届けたいのは究極の「操る喜び」

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Episode 02:スペック表に表れない「軽さ」を求めて

「かっこいい」からやりたかった

シャープな走りを予感させるたたずまい、獲物を狙う野獣のようなワイルド感を湛えた表情、“定位置”だったサイドから、テールカウルの内部へと移動した、センターアップマフラー……。レースユースまでを見据えて向上した走行性能と同時に、魅力的なスタイリングもまた、レーシングフィールドの最前線からフィードバックされた。RC211Vのイメージを色濃く反映させたアピアランスで、開発陣はライダーにいったい何を提供しようと考えたのだろうか。


宮城:このモデルから、マフラーがテールカウルに収められるセンターアップタイプになりましたよね。軽くはないものが車体の中心から離れたところ、しかも高いところにあるのは、運動性能という面で、いろいろな苦労があったんじゃないかと思いますが。どうして採用したんですか?

福永:いいじゃない。文句なくかっこいいんだから!

宮城:いいと思いますよ!僕はそういう言葉を聞きたかった!2008年モデルで定位置に戻っちゃって、残念だったくらいなんですから(笑)。

:もちろん、エンジニアリング的にはいろいろとメリット、デメリットあったと思うし、それぞれの視点で賛否両論あるのは感じてはいました。しかし、時代の最先端を行くスーパースポーツで、ドでっかいマフラーを車体の横からドン!と出すのは、機能・デザイン両面から見てさすがにそろそろなんとかしたいな、と思っていて、できるだけ車体の中に押し込みたかった。スタイリングという観点では大歓迎でした。それに、お客様視点でもMotoGPで勝ち続けているRC211Vの革新のイメージを自分の愛車に投影できるのって、純粋に考えてもすごくワクワクする事だろう、とも思いましたね。

宮城:「かっこよかった」ということはもちろんなんですが、このマフラー、プロテクターがたくさんついてるじゃないですか。これもすごく記憶に残っています。高温になるものが高い位置に付いているので、触れたときに火傷をしてしまわないように……という配慮なのだろうと思うんですが、1g単位で軽さにこだわりながらも、安全マージンを取ることに決して手を抜かないHondaの誠実さは、本当に感心します。

吉井:それはやはり、乗る人、持つ人とその家族みんなが「ハッピー」だと思えるようにしないといけないという思いからですね。スーパースポーツってどんどん性能がアップして、ともすると乗る人も過激な人だと見られるようになってきてしまったじゃないですか。だけど、我々はそれではいやだった。少しでも多くの人に二輪車を理解してもらいながら、ライダーにはより楽しく安全に乗ってもらうということを目標としていました。

宮城:あんなにテールカウルが薄いのに、そこに小物入れを用意していたのも大英断ですね。900ccの時代と違ってヒンジはないし、U字ロックくらいしか入らなかったかもしれないけど、もはや意地のようなものさえ感じましたね。

:そこは、やっぱりCBR-RRのルーツに関わる部分ですからね。ずっと公道を本籍としてきたという。正直、クレイを削っているときは「もういいじゃないか、割り切ったって」という気持ちがなかったといえば嘘になりますけど(笑)。

長谷川:マフラーをセンターアップ化したことで、車体全体で見たときのメリットは計り知れないものがありました。左右の重心オフセットを最適化するということに貢献していましたし、空力特性にも効果がありました。当然ですけど、格好だけじゃないんですよ。エンジン担当者なんか「こんなの格好ばっかりで何のメリットもないね」とか言っていましたが、エキパイの管長が長かったことはうまく活かしていたみたいで、その後の9代目モデルで下に下ろしたときには「管長が長い方がよかったなあ……」ってぼやいてましたから(笑)。

宮城光

インラインフォアのもたらす「非日常」

単気筒から水平対向6気筒まで、Hondaは多くのエンジン形式をラインアップしている。レースの世界でも、V型2気筒、4気筒、5気筒と様々な形式に取り組み、輝かしい結果を残してきた。このように、様々な可能性が存在するその中で、CBR1000RRが選んだのは、インラインフォア──直列4気筒。なぜ、この選択に至ったのだろうか。

福永博文

宮城:この7代目モデルは、レースからのフィードバックがたくさんありますよね。当時から、ちょっと思っていたのは、せっかくならレースを戦っているマシンのエンジン形式を──現在のことで言えばV型4気筒ですけど──それを公道に持ってきてもよかったんじゃないのかな、と。

福永:公道で楽しむスーパースポーツというところを貫くには、V4でもいいけれど、我々はインラインフォアがいいんですよ。

長谷川:多くの方に操ることを楽しんでいただくために必要な、車体のレイアウトにおける自由度が、圧倒的に高い。長年いろいろな可能性を追求してきたからわかるんですが、これはハッキリと言えますね。

吉井:インラインフォア、つまり直4の面白さは、乗っていてすごく“非日常”を感じるところなんです。いろいろなものが安定していて、一定の状態にある“日常”の対極にあるんですね。直4っていうのは、ゆっくり走っているときと、スロットルを半分くらい開けたとき、全開にしたとき……そういうシーンに応じて、エンジンのキャラクターが大きく変わります。80km/hで走っているときのエンジンの感じと、そこから20km/h上がったときとでは、受ける感覚が大きく違うんですよね。対するV4は、常に一定のトルクが出ている感じで力強い反面、エンジンから受ける“スピード感がない”のが特徴です。

宮城:ああ、それわかります。今でも覚えていますが、1985年の8耐のあとに、鈴鹿でロスマンズカラーのRVF750に乗せてもらったんです。そうしたら、それまで乗っていた、空冷直列4気筒のモリワキCBX750Fの感覚で行くと130Rの入り口で止まりきれないんですよ。思ったよりずっとスピードが出ていて。なるほど、確かに時速300km/hの世界になるレースだとV4に分があるのは確かだし、長距離を一気に走るツアラーにも向いている。しかし公道でスポーツをして楽しいのはインラインフォアかもしれないですね。

福永:はい、そのように考えてます。だからこそ、直列4気筒を選んだのです。

  • Episode 00 「エンジンパワー至上主義」への挑戦
  • Episode 01 スペック表に表れない「軽さ」を求めて
  • Episode 02 公道で真価を発揮するレーシングテクノロジー
  • Episode 03 いまなお輝く「CBR-RRの原点」
  • Episode 04 「操る喜び」は「扱いやすさ」の先にこそ存在する

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  • 変わらぬ想いと進化し続ける「Honda流アプローチ」
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テクノロジーCBR900RR/1000RR