届けたいのは究極の「操る喜び」

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Episode 01:スペック表に表れない「軽さ」を求めて

2000 5代目CBR900RR(CBR929RR)

1992年、エンジンパワー至上主義、排気量至上主義であったスーパースポーツのあり方に一石を投じ、「誰もがバイクを操る喜び」を味わえることをめざして登場したCBR900RR。当初は「750」でも「1000」でもない中途半端な数字が敬遠されることを警戒し、敢えて排気量の表示を外した「FireBlade」という名称で販売されたヨーロッパでも、やがて「CBR900RR」の名称が定着。確実にスーパースポーツの新たな価値観を世の中に広めつつあった。
2000年に、初代の想いをさらに研ぎ澄まして登場したのが5代目CBR900RR(CBR929RR)。排気量を拡大し、フューエルインジェクションを採用した新開発エンジンを始め、構成要素の大部分に先進の新技術のアプローチが多く盛り込まれていた──。

車体設計担当 永椎敏久

さらに推し進められた軽量化とコンパクト化

宮城:初代のCBR900RRは、世界に衝撃を与えるくらい軽く、コンパクトにつくられていましたが、その後のモデルチェンジで年々パワフルに、そしてさらに軽くなっていきましたよね。

7代目CBR1000RR開発責任者 福永博文(以下、福永):3代目でエキゾーストパイプをステンレス化したり、フューエルポンプを廃止したりして1kg減。4代目でパーツを8割以上設計し直して約3kgくらい軽くしました。ライバルの登場に合わせて1000cc化も検討したけれど、当時の技術では10kgくらい重くなってしまう。当時は出力の向上に伴うメリットよりも、そっちのデメリットの方が大きかったですね。

宮城:フルモデルチェンジとなる5代目のコンセプトは?

車体設計担当 永椎敏久(以下、永椎):これも変わらないですよね。ライダーに“操る喜び”を味わってもらうこと。そのためのアプローチも、『8耐でRVF750に勝てるように』という目標を掲げた初代と同じで、少しでも軽量、コンパクトにしていくというものでした。ひとつひとつ、真面目に、徹底的に……。当時、パーツの重量の集計というのは私が担当していたんですが、全部のパーツを単体で集めて計ったときと、全部組み上げて計ったときとで、500g違ったんです。それを開発責任者の馬場さんに報告したら『バカモン!』って怒られて……。『でも車体重量から計算すると、全体の0.5%ですよ?』って伝えたら『それでも、その0.5%が大切なんだ!!』って。そのくらい重量にはシビアに取り組んでいました。

宮城:人間の体重に換算してみたら、コーヒーを一杯飲むか、飲まないかくらいの違いですよね(笑)。これ、もしかしたらデカール1枚でも違ってくるのでは?

9代目CBR1000RRデザイナー 岸敏秋(以下、岸):そうですね。どうやったら塗料の重ね塗りの2トーンに頼らず、また少ないデカールでHondaのトリコロールカラーを表現できるのか、というところまでこだわりましたね。

宮城:はあー、量産車としてそれはとんでもない世界ですね!

永椎:このモデルと、その次のCBR900RR(CBR954RR)まではリアのシートがヒンジ構造になっていたんですが、これもグラム単位での軽量化を追求し、デカール1枚で苦労してもらっているときに、無視できない重量です。それで、馬場さんに『いい加減、このシートヒンジやめませんか?』っていうことも提案したんです。そしたら『お前はわかってない。これはCBR900RRのアイデンティティのひとつだ』とまた怒られました(笑)。『どうしてだろう』と思っていたんですが、ある時馬場さんと一緒にCBR900RRでツーリングに行って、リアシートの下に合羽を入れていったんです。ツーリング中、ほとんど無意識にそこからものを出し入れしていたんですが、ふとした瞬間にこの小物入れに意識を向けてみたら、ここがヒンジで開くのは確かにものすごく便利だった。本当に小さなことかもしれないし、これが全てというわけじゃありません。でも公道を本籍とするスーパースポーツを象徴するものだったというのは言えるでしょうね。

5代目CBR900RR LPL代行 長谷川健児

実際のカタログスペックに表れない
「乗り味の軽さ」

5代目CBR900RR(CBR929RR)の車体重量は、エキゾーストパイプの一部やサイレンサーに軽量なチタン材を採用するといった「大技」だけでなく、グラム単位でパーツの軽量化を行う開発陣の血のにじむような努力によって、初代から約15kgもの重量減を実現。2年後にデビューさせた2002年モデルでは、さらに2kgの軽量化を推し進めている。だが、開発陣がこだわったのはそうしたカタログスペック上の軽さにとどまらない。


2002 6代目CBR900RR(CBR954RR)

宮城:このモデルでの特徴としてはスイングアームをメインフレームから分離させるピボットレスフレームが特徴的でしたよね。これをCBRで取り入れた理由というのは?

5代目CBR900RR(CBR929RR) LPL代行 長谷川健児(以下、長谷川):年々パワーが向上してきて、それに対して安定性も高めなくちゃならない。フレームの剛性を高める方向に向かうわけです。でも、レースならともかく、公道での高すぎる剛性というのは、時として乗りにくさにも繋がってしまう。挙動が敏感になりすぎたりとか。

宮城:それはありますね。

長谷川:それで、安定性を高めるための別の手法として、スイングアームをメインのフレームではなく、クランクケースに取り付けたピボットで受けるピボットレスフレームという仕組みを取り入れようと考えたんです。馬場さんは「どじょう」と呼んでいましたけど、適度にリア周りを動かし安定性を出しました。剛性をむやみに高めることなく、スーパースポーツに必要な操縦安定性と、さらに実際の重量よりも軽く感じられるような乗り味を出そうと。この5代目でチャレンジをして、その次の2002年モデルで、完全にモノにできたかなと思います。

宮城:なるほど。年々パフォーマンスは向上していったけれど、それを楽しむステージはあくまでも公道である、というCBRのコンセプトをより明確にするための試みだったわけですね。

  • Episode 00 「エンジンパワー至上主義」への挑戦
  • Episode 01 スペック表に表れない「軽さ」を求めて
  • Episode 02 公道で真価を発揮するレーシングテクノロジー
  • Episode 03 いまなお輝く「CBR-RRの原点」
  • Episode 04 「操る喜び」は「扱いやすさ」の先にこそ存在する

届けたいのは究極の「操る喜び」

  • 変わらぬ想いと進化し続ける「Honda流アプローチ」
  • 年表
  • 20年の進化
  • エンジン
  • 車体
  • 変わらぬ想いと進化し続ける「Honda流アプローチ」
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テクノロジーCBR900RR/1000RR