届けたいのは究極の「操る喜び」

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Episode 03:スペック表に表れない「軽さ」を求めて

「世界一安全なスーパースポーツ」に、
また一歩近づいた

二輪車には四輪車と違い、通常、前後2系統のブレーキが用意されている。これは、バイクという乗り物のブレーキが「止まる」ということの他に、「挙動を制御する」という役割も持っているからだ。上級者ほど、前後ブレーキ配分を巧みにコントロールしながら姿勢を制御し、しかもタイヤをロックさせることなく最短距離で止まることができる。特に乗り手のテクニックによる差が出やすい、この「ブレーキング」をバイクの側でフォローできないか──。Hondaは長年にわたって取り組み続けてきたこのテーマを、多くの課題を乗り越え、ついにスーパースポーツモデルにまで適用させた。

2009 10代目CBR1000RR

宮城:機能、デザイン、あらゆる面からCBRの原点に立ち返っていったわけですが、誰もが走りを楽しめるという意味で非常に大きな進化を遂げたものがありましたよね。2009年モデルに搭載したスーパースポーツ用電子制御式コンバインドABS。これは本当に、世界一安全に操ることを楽しませてくれるスーパースポーツだなと思いましたよ!

長谷川:ありがとうございます。あれは皆思い入れありますからねえ……。その気になれば1時間でも2時間でも話せますよ(笑)。

永椎:皆最初は、少なくともスタンダード仕様よりも重量が増えるんだから、走りがよくなるわけない……と思っていました。僕も半信半疑。だけどテスト車に乗ったら、そのあまりに自然な作動フィールに『これはありだな』と思いました。

宮城:サーキット走行で、ロックを気にすることなく思いっきりブレーキをかけられるんだから、一般のユーザーがコーナーの進入で冷や汗をかくようなことはまずなくなりましたよね。しかも、サーキットでのスポーツライディングに欠かせない、前後の繊細なブレーキ配分にも対応してくれる。クルマで言えば、1000万円以上するスポーツカーにしか付いていなかったものが、一気に100万円台のクルマに装着されたような衝撃を受けました。

吉井:宇川徹(元MotoGPライダー、現本田技術研究所研究員)にこのテスト車両を乗ってもらったときに、コースを周回して戻ってきた彼に「どうだった?」って聞いたんですよ。そうしたら「僕には関係ないですけど、一般のライダーにはすごくありがたいシステムでしょうね」と言うんです。僕はそれを聞いて「しめしめ」と思いながら、彼の走行データを見てニヤニヤしていたら、宇川が「えっ、もしかしてABS作動してましたか?」って。

元HRCワークスライダー 宮城光

宮城:なるほど、それはすばらしいですね(笑)!GPライダーに気づかせないくらい、自然な作動フィールだということですね。

吉井:ただ単に新機構を載せただけではなくて、従来はサスペンションの近くに搭載していたユニットを車体中心に配置してバネ下重量の増加を抑えるなど、スーパースポーツ本来の運動性能のために、徹底的に造り込みをしました。その結果、黒子に徹してGPライダーに存在を気づかれないほどのものができたのですから、これは技術陣にとって最高の結果だよね、と思いました。これに取り組んで本当によかったです。当時の社長の福井さんの「スーパースポーツモデルにもABSを用意する」という発言からプロジェクトが始まって、いろいろと苦労もしましたけど、結果としてお客様に喜んでもらえて良かったと感じています。

宮城:レースでも使ったらいいんじゃないかと思いますよ。

吉井:レギュレーションで許されているところでは、ちゃんと活躍しているんですよ。ドイツのスーパーバイク選手権では参戦するなりいきなり優勝争いに絡んで、2010年にはシリーズチャンピオンを獲りました。世界耐久選手権でも好結果を残しましたし。

宮城:それをどうして、もっと対外的に言わないんです! Hondaさんはそのへんのアピールがすごくヘタ……(笑)!

吉井:確かに、そうですね……(笑)。でも、レースでの活躍のアピールはともかくとして、バイクの操作の中でも特にテクニックの差が大きく出るブレーキングをバイクの側でサポートできたというのは、“多くの人にスーパースポーツの楽しさを広げる”という意味でも、“原点回帰”と言えるものだったかもしれませんね。

  • Episode 00 「エンジンパワー至上主義」への挑戦
  • Episode 01 スペック表に表れない「軽さ」を求めて
  • Episode 02 公道で真価を発揮するレーシングテクノロジー
  • Episode 03 いまなお輝く「CBR-RRの原点」
  • Episode 04 「操る喜び」は「扱いやすさ」の先にこそ存在する

届けたいのは究極の「操る喜び」

  • 変わらぬ想いと進化し続ける「Honda流アプローチ」
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  • 20年の進化
  • エンジン
  • 車体
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テクノロジーCBR900RR/1000RR