届けたいのは究極の「操る喜び」

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Episode 02:公道で真価を発揮するレーシングテクノロジー

2004 7代目CBR1000RR

2004年。公道を本籍としながらも、そのポテンシャルに注目したエントラントの手によってレースにも活躍の場を広げていたスーパースポーツ、CBR900RRに変化の時が訪れた。ワールドスーパーバイク選手権のレギュレーションが改正され、1000ccまでの4気筒エンジンの使用が許可されたのだ。これを受けて、Hondaもベースとなる車種を、V型2気筒エンジンのVTR1000から並列4気筒エンジンのCBR-RRへとスイッチする決断をする。7代目CBR-RRの開発は、「レーシングユースも見据えたスーパースポーツ」として新たな展開を迎えることとなったのだ。では、いかにして「公道」を軸足に置きながら、レースでも強さを見せられるハードウェアを実現するか?
時を同じくして、世界最高峰の二輪ロードレース、MotoGPでは、4ストローク990ccのレーシングマシン、RC211Vが破竹の勢いで勝利を重ねていた。開発陣は、ここに「公道」と「サーキット」とを繋ぐためのカギがあると考え、RC211VからCBR1000RRへの先進技術のフィードバックに取り組んでいくこととなった。

完成車まとめ 吉井恭一

レースを見据えたからこそ見えたものがある

宮城:2004年の7代目モデルは、ワールドスーパーバイク選手権の排気量が1000ccになったことでベースマシンになったし、スペック上の出力も向上したし、MotoGPマシンからダイレクトな先進技術のフィードバックもありました。ライバルたちに、正攻法で挑むモデルなんだな、と思いました。名称も『CBR1000RR』に変わって、これまでのCBR-RRの文脈だけでは語れないモデルになりましたね。

完成車まとめ 吉井恭一(以下、吉井):たしかに、4気筒は1000ccまでという、ワールドスーパーバイクのレースレギュレーションを見据えたものにはなりました。開発陣の中に「CBRはレースをするためのバイクじゃないよね」という声がなかったと言えば嘘になります。だけど、街中からスポーツ、さらにはレースまでという、これまでのCBRの使われ方を考えたときに、MotoGPで使われている最先端の先進技術を投入するというのは、計り知れないメリットがあるというのも、同時に考えました。

宮城:実際、RC211Vはとんでもなく乗りやすいバイクでしたね。もちろん、レーシングバイクとして、という前提は付くけれど、驚くほどに扱いやすい上に、乗り心地もよかったですから。


RC211V

吉井:CBR1000RRの開発をスタートさせるにあたって、GP500クラスを戦っていたNSR500と、デビューしたばかりのRC211Vに乗せてもらったことがあるんです。NSR500は、僕のレベルでは走り出したらすぐに減速しなくちゃならない。気を抜くとすぐにフロントが持ち上がりそうで、とても加速を楽しむ余裕なんてなかったんです。だけど、RC211Vは驚くべきことに、まるで普通のスポーツバイクみたいにどんどんスロットルを開けて行ける。おまけに、とんでもなくコントローラブルでした。頭の中に、いつだったかのWGPのレースのワンシーン……スズキのRGVガンマに乗るケビン・シュワンツ選手が、鈴鹿のスプーンでブラックマークを引きながら加速していった、あのシーン……それが思い浮かんで、まるで自分でも再現できそうだった。なんとかして、この感覚をたくさんのお客様にお届けしたい。もっと言えば、自分の夢を、自分で叶えてしまおうかな、と……そういう気持ちになったんですね。

宮城:これ以上ないほどの見本としてRC211Vがある、と。いろいろなものを変えていくために、いいタイミングだったわけですね。

吉井:エンジンのパワーが上がろうがなんだろうが、車体全体でそれをいなしてしまえばいい。そんなイメージをRC211Vは与えてくれました。これを市販車づくりに活かせるのは、車体からエンジンからすべてを新設計できる今がチャンスだ。他メーカーからもいろんな1000ccのスーパースポーツが出揃う。それなら、最先端のテクノロジーを活かしていちばん安心して楽しくスポーツできる、Hondaらしいスーパースポーツを、このタイミングでかたちにしようじゃないかと考えたんです。

足まわり設計担当 藤田昌之

レースフィールドで生まれた技術が
公道で活きた

4ストロークのMotoGPマシンは、従来の2ストロークのマシンと比較して車重が重かったり、エンジンブレーキが効きすぎたりと、特性が大きく異なる。これをユーザーがバイクとの一体感を感じながら走らせられるようにするためには、設計の考え方を根本的に変える必要があった。そこでHondaが取り組んだのは、レーシングマシンの基本とも言える“マスの集中”を徹底的に追求し、強力なエンジンブレーキによって発生するスライドを前提とした車体設計をするということだった。この思想を現実のものとするために大きな役割を果たしたのが、新開発の「ユニットプロリンク」だ。

宮城:今、RC211Vからのフィードバックというのが話題に上がりましたけれど。CBR1000RRの革新的な“ユニットプロリンク”というのも、RC211Vからのフィードバックですね。藤田さん、足まわりの担当者として、このモデルにおけるメリットについてお聞かせいただけますか?

足まわり設計担当 藤田昌之(以下、藤田):確かに足まわりのパーツではあるんですが、実はユニットプロリンクっていうのは単純にサスペンションやスイングアームといった、足まわりとしての性能向上のメリットというよりも他の効能の方が多いんです。

宮城:他の効能とは何なのでしょう?

藤田:足まわり単体で考えればスイングアームの重量が増えてバネ下重量が増えます。しかし、ユニットプロリンクのメリットというのは、クッションユニットをフレームで支持しなくても済むので、フレームの剛性の自由度が上がり、フレームのピボット周りの剛性を優先した設計にすることができるんです。

宮城:なるほど。足まわりとかフレームとか、単体としてどうかということではなく、完成車トータルで効果のある技術だということですね。ということは、足まわり設計の藤田さんが苦労した分、フレーム設計の人たちはすごく喜んだんじゃないですか?

藤田:努力もせずにフレーム重量が軽くなって……ね(笑)。ただ、足まわりで泣いたとしても、フレーム設計の自由度は格段に上がりました。これで、旋回性と安定性をこれまでにない高い次元で両立させることが可能になったわけです。

長谷川:本来はサスペンションを取り付けていたアッパークロスパイプが存在する位置に、燃料タンクを配置することができたことによるマスの集中とか、慣性モーメントの最適化ということが可能になりますからね。

宮城:これは、先代のCBR900RR(CBR929RR)やCBR900RR(CBR954RR)が追求したことと通じますね。『どうしたら剛性を上げることなく軽快感のある乗り味を出せるのか』という。CBR1000RRになって、確かに車重は少し重くなったかもしれない。しかし、フレーム設計に自由度が出たから、実際の車重以上に軽快に乗りこなせるということにも当然貢献させられると。

藤田:そうですね。

宮城:新技術ということで言えば、電子制御式のステアリングダンパーも素晴らしかった。僕、青山にあるHondaの本社でCBR1000RRの広報車を借りてすぐに、首都高に乗ったんです。首都高って、路面が荒れているところがあったり、クルマの流れの隙を見て車線変更をしなくてはいけなかったり、お世辞にも走りやすい場所じゃありませんよね。それなのにこんなハイパワーのスーパースポーツであることを感じさせないくらい、走りやすかったことに、驚いたのを覚えてます。

福永:それは嬉しい言葉ですね。どういう場面であっても安心して走れるというところを目指していましたし。このCBR1000RRは、特に高速域と、雨の中では世界一安定し、安心して走れるスーパースポーツだと自負していましたから。

  • Episode 00 「エンジンパワー至上主義」への挑戦
  • Episode 01 スペック表に表れない「軽さ」を求めて
  • Episode 02 公道で真価を発揮するレーシングテクノロジー
  • Episode 03 いまなお輝く「CBR-RRの原点」
  • Episode 04 「操る喜び」は「扱いやすさ」の先にこそ存在する

届けたいのは究極の「操る喜び」

  • 変わらぬ想いと進化し続ける「Honda流アプローチ」
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