こんにちは!日本野生生物研究所の奥山です。里山では、秋から冬にかけて樹木を伐採して森の中に並べておきますが、この切り倒した木には森の虫たちが寄ってきます。特に春を過ぎて暖かくなってからは、たくさんの虫が集まってくるので、伐採木は虫観察に絶好のアイテムなんです。それではどんな虫たちが何をしに来るのか、待ち伏せて見てみましょう。
そもそも人々が里山で木々の伐採を行なってきたのは、薪を作ったり椎茸の原木にしたり、生活の中で森の資源を活用するためです。一見、自然破壊のように思われるかもしれませんが、決してそうではありません。伐採によって老木を間引くことで樹木の若返りが図られ、また伐採木が昆虫たちの産卵場所となって森の生態系維持に役立つなど、伐採は森自体の活性化にも貢献しています。
伐採は主に秋から冬に行われますが、これは地面の雑草が枯れて足元が良くわかるのと、樹木が落葉して水を吸い上げなくなり、伐りやすくなるからです。そして伐採した木は、枝を払って数十cmの長さの丸太状に切り揃え(玉切り)、地面に並べておきます。こうすることで木を乾燥させて、後々の使い勝手を良くするのです。
この伐採木には、多くの虫たちが集まります。春早々から現れるのは、小さなカミキリムシの仲間や小さな甲虫です。見ていると、産卵に来ているようです。メスが木の割れ目や亀裂などに産卵管を差し込み卵を産みに来ています。幼虫が材を食べて育つ虫たちにとっては、ここが貴重な成育場となるのです。
ハローウッズの森の伐採木。枝を払って数十cmの長さの丸太状に切り揃えた「玉切り」にして地面に並べておきます。
ホタルカミキリ:胸が赤、羽根が黒でゲンジボタルに似ているのが名前の由来。産卵のために伐採木に寄ってきます。
ツツゾウムシ:鼻先が像のように長い虫です。幼虫はクヌギやコナラの木を食べて育ちます。
初夏になると、少し大きな甲虫なども現れます。ルリボシカミキリやヤマトタマムシなど、やはり幼虫のころに倒木や枯れ木をエサにして育つ虫です。ちなみに両方とも鮮やかな体の色が有名ですが、タマムシの翅(はね)は死んでも色が変わらないのに対し、ルリボシカミキリのほうは死んだら赤褐色に変色してしまいます。
ルリボシカミキリ:鮮やかなブルーの体色が美しい日本の固有種です。
ヤマトタマムシ:緑色に虹のような筋が入る翅が特徴。お尻の産卵管を差し込んで産卵しています。
ヤマトタマムシが飛び立つ瞬間。翅がキラキラを輝いてこの上なく美しい光景です。
このように、倒木には色々な虫が現れますが、どんな木でもいいわけではなく、虫の種類によって産卵する木は様々です。例えばルリボシカミキリはブナやナラなどに、ウバタマムシはマツに卵を産み付けます。また倒したばかりの木に寄っていく虫から、数年経った朽木に寄っていく虫など、虫の種類によって好む木の状態にも違いがあります。
それでは、虫たちはどうやって自分が産卵する木を見つけるのでしょうか? 実は虫には人間には見えない紫外線が見えます。また虫には方向感覚と匂いを識別する触角があります。虫はこの紫外線を通した目と触角で感じる匂いを頼りに、たくさんの種類がある木の中から自分が産卵する木を間違えず選んでいるのです。
●昆虫の触角
ゾウムシの触角。鼻先が長いので「ゾウムシ」の名がつきましたが、実は昆虫には鼻がありません。身体の横の穴(気門)から空気を取り入れ、触角で匂いを識別します。
アリの触角。昆虫は触角で匂いと振動を敏感に感じ取りますが、この機能を使ってアリはエサの在り処などを仲間と情報交換し合います。
公園や雑木林や里山などで倒木を見かけたら、どんな虫が来ているのか探してみると面白いと思います。また、木の種類で来る虫が違うので、見たい虫の来る木を知ると産卵期にそこで待ち伏せして探すのも楽しいものです。皆さんもぜひ試してみてください。
●そのほかに伐採木や倒木で見つかる虫たち
クリストフコトラカミキリ:黒と黄色の縞模様を持つトラカミキリの一種で、スズメバチに擬態していると言われる虫です。
ヨツスジハナカミキリ:こちらはより細長いアシナガバチ風。倒木などのほか、花にもよく集まります。
ウバタマムシ:主にマツなどの枯れ木や生木を好みます。まれに成虫で越冬するものもいて、冬に見つけることがあります。
コクワガタ:日本で最も多く見かけるクワガタの一種。また色々な朽木に産卵するので幼虫も見つけやすい種類です。