね。人によってバイクの楽しみ方は違うと思いますが、僕は歳を取ってもいつまでも二輪というものには乗りたいですし、乗っていられるような自分でありたいな、と今でも思ってます」

藤岡弘、さん
藤岡弘、さん
1946年生まれ。愛媛県出身。
1965年に松竹映画でデビュー。1971年に放送された『仮面ライダー』で仮面ライダー1号・本郷猛役を演じ、一躍国民的ヒーローに。以来、映画『日本沈没』やテレビ『勝海舟』など多くの作品で主演。映画「SFソードキル」では米映画に主演するなど、海外作品への出演も多数。ボランティア活動で海外100ヵ国近くを訪問。武道家として、柔道、空手、刀道、抜刀道小太刀護身道などあらゆる武道に精通する。
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