安全つくりかた エアバッグ編
乗用車の安全装備の中で、普段は目にすることのないものがエアバッグです。名前は知っていても実際に目にした機会がないために(そのほうが良いのですが)、仕組みや役割を意識したことがない人は、多いのではないでしょうか?
1920年には特許が承認されていたエアバッグが、一般の乗用車用に導入され始めたのは1970年代のこと。そして1990年代以降はシートベルトの着用に加え、補助拘束装置の位置づけでSRS(サプリメンタル・レストレイント・システム)エアバッグが主流となり今日に至っています。
セダン、ワゴン、SUV、ミニバン、そして軽自動車と、乗用車にはさまざまなタイプおよび形状があるため、それぞれの車体のクラッシャブルゾーン(衝突の際に変形することで衝撃エネルギーを吸収する車両の空間)や剛性には各タイプや車種ごとに大きな違いがあります。エアバッグの開発は個々のモデルに最適な構成を考え尽くす必要があり、ある意味オーダーメイド的なつくりになっています。
エアバッグはセンサーが衝突を検知しない限り、乗員が目にすることはありません。普段はインテリアの中に隠れ、いざという時に出現して乗員の命を守る、まさに縁の下の力持ち的な安全装置と言えるのです。
エアバッグの種類
エアバッグは運転席用SRSエアバッグシステムを国産車としてはレジェンドが初採用、その後助手席、前席サイド、サイドカーテン、そしてニーと、進化しながらバリエーションを増やしていきました。いずれのエアバッグも衝突を検知したのちに展開する信号が送られ、膨張を開始します。膨張したエアバッグは乗員を適切に受け止めるために、バッグ内部のガスを排気する構造も有しており、展開と排気のバランスを車種ごとに最適化しています。
運転席エアバッグ
転舵するテアリングの位置に関係なく、常に同じ性能を発揮することが求められます。覆うカバーは円周方向に開くように設計されており、エアバッグは乗員へのダメージを抑えつつ、放射状に展開するように、折り畳み方などが工夫されています。なおバッグを膨らませるインフレータ(ガス発生器)は短い円筒状、お菓子の今川焼のような形状にしてコンパクト化しています。
助手席エアバッグ
助手席側エアバッグは、ダッシュボードの中に取り付けられています。助手席の乗員に向かって真っ直ぐ展開させた方が効率的ですが、エアバッグ展開の衝撃による直接的な加害を避けるため、展開時にはフロントウインドウ、そして天井を沿うように、上から下へエアバッグが広がるように設計されています。
前席サイドエアバッグ
正面衝突時の車体ノーズ(エンジンルーム)のような衝撃吸収のスペースがないため、乗員とドアの間という非常に狭い空間に、素早く確実に展開させる難しさがあるサイドエアバッグ。そのため、運転席用よりも短い時間で展開します。シートの背もたれ外側に格納されており、展開時はシートのステッチを破って膨らみます。
サイドカーテンエアバッグ
運転席から後部座席まで、守る範囲の広さから一番大きなサイズになっています。大きいエアバッグを適切な速度で展開させるため、大容量のインフレータ(ガス発生器)が使われ、必要に応じて2本搭載することもあります。また、乗員保護のために膨らむ場所と、乗員が当たることがないのために膨らまない場所を分けるなど、専用の工夫がされています。
運転席ニー/助手席ニーエアバッグ
各種エアバッグのなかでは比較的新しく採用された装備です。運転席側のステアリングの下側、または助手席側のグローブボックスの下側から展開することで、乗員の身体の前方への移動を抑制。そして同時に乗員の脚部を保護する効果を発揮します。
エアバッグ素材
インフレータから発生する高温ガスに耐え、強度に優れるナイロン66が主に使われています。エアバッグの種類ごとに生地の厚さは変わりますが、素材は共通です。なお近年ではナイロン66に代わって、PET(ポリエチレンテレフタレート)の採用が進んでいます。製造時のCO2排出量が少ないPETですが、耐熱性ではナイロン66に劣るため、ハイブリッドインフレータを用いたエアバッグを皮切りに、採用拡大の検討を進めています。
エアバッグの作動メカニズム
エアバッグは衝突から展開まで、右上のような5つの工程をわずか0.1秒以内の時間で行っています。なおインフレータは高圧ガスとガス発生剤の2つからなるハイブリッドタイプが主流です。展開速度とサイズ/重量のバランスに優れているため、主にサイドカーテンエアバッグに採用しています。
- センサーが衝突を感知
- ECUが衝突を判断
- インフレータに着火ここまで約0.015秒〜0.03秒
- ガスが発生約0.075秒
- エアバッグ展開3〜5まで約0.03秒
(運転席の場合)
実はNG
助手席のダッシュボードの上に小物入れやぬいぐるみを置いたりすると、エアバッグ展開時にそれらが乗員に向かって飛び出し、思わぬケガをまねくおそれがあります。ダッシュボード上に限らず、安全の観点から各種エアバッグの周りに物は置かないようにしてください。