Cub Stories
地域のニーズに合わせ
世界各国を駆けるカブシリーズ
地球は北緯80度から南緯60度まで200近い国がある。すべての国でカブが走っているかどうかは正確にわからないが、北はアラスカ、カナダ、スウェーデン、南はアルゼンチン、南アフリカでカブを販売している。世界各国でカブに乗る人びとがいる。
Hondaの海外生産はベルギーから始まった
Hondaがヨーロッパに初めて生産工場を建設し稼働したのは1963年で、それはベルギーであった。このベルギー工場で最初に製造したのはスーパーカブC100であった。しかし小型の二輪車、とりわけ足こぎペダル付きのモペッドがくまなく普及していた当時のヨーロッパでは、それらに比べればやや大きなスーパーカブが抜きん出た存在感を示すまでには至らなかった。
そこでベルギー工場は大胆にも、ポートカブC240をベースに開発された足こぎペダル付きモペッドC310を製造した。どのような場所であっても、その土地で暮らす人々の生活に役立つモビリティーを提供するのが当時からホンダのフィロソフィーだからである。
1963年C310


様々な困難を乗り越え、1962年に日本の二輪メーカーとして初めてEEC(欧州経済共同体。後のEU・欧州連合)域内で現地生産を実現するためにベルギー・ホンダを設立。エンジンと一部の部品以外は現地で調達、ノックダウン生産を開始した。C310はポートカブC240をベースに、当時のヨーロッパで販売されていた二輪車の約8割を占めていたモペッド(50cc以下のペダル付きバイク)に仕立てたモデル。レッグシールドの上に燃料タンクが設けられるなど、レイアウトやデザイン、装備はヨーロッパの人々の趣向に合わせた極めて簡素な作り。ミッションは自動遠心クラッチの3段変速で、操作は左グリップでのハンドチェンジ。リアブレーキも自転車のようにハンドル側に備わる。
国民性にあったカブを開発したブラジル
南米大陸のブラジルでは、1990年代半ばになってからカブが庶民生活に欠かせないモビリティーになった。80年代の不況と悪性インフレを克服したブラジルは、90年代半ばになると経済発展へと向かうが、公共交通が充実していなかった。便利で廉価でタフなモビリティーが必要になっていたが、それがなかったのだ。
ブラジルでは、当初スーパーカブの100ccモデルをタイから輸入し販売したものの、成功には至らなかった。徹底的に調べて分かったことは、使い勝手は評価されていたが、見た目が古く感じられ好みに合わないことと、治安の悪さから荷物を見えないようにしたい、というニーズがあることだった。
そこでブラジル・ホンダを中心に企画・開発を進め誕生したのがBizである。名称には、「ブラジルのための」という気持ちが込められている。女性をメインユーザーとして意識したスマートなシルエットのカブで、しかもシートの下にヘルメットが入る収納スペースがあった。カッコいいスタイルで、おまけに荷物が収納できる。Bizがベストセラーになったことは言うまでもないだろう。
1998年C100Biz


モト・ホンダ・ダ・アマゾニアは1977年に完成し、CG125などを生産してきた。1998年より独自のモデル・C100Bizをリリース。4速ミッションの100ccエンジン(HA07E型)を搭載し、流麗なボディカバーをまとう。最大の特徴はフロント17インチ(60/100-17)、リア14インチ(80/100-14)というカブシリーズとしては異例となる前後異径サイズのタイヤを履いていることと、シート下に最大10kgまでのラゲッジスペースも設けられる点。カブと昨今のスクーターとのハイブリッド的存在ともいえる。ちなみに「Biz」はスポークホイール仕様で、キャストホイール仕様の「PLUS」も存在する。
郵便配達専用モデルを導入したオーストラリア
国営の公共機関がカブを使って国民サービスをする国もある。オーストラリアでは、郵政公社オーストラリア・ポストが郵便配達にカブを使っていることがよく知られている。
オーストラリア・ポストの郵便配達カブは、古くはハンターカブCT110ベースの専用車だったが、現在ではスーパーカブC110ベースの専用車が導入されている。オーストラリアだけではなく、南半球のオセアニア地域ではニュージーランドなど郵便配達にカブを使っている国が他にもいくつかある。
また、オーストラリアをはじめとして農園管理用のモビリティーにハンターカブを使っていた国々もある。カブはオセアニア地域において、働くモビリティーとして愛されている。
2005年CT110 POSTOFFICE


オーストラリアの郵便事業を担う国営企業(公社)「オーストラリア・ポストオフィス」に採用された郵便配達バイクは、北米ではレジャー・バイクとして、オセアニア地区ではアグリカルチャー・バイクとして親しまれたCT110がベース。配達業務に適した前後大型バスケット、もしくは写真のようなバッグ、リアケースを装備。オセアニア向けCT110はフルカバータイプのチェーンケースを採用するが、ポストオフィス仕様は北米仕様などと同じオープンタイプとなる。ヘッドライトケースから独立したスピードメーター、ガードパイプ、小型テールランプなどの違いが見られるが、最も大きな違いは12V電装、副変速をもたない4速ミッション。IRC製のタイヤはサイズこそ同じだがブロックパターンの「FB3」ではなく「3R」を純正採用。現在は新型スーパーカブベースのモデルが導入されている。
Hondaの高品質で広く浸透した中国
中国では、80年代から徐々に国営企業の一部民営化や、工業製品の生産と多様化が始まった。ホンダは1981年の嘉陵工業への技術提供を行うことで、ユーザーとの関係を早くから築き始めている。
90年代初頭から、100ccエンジンのカブモデルの製造技術提供が行われた。
その後、ホンダと中国企業の合弁会社である新大洲本田有限公司で、2002年から生産、販売されたWave100はベストセラーモデルとなった。
寒冷地での使用を考慮した仕様としてキャブレターヒーターなどの設定がなされた。特に農村部に住む人びとの日常の足となり、男性が出稼ぎで留守がちな家庭で、使用頻度の高い女性や高齢者にとって乗りやすく、メンテナンスも簡単で壊れにくいと好評を得ている。
2004年威武(ウェイブ)


中国は、アセアン諸国に比べれば、比較的最近である2002年から合弁会社・新大洲本田摩托有限公司 にてカブの生産を開始した。このモデルは威武(ウェイブ)の名前で、中国国内で販売される他、世界各国へも輸出されている。その車名通り、アセアンのWaveと同様の先鋭的フォルムのボディに4速ミッションの100ccエンジンを搭載。レッグシールド内にフロントフラッシャーを内蔵、ギアポジションインジケーターも備わる。写真のキャストホイール仕様の他、スポークホイール仕様もラインナップされていた。