カタクリは、日本では北海道から九州の山地・平地に広く分布し、昔から春の花として親しまれてきた植物です。ブナ・ミズナラ・カエデなど落葉広葉樹林の地面に群生することが多く、早春、森の地表を一面ピンクや薄紫に染める姿は圧巻。ここハローウッズにも「カタクリの沢」と名付けられた群生地があり、毎年咲く見事な花はスタッフたちの春の楽しみの一つになっています。
カタクリが地上に姿を現すのは春先のほんの4~5週間、さらに花をつけるのは2週間ほどの短い期間です。地上に現れている間に葉で光合成して栄養分を蓄え、初夏を迎える頃には葉を枯らして次の春まで地中で休眠状態で過ごします。このような生態では十分な栄養を蓄えるのに時間がかかりますから、カタクリの種が芽を出してから花をつけるまでに8~9年を要すると言われています。花を咲かせるだけの十分な栄養を備えるまでは毎年少しづつ大きく葉だけを地上に広げ、ようやく花を咲かせることができるのです。カタクリが昔から人々の心を捉えてきたのは、単にその花が美しいからというだけではなく、美しい花を目にすることができることの貴重さ、そこに至るまでに経てきた年月の長さを思い、感銘を受けるからかもしれませんね。
そんなカタクリですが、宅地の造成や野草ブームによる大規模な盗採、森林の荒廃と共に生息できる環境が減少しています。それはハローウッズのある茂木町でも例外ではありません。春の里山の象徴ともいえるこのカタクリを保全していくためにも、里山を維持して守っていく活動はとても大切なことなのです。
カタクリが里山に暮らす人々の心に深く入り込んできたのには、もう一つ理由があります。カタクリが里山に根付き群生するためには、人々の里山での活動が不可欠だったからです。
人々が手入れをしていたコナラやクヌギなど落葉広葉樹の里山の森では、燃料となる薪炭を得るために人々は冬に木々を伐採していました。すると切り株から新たな芽が出て成長する萌芽更新により、若く豊かな森が維持され、木々が密集することなく地表にもある程度の余裕が保たれていました。また、堆肥作りのために落ち葉かきをすることで、森の地表面に陽の光が注ぎ込む環境も維持されていたのです。
春、花を咲かせるために地上に出てくるカタクリの花茎の高さは、ほんの15cmほど。周りに背の高い植物が生えていたり、落ち葉や枯草などで地表が埋まっていると、カタクリは十分に光合成することができず、花を咲かせることができません。その点、人々が手入れを行なっている里山の森は、カタクリが地上に姿を現して花を咲かせるのに適した環境なのです。
毎年、背の高い大きな植物が活動を開始しない3月、カタクリは一足先に芽を出し、葉を開き、3月下旬から4月には開花して5月下旬から6月上旬には休眠します。あとは地下20cm~50cmにある球根でじっと耐えて、また来年の春を待ちます。
このような生き方で、カタクリは他の植物と棲み分けをしています。ハローウッズだけでなく、茂木町では100m2~1,000 m2のカタクリの群落を各地で見ることができます。小規模になったとはいえ、昔ながらの里山の手入れ、人の営みが続いているからこそです。
カタクリの鱗茎(球根)からは良質なデンプンがとれます。そもそも料理で使う「片栗粉」はカタクリが語源です。近年は精製量の多いジャガイモやサツマイモから抽出したデンプン粉がほとんどになってしまいましたが、昔はカタクリからとれたデンプンのことを指していました。
また、カタクリや同じ時期に花を咲かせるニリンソウなどの若葉は茹でてお浸しにしたり天ぷらなど、春の山菜として食べられることも多く、里山の人々の食文化を支える植物でもあったのです。皆さんもぜひお試しあれ(ただし、野生のものを採って食べる際は専門家のアドバイスを貰うようにしましょう)。
次にカタクリと昆虫たちの関係について見てみると、両者はお互いの繁栄のために実に見事に手を取り合っていることが分かります。
まだ花が少ない早春の時期、越冬したハチや生まれたばかりのチョウの仲間などが食べ物を求めて里山を飛び回ります。群れて咲くカタクリは、そんな虫たちにとって格好の食事処となります。カタクリの花の奥には非常に大きな蜜腺が発達していますから、彼らは競い合うようにカタクリの花に取り付いて蜜を吸うのです。そしてそのことによって、カタクリの受粉が促されます。カタクリが群れをなして生活することは、カタクリにとっても虫たちにとっても大変都合の良いことなのです。
また、カタクリなどのユリ科の植物や、スミレ科、ケシ科などの種子には、アリに嗜好性のある物質を含むエライオソームと呼ばれる特殊な付属体を備え、種子の分散をはかっています。種子が地面に落ちるとエライオソームがアリを惹きつけ、運搬させるのです。アリは一度種子を巣に運んだ後、再び種子を巣の周辺へ捨ててしまいます。そうしてカタクリは世代を繋ぎ、群落を広げていくのです。
とはいえ、アリがカタクリの種子を運搬する距離はせいぜい5mほどだといわれています。5m先に運ばれた種が芽を出し、そこから10年弱でようやく次の世代が花を咲かせて種をつくり、また5m先へ。気の遠くなるような時間を経て、カタクリは子孫を拡大していくのです。
カタクリ以外にも、先に紹介したニリンソウをはじめ、アズマイチゲなども同じ時期に花を咲かせる植物です。これらの花もカタクリ同様、里山の人の営みがあってこそ花を咲かせることができる植物たちであり、人々の暮らしとともに子孫をつなぎ、繁栄してきた植物たちです。これらの植物の生態や人の暮らしとの関係については、まだ別の機会にご紹介させていただきます。
ハローウッズは42ha(東京ドーム約9個分)の広さがあり、いつでも、誰でも、思いっきり遊べる元気な森です。人と自然が楽しくかかわり合い、自ら体験し、発見できるプログラムをたくさん用意して、皆さんをお待ちしています。
ハローウッズのホームページへ春の陽気を感じる森で、新しい生命を体感できる森づくりワークショップ。毎春、森の手入れをしてニリンソウとカタクリが咲きみだれる沢へ散策に出かけ、春の森を楽しみます。
※森づくりワークショップに参加したことのない方でも、興味のある方なら誰でも気軽にご参加いただけます。
森づくりワークショップページへ
約166haというHonda国内事業所では最大規模の敷地面積を誇る熊本製作所。国内で唯一、Hondaの二輪車を生産するこの工場の周りを取り囲むのは、豊かな自然環境を活かして育てられた広大な森です。地域交流も盛んに行なわれており、機会あるごとに地域に方々がHondaWoods熊本の森に集い、憩います。
熊本県菊池郡大津町平川1500
TEL:(096)293-1111(代表)