届けたいのは究極の「操る喜び」

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Episode 01:スペック表に表れない「軽さ」を求めて

新たな手法で挑んだ「機能美」の追求

600ccクラスの軽量な車体に、ハイパワーなエンジン。そのハードウェア構成は今や、CBR-RRだけの専売特許というわけではなくなった。Hondaの提案した新たなコンセプトを独自に解釈したことで生まれたスーパースポーツたちが、次々にデビュー。このことは、エンジニアだけでなく、デザイナーにも多くの刺激を与えることになった。

岸敏秋

宮城:先ほどデカール1枚までこだわって軽量化をした……という話がありましたが、この2000年モデルではバイクのプロポーション全体からも、これまでのモデルにはないキレとか軽さが表現されていましたよね?

:正直なところを言うと、強力なライバル出現に刺激を受けたという部分がありました。

宮城:なるほど。CBR900RRの成功を受けて、国内各社から続々とスーパースポーツモデルが登場していましたね。

:もちろん、初代から続いてきたCBR900RRのデザインというのは、「軽量・コンパクト・マス集中」というハードウェアの特徴、そこから得られる自由自在な走りの喜びをピュアに表現した、Hondaらしいかたちとして、自信を持って送り出していました。ただ、Hondaが世の中に提案した「軽量・コンパクトなスーパースポーツ」というコンセプトを、ライバルメーカーが独自に解釈したデザインで次々に登場させてくる中で、我々も第二世代としてのフルモデルチェンジに見合うだけのデザインの進化を果たす必要に迫られたんです。

宮城:CBR900RRが世の中に送り出した新しいスーパースポーツの価値というものを認めてくれたからこそ、ライバルたちも、彼らなりの表現を必死に追求したんでしょうね。いや、いい話じゃないですか!レースの世界だってそうですよ。そうやって、お互いがお互いを高め合うことで、我々のようなエンドユーザーの使うものが進化していくんです。

:それまで続けてきたデザインの手法としては、エンジン、フレームなどの骨格の部分と、カウル、タンクなど外装の部分それぞれが、あまりデザイン的にシンクロすることなく、個々にかたちづくられた上で組み合わされ、スーパースポーツとしての一つのプロポーションを造り出すというものでした。ハードウェアとしては最先端だけれど、全体のデザインの手法としてはわりと古典的な流れの延長線上にあったのかな、と。そこで、このモデルから「中身と外装の融合」という考えを取り入れました。たとえばウインドプロテクションやハンドリングというカウルの性能を満たすというときに、外側のカウルの形状だけでそれを実現するのではなくて、内側に収められているものの特長を、積極的に外装に求められる性能に活かすべきだろう、という考え方に改めたのです。結果、ライダーの居住性を犠牲にすることなく、「攻め」た最小のカウルで最大の効果を得ることができましたし、軽量・コンパクトという、このバイクのコンセプトを、造形からも表現できたと思っています。

宮城:なるほど。それがこの2000年モデル、その後に出てきた2002年モデルのシャープなフォルムの背景にある手法なわけですね。初代と手法は違えども、Hondaらしい“機能美”の追求を感じさせる話ですね。

宮城光/永椎敏久

公道で鍛え上げられたCBR-RRの完成形

デビュー以来初のフルモデルチェンジとなった5代目CBR900RR(CBR929RR)。多くの新技術を取り入れるという設計コンセプトは、排気量を954ccまで拡大して2002年にデビューした6代目CBR900RR(CBR954RR)まで引き継がれていくこととなる。期間としては、それほど長いものではなかったかもしれない。しかし、これらのモデルが、20年のCBR-RRの歴史の中で残したものは、とても大きなものだ。

宮城:いま、この5代目CBR900RR(CBR929RR)のお話をいろいろ伺いましたけど、ずいぶんといろいろなことに取り組んでいますよね。

永椎:倒立フォークにピボットレスフレームを採用し、エンジンの排気量も上げた。デザインだって新しくなった。下手をすると、方向性がブレちゃうこともあると思うんですが、このモデルに関しては、新しいことに取り組みながらも“CBR-RR”として、初期のコンセプトからブレないものをつくることができたのだという達成感はありましたよ。

長谷川:実は、レースのことをまったく考えないアプローチで“公道を本籍としたスーパースポーツ”をつくることができたのは5代目となるこの2000年モデルと、その次の2002年モデルが最後かなと。次のモデルからは、ワールドスーパーバイク選手権への参戦も見据えたクルマづくりをすることになりましたからね。2004年モデルにおいても、ここまで積み上げてきた“CBRらしさ”を拠りどころとする原理原則を大切にしながら開発しました。クルマづくりの手法は確かに変わりました。でも、何かに迷ったときに『何g重いの?軽いの?』という、数値的なものは当然として『公道で乗ったときに、一般のライダーが本当に軽いと感じられるの?』『スポーツすること、操ることの喜びをどのくらい感じられるの?』というのが大事な判断基準になるということが、このモデルの開発で、すごくよくわかったんです。

  • Episode 00 「エンジンパワー至上主義」への挑戦
  • Episode 01 スペック表に表れない「軽さ」を求めて
  • Episode 02 公道で真価を発揮するレーシングテクノロジー
  • Episode 03 いまなお輝く「CBR-RRの原点」
  • Episode 04 「操る喜び」は「扱いやすさ」の先にこそ存在する

届けたいのは究極の「操る喜び」

  • 変わらぬ想いと進化し続ける「Honda流アプローチ」
  • 年表
  • 20年の進化
  • エンジン
  • 車体
  • 変わらぬ想いと進化し続ける「Honda流アプローチ」
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テクノロジーCBR900RR/1000RR