植物は、虫や動物たちと違って移動することができません。それなのに、どうやって自分たちが生息する範囲を広げているのか、不思議に思ったことはありませんか?今回は、いまの季節に草むらを歩くと衣服にくっついてくる「くっつきムシ」の構造から、植物たちが生息範囲を広げるための作戦をみてみましょう。
「くっつきムシ」は、動物や毛や人間の衣服にくっついてくる植物の果実のことです。草むらなどで遊んでいるといつの間にか服やズボンにたくさんくっついていたり、散歩中のペットがくっつきムシだらけになってしまって、取り除くのに苦労した方も多いのではないでしょうか。
植物にとって最大の使命は、他の生き物と同様、自分たちの子孫を残すこと。そのために植物は種子(タネ)を付けるのですが、種子は子孫を残すと同時に生息する範囲を広げる“分布拡大”の役割を持っています。
また、種子が親の根元に落ちると親と栄養の奪い合いをすることになってしまいます。それを避けるためにも、親から遠い所に運ばれるように、その種子を覆っている果実には様々な仕掛けが施されています。
くっつきムシがくっつくのも、果実の表面にあるトゲなどでくっついて種子を遠くに運んでもらうためです。ただ、くっつく相手は人間ではなく自然界の生き物。特に動物にくっついて遠い場所へと運ばれることを想定した構造になっています。
日本では約50種類のくっつきムシが見られ、そのくっつき方も様々。今回は、そのなかから代表的なくっつく構造を見てみましょう。
くっつきムシと聞いて真っ先に思い浮かべるのが、全身イガイガのオオオナモミの果実ではないでしょうか。オオオナモミは河原の草むらなどでよく見かけます。
オナモミの仲間のイガイガの先端はカギ状になっていて、これが果実に触れた動物の毛に絡みつきます。一度絡みつくと簡単には外れず、かなり遠くまで運ばれることになります。
しかもこのオオオナモミ、子孫を残す確率を上げるために、もう1つ作戦を秘めています。
オオオナモミの果実を割ってみると中には部屋が2つあり、それぞれに種子が1個ずつ入っています。この2個の種子、実はそのうち1個はその年に芽を出して、もう1個は1年後に芽を出す仕組みになっているらしいのです。発芽の時期をずらすことで、何かの原因で1個目の種子が芽を出せなくても、翌年にもう1度芽を出すチャンスがあるというわけです。
このカギ状の爪で引っかかる構造がヒントになってつくられたのが、「面ファスナー」だといわれています。面ファスナーとは、一般的に「マジックテープ」の名前で知られる、あのベリベリの部分です。
面ファスナーはカギ状のイガイガが並んだ面と細かな毛で覆われた面でできていて、まさにオオオナモミの種子が動物の体にくっつくのと同じ原理です。人間界で大活躍しているこのシステムは、植物の知恵からヒントをもらって生まれたものなのです。
センダングサの仲間は、花が終わった後にくす玉のような形で放射状にたくさんの果実をつけます。1cm前後の果実の先端には2~4本のトゲがあり、これが動物の毛に刺さり込んでくっつきます。しかもそのトゲには釣り針の“カエシ”ように逆向きの細かいトゲが生えていて、簡単には抜け落ちない構造になっています。
センダングサは、原っぱなどを歩くと服にたくさんくっついて人間から嫌がられることが多いくっつきムシです。しかしセンダングサからしてみれば、もともとアテにしていなかった人間がたくさんの果実を運んでくれるのですから、作戦は予想以上に成功しているといえるかもしれません。
くっつきムシは、絡んだり刺さったりするものだけではありません。写真のチヂミザサのように、 “ノギ”といわれる長く伸びた部分からネバネバの粘液を出してくっつく果実もあるんです。
このチヂミザサは地を這うように生えている草花なので、果実は動物の足やお腹、毛がない鳥の足などにも貼りつきます。人間のズボンやクツなどにもくっついてきますが、取り除こうとすると手にもベタベタと貼りつき、ズボンやクツにはネバネバの粘液が残る厄介者です。
どのくっつきムシも、一度くっついたら簡単には振り落とされないようなつくりになっていますよね。これは、自分たちの生息範囲を広げるために、なるべく遠くまで運んでもらうための工夫なのです。
くっつきムシのように、動物を利用して広範囲に種子をまく方法を「動物散布」といいますが、例えば植物が「果物」を実らせるのも動物散布のためです。おいしい果肉と一緒に種子を鳥や動物に食べてもらい、消化されずにフンとともに排出された場所で芽を出すのです。
クルミやドングリ、クリなどは、ネズミやリスに土の中に埋めて貯蔵してもらい、食べ残しや放置されたものが発芽します。表面が固いのは、ネズミやリス以外の貯蔵しない動物に狙われないようにするためだと言われています。
自分で移動ができない植物は、動物散布の他にも風を利用する「風散布」や水を利用する「水散布」など、自然界の様々なものを利用して分布を広げようとしています。
風散布の代表格は、タンポポでしょう。みなさんも知っている通り、綿毛がついた果実が風に乗って飛ばされた先で芽が出ます。そのほか身近な植物では、カエデの果実は翼が風を受けて回転しながら親の木から離れたところに落下します。
クルミは動物散布だけでなく水散布も使って分布を広げます。川沿いに多く生えているクルミは、川に落ちた果実が水に浮いて流され、たどり着いたところで育つのです。
熱帯地域の海辺に生息するココヤシもまた、水の力を利用します。海流に乗って流されて、砂浜に漂着したヤシの実を見たことがあるかもしれません。
動物や風、水など、自然界の力を利用する植物はまだまだたくさんあります。植物は移動できないからこそ、知恵を使って様々な作戦で種子を移動させ、子孫を広く分布させているのです。
森や公園などで見つけた果実や種子がどうしてこんな形をしているのか、推理してみるのも面白いと思いませんか。
●オオオナモミやアメリカセンダングサなど、くっつきムシのなかには繁殖力が強い外来種も存在します。拡散を防ぐために、遊んだ後はしっかりと処分しましょう。
今月の「子どもの森の遊び」では、くっつきムシを使った遊びを紹介しています。是非ご覧ください!
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