木炭を作ることを「炭焼き」とも言うことから、木炭は木を燃やして作ると思っている人が多いかもしれませんが、実際はそうではありません。
そもそも、木炭は炭素のかたまりです。木は主に炭素、酸素、水素からできているので、そこから酸素と水素が抜け、炭素だけになったものが木炭です。
木は高温で熱することで酸素と水素を抜くことができるのですが、直接燃やしてしまうと炭素は酸素と結びついて二酸化炭素となり、水素と酸素は水蒸気となって、木は燃え尽きてしまいます。そして、あとには酸素と結合しなかったカルシウムやマグネシウムなどのミネラルが、灰として残ります。
そこで、“灰”ではなく“炭”にするためには、木を燃やさないように“蒸し焼き”にします。
ただし、蒸すと言ってもセイロ蒸しのように水を張って沸騰させたりするわけではありません。食材を火に直接かけず、フライパンにフタをするなどして加熱する料理方法を蒸し焼きといいますが、木炭を作るときにも密封した状態にしてから高温で熱して蒸し焼きにすることで酸素と水素を抜いていくのです。これが「炭焼き」です。
少し難しい話だったかもしれませんが、木を蒸し焼きにすることで酸素や水素とともに不純物も抜けています。だから木炭は火をつけても煙やニオイがほとんど出ないし、油分もなくなっているので、ゆっくりと長時間燃え続けてくれます。
石油・ガス・電気などが普及するまでは、木炭のこの特性を利用して火鉢や囲炉裏(いろり)、炬燵(こたつ)、行火(あんか)など、暖房器具の燃料として使用されていました。
また日々の料理においても、土間の釜戸で煮炊きするには炎が燃え盛る薪の火力が向いていますが、肉や魚などを焼くときには煙やニオイが食材に付着しない木炭が使われました。
遥か昔から、先人たちはその知恵や技術によって、科学的にも優れた燃料として説明できる木炭を作っていたことには驚かされます。
木炭は、里山で伐採した木を窯(かま)に入れ、高温で蒸し焼きにして作られてきました。ハローウッズでも里山の昔ながらの生活・技術を伝えるために、この炭焼きを行っています。
今でこそ道路沿いや人家の近くに炭窯が造られていますが、昔は伐採した木を山から運び出したり運搬したりするのも人力だったため、炭窯は木を切る場所に近い山の中に造ることがほとんどでした。
この炭窯を造るには石や粘土、水などが必要となりますが、山の中でそれらが全て揃っているような場所はそうそう見つかりません。また、炭焼きには何日もかかるので、窯を風雨などから守るために小屋を建て、そこで寝泊まりしながら窯の番をする必要があります。
そのためのスペースも必要ですから、昔の人たちは山の斜面を切り崩して平地にした場所や、山あいのくぼ地など風を避けられるような場所に小屋を建てて窯を造っていました。
炭窯は、より良い炭を作るために色々な形が考案されているのですが、ハローウッズでは小屋の中に一般的な卵形の窯を造り、「どんぐり窯」と名付けたその窯で炭を焼いています。
窯の内部は炭化室と言われ、横幅が約2mで奥行き約3m、高さは1mほど。その一番奥には、発生した煙を外に逃がすための煙道を設けてあります。窯の底の部分は丸太などで突き固めて平らにしてあり、そこに木炭の材料となるクヌギやコナラを立てた状態で隙間なく詰めていき、天井との隙間には細い枝などを寝かせて詰め込んでいきます。
こうして炭材を詰め終えたら、上部に若干の隙間を残して、石と泥で窯の入り口(焚き口)に壁を作って炭化室を塞ぎます。
炭化室を塞いだら、いよいよ炭を焼きます。窯全体を高温で熱するため、焚き口で3日間ほど薪をガンガン燃やし続けます。これを「火入れ」といい、火入れをしてからは窯の中を覗くことができなくなるので、煙道から出る煙の色で窯の中の状態を判断することになります。
ここが炭焼き職人のウデの見せ所で、見えない窯の中で自然発火した炭材が炎を立てずに焼け続ける“蒸し焼き”の状態を保てるように火力を調整していきます。この作業が木炭の良し悪しを左右すると言っても過言ではありません。
窯の中で蒸し焼きにされている炭材からは水分やガスが抜けはじめ、さらに窯の温度が上がると炭材が焼けて炭になっていきます。うまく蒸し焼きにできていれば、煙の色は火入れをして一晩は黄色い煙が出ますが、その後は煙の色が白から青へと変化していきます。
さらに焼き続け、煙道の煙が透明になった頃には窯の中の温度はおよそ400℃に達しています。そこを見極めて、焚き口も通気口だけを残して石と泥で塞ぎ、煙道にもフタをします。こうして空気の出入りを遮断して、1週間近く更に蒸し焼きにしながら自然に消火するのを待って、木炭が完成となります。
窯が冷えたら焚き口を塞いでいた壁を崩し、窯の中に入って顔も体も真っ黒になりながら木炭を取り出します。今回もうまく炭が焼けているかどうか、この瞬間がいつもワクワク・ドキドキです。
こうしてできた木炭は「黒炭(くろずみ・こくたん)」といわれ、火つきが良くて扱いやすく、値段も安価だったので、暮らしの必需品として欠かすことのできない燃料でした。
また、黒炭は材料にする木によってその断面に柄(模様)の違いが出ます。里山の雑木林で伐採されるクヌギやコナラなどの場合、窯の中央部で作られた木炭はきれいな放射状の割れ目が入っていて、まるで菊の花のような柄になります。
これは「菊炭(きくすみ)」と呼ばれ、黒炭の中でも火力が強くて火持ちも良く、煙も火花も出にくい最高級の炭です。この菊炭は、昔からお茶会などで好んで使われています。
また、木炭には黒炭のほかにも、「白炭(しろずみ・はくたん)」という種類があります。
白炭は、蒸し焼きにした木材を更に高温で燃焼させて不純物を取り除き、黒炭よりも更に炭素の純度を高めた木炭です。最後の消火に使う水分を含んだ“消し粉”という粉が炭の表面に白く残るため、白炭といわれます。
白炭は「備長炭」が有名ですが、叩くと金属音がするほど堅く密度も高いので、火はつきにくいですが燃焼時間は黒炭よりも⾧く、燃焼温度も更に高くなるうえに煙やニオイもほぼ出ない木炭です。しかしそれだけ黒炭よりも高価となり、日用品というよりは、主に料理屋さんなどで利用されてきました。
ハローウッズで作った木炭は、プログラムのなかでバーベキューやダッヂオーブンを使った料理の燃料として使っています。
炭火で焼いて食べる肉は最高!ですよね。炭火を使うと肉が美味しくなるのは、木炭から煙やニオイが出ないこと以外にも、ちゃんと理由があるんです。
みなさんは炭火を使ったバーベキューなどをしていて、手に突き刺さるような熱さを感じたことがありませんか?あの熱さは、遠赤外線によるものです。遠赤外線は物質の分子を振動させて摩擦により発熱させます。地球上の物質はすべて遠赤外線を発しているのですが、炭火が発する遠赤外線の量はガス火の約4倍ともいわれ、それだけ素早く均一にお肉を焼きあげます。しかも炭火には水分が含まれていないですから、表面をカラッと焼いてうま味を閉じ込めてくれるのです。
だからあんなに美味しく肉が焼けるんですね。最近では炭火焼きの料理を出すお店も増えていて、木炭は現代でも欠かすことのできない燃料になっています。
また、「多孔性」といって目に見えない穴が無数に空いている木炭は、その穴でニオイ成分や水分を吸着してくます。木炭が部屋や下駄箱などの脱臭・除湿に使われるのは、この特性を利用したものです。水のろ過も兼ねて木炭をポットにいれておけば、木炭が持つミネラルが水に溶け出してミネラルウォーターができるということも、みなさんご存知かもしれません。
このように、先人の知恵と技術により里山で作り続けられてきた「木炭」は、科学が発達した今もしっかりと活躍しています。
※木炭を燃料として室内で使用する際は、必ず換気を行いましょう。
ハローウッズは42ha(東京ドーム約9個分)の広さがあり、いつでも、誰でも、思いっきり遊べる元気な森です。人と自然が楽しくかかわり合い、自ら体験し、発見できるプログラムをたくさん用意して、みなさんをお待ちしています。
ハローウッズのホームページへ森で伐採した木材の使い道は木炭や薪だけではありません。ハローウッズでは、丸太や枝などを使って、野鳥や昆虫、植物が集まり新しい命を育むタワー「生命の塔」をつくっています。里山でのヒトの営みと生きものたちのつながりを肌で感じながら、森づくりを楽しんでみませんか。
開催日:2020年2月29日(土)~3月1日(日)【1泊2日】、募集締め切り:2020年2月16日(日)。
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静岡県浜松市の浜名湖畔にある細江船外機工場は、自然豊かな「浜名湖の水を、環境を汚さない」にこだわって設立されたHonda船外機のグローバル・マザー工場です。2015年に誕生したHondaWoodsの森は爽やかな湖の風が吹き抜け、豊かな緑にはカブトムシをはじめ様々な昆虫たちがやってきます。
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