安全つくりかた シートベルト編
シートベルトは自動車史のなかで、最も長い歴史をもつ安全デバイスです。
「あって当たり前」のシートベルトですが、その安全性能は日々進化しています。
現在、乗用車で主流の3点式シートベルトは、その誕生から半世紀以上が過ぎています。その外観に大きな変化がないため、古典的な安全デバイスと思われることの多いシートベルトですが、開発者たちは安全性はもちろん、使いやすさの向上のため、日々研究開発に取り組んでいます。
「安全デバイス」において、エアバッグなどと同じであるとともに、インテリアを構成する一要素でもあります。そのためシートベルトの開発は、衝突安全のほか、シート、ボディ、内装などの担当者をはじめ、さまざまなパートと連携して、そのクルマに最適な製品を作り上げます。
また着用率を向上させるためには、取り出しやすさ、バックルへの挿入のしやすさ、そして装着時に圧迫感や不快感のない構造の解析など、商品性を高めるための研究にも多くの時間を費やしています。
すべての利用者にフィットする安全性を提供する……この難しいテーマへの絶え間ない追求こそが、シートベルトのつくりかたの核心と言えるものなのです。
各部が連携、トータルで安全をつくる
安全はひとつの部品だけでは完成しません。シートベルトやシート、エアバッグ、ドアトリム、さらにはボディに至るまで、どの部品でどの衝撃を受け止めるかを緻密に計算し、連携してクルマ全体のパッケージで安全性を高めています。
シートベルトの取り付け位置によっては、クルマの内装や外観デザインにも影響することもあり、各部が効果を高めるために主張がぶつかることもありますが、お互いにミリ単位で調整していくことで、トータルでの安全性を高めることが開発の大きなポイントとなります。
ベルトの色はどうやって決まる?
シートや内装などと馴染む同系色にするなど、車種のコンセプトやデザインで決めています。黒や茶色や紺などが多いですが、色の違いによる性能の差はありません(下の写真内、赤い製品はシビックタイプR用)。
ただ、どんな色でも使えるわけではなく、人や服に常に触れているので、肌触りや服に色移りしないことも、色選びの要因になっているのです。
また、「白」はほぼ使われません。というのも、素材であるポリエステル繊維は、紫外線に分解されてしまうので、経年劣化してしまうのです。
したがって、耐久性を担保するためにHonda車では採用されていません。
着用時は腰骨がポイント!
上の帯部分は肩と首の中央あたりに、下の帯部分は腰骨の低い位置にかけるように着用するのが、正しい着用方法(下写真:GOOD)です。
ベルトが肩から外れ、腰骨より高い位置にあると、衝突時に上体が前方に投げ出されたり、ベルトが腹部をかかり、内臓を痛めてしまう可能性があります(下の写真:BAD)。
なお成人の腰骨の左右(足の付根の直上あたり/右イラスト)には、実はシートベルトとほぼ同じ幅のくぼみがあります。そこにベルトをかけるイメージで装着してみてください。ただし、こどもの骨盤形状はまだ成長過程なのでこのくぼみがなく、ベルトをかけられません。お子さんを乗せるときには必ずチャイルドシートを活用しましょう。
こんなところにこだわりも!
近年はワゴンやSUVなどで、シートアレンジが多彩になっていますが、実はこの機能、シートベルトの開発にとってもポイントになります。
ピラーやフロアなど、シートベルトを取り付けられる場所には様々な制約がある中で、どんなシートアレンジでも安全性を確保することが、開発陣の腕の見せ所です。
また、前席と後席のシートベルトは一見すると同じ製品に思えるものですが、座席によりウェビング(帯部)やショルダーアンカーの最適な仕様を選定しています。愛車に乗るときに、ぜひその細部を観察してみてください。
抱っこは厳禁です!
まさに乗員の命綱であるシートベルトは、すべての乗員を守るために設計されています。しかし、お子さんを抱っこして乗るのは絶対にNGです。
衝突時にかかる衝撃の中では、こどもを抱え続けることは人間には不可能です。こどもが前席のシート背面と抱えていた乗員の間にはさまれるかたちになり、押し潰してしまう可能性もあります。お子さんはチャイルドシートに正しく乗せましょう。
また、衝突時にお子さんを確実に拘束できるように、チャイルドシートの選定は体重や身長に合った適切なものを選ぶことが大切です。