Cub Stories
仕様に合わせバリエーションを展開
通勤通学、ビジネス、レジャーと日本中のあらゆるシーンに密着し定着したスーパーカブ。さらなる需要に応えるため、いろいろなバリエーションモデルが次々に花開く。第2回は需要に特化したバリエーションモデルと、史上最強のスーパーカブと呼ばれたモデルをご紹介。
新聞配達に特化した黄色いスーパーカブ
1971年ニュースカブC90M
自動遠心式によりクラッチ操作から解放されるなど、スーパーカブは誕生当初から配達業務に配慮された作りであった。自動遠心クラッチの採用は、開発中にお蕎麦屋さんの出前持ちが乗るバイクというイメージを持っていた本田宗一郎のアイデアによるものだと言われている。
1961年には全日本自動車ショー(東京モーターショー)に於いて、前後左右に新聞を各50部ずつ収納できる筒状バスケットを装着したスーパーカブC100新聞配達仕様を、今でいう参考出品的モデルとして展示。そんな配達業務に特化したスーパーカブが実際に市販されるのは、高度経済成長と共に新聞配達の部数もエリアも拡大したことで省力化、効率化を図りたい日本新聞協会、新聞配達省力化委員会の協力要請を受けてからのこと。
1971年に誕生した「ニュースカブ」は、フロントと左右リアのバッグと大型リアキャリアに合計300〜350部の新聞が積載可能となり、輸送力のアップに伴い大型サイドスタンド、強化ブレーキなども採用。ミッションは1速から2速へワンモーションでシフトできるボトムニュートラルとなった。車体色は朝晩の薄暗い時でも見えやすいようブライトイエローに。ニュースカブは50、70、90に設定され、すべてセル付きであった。


リアキャリア
リアキャリアは大型で、シート側にはストッパーも備わる。フラッシャーもテールランプ側に移動。布製のバッグはオプションだった。

フロントホイール
フロントブレーキは耐久性を向上させた強化型を採用。スタンダードモデル同様、90にはクロームメッキのカバーが備わる。

サイドスタンド
荷重を考慮し、地面との接地面積の広い大型サイドスタンド、N-1-2-3のシフトパターンも専用装備。
郵便配達に特化した赤いスーパーカブ
1973年スーパーカブデリバリーMD50
それまでの郵便配達業務は自転車やスクーターが使用されてきたが、日本の経済成長と共に取扱量も増大すると、高い耐久性、信頼性をもった配達車が求められた。当時の郵政省は各メーカーに郵便配達専用モデルの開発を打診。もちろん、その中にホンダも含まれていた。
ホンダは、エンジンのOHC化などで更なる耐久性を得たスーパーカブをベースに郵政省向け特別車を1967年頃に開発。当初は大型キャリアを装着し、ヘッドライトをハイマウントにした程度の変更であった。その後、現場の声を反映し、最初の郵政省向け・MD(メール・デリバリー)が登場したのは1971年のこと。
90モデルをベースにテレスコピックのフロントフォーク、パイプのハンドルバーなどが採用されたが、通常のスーパーカブと最も異なるのは14インチの小径タイヤを履いていること。また、使用する地域などに応じてキャブヒーターやグリップヒーターなども装備されていた。90に対し積載量は限られるものの、免許証の関係でより多くの人が運転できる50モデルのMDは同様の装備で1973年に登場。以降、年々改良が重ねられた。数は少なくなったが、初代ベースのMDシリーズは今もその姿を見ることができる。


ヘッドライト
ハイマウントされたヘッドライトはスピードメーターと一体に。フロントキャリアは鞄をワンタッチでかけられるようになっている。

メーター
メーターはホンダ他車種でも見られる逆三角形型。バーハンドルは郵政仕様の特徴。右フラッシャースイッチは横スライド式。

フロントホイール
これまた郵政仕様の特徴である14インチタイヤとテレスコピックのフォーク。チェーンがかけやすいよう、フェンダーとのクリアランスも確保。
ハイパワーで好燃費、エコノパワー・エンジン
1982年スーパーカブ50SDX(赤カブ)
1980年代に入ると、初代C100の登場からすでに20年以上経っていたスーパーカブにも変化の時代が訪れる。第二次オイルショックによって“省エネ”が叫ばれ、もともと経済性に優れるスーパーカブ50ではあったが、燃焼室の形状や吸排気系の改良、フリクションロスの低減を施し燃費と出力の向上を図ったエコノパワー・エンジンが新たに開発された。この新エンジンはついにリッターあたり105kmという低燃費を実現した。
1982年にはスーパーカブ50史上最強となる5.5PSの出力と、リッター150kmの更なる低燃費を実現したエンジンを、ヘッドライトをはじめとする当時流行の“角型”デザインを採用したボディに搭載する50SDXが登場。
燃費向上の歩みは留まることなく、翌1983年には、なんとリッター180kmにまで到達する。写真のスーパーカブは、リッター150kmを達成した1982年のスーパーカブ50SDXを鮮やかなモンツァレッド、エンジンは黒塗りとして、専用のシートやバックミラーを装備したバリエーションモデルの赤カブ。


ヘッドライト
スタンダードのスーパーカブとは対照的に、顔とも言えるヘッドライトやフラッシャー、ミラーなどあらゆるパーツが角デザインとなったグレードがSDX。

メーター
角型メーターには電気式の燃料計を内蔵。イグニッションのキーシリンダーもメーター下に備わる。右フラッシャースイッチは伝統の縦スライド式。

テールランプ
ボディのデザインと統合された角型テールランプを採用。リアキャリアのゴムマットは、写真の“赤カブ”に特別装備。
14インチの小柄なスーパーカブ
1997年リトルカブ
1980年代中盤以降のスーパーカブは大きなモデルチェンジもなく、電装系12V化、メンテナンスフリー・バッテリー、タフアップチューブの採用、左ミラーや燃料計の追加装備など、熟成化の安定時代を過ごす。
1990年代の中頃になると、バイクやクルマに懐古趣味を施すいわゆる“レトロブーム”が到来。すでに一部愛好家は注目していたが、レトロな雰囲気を漂わせていたスーパーカブに対し、古いものが新鮮に見える若者も注目。ファッションアイテムとしてスーパーカブが脚光を浴びることになる。
そして1997年、突然変化は訪れた。エンジンやフレーム、デザインなどの基本構造はそのままに前後タイヤを14インチ化し、足着き性や乗り降り、取り回しを向上させた「リトルカブ」が誕生する。ただのカワイイ&オシャレなだけではなく、かもめハンドル風のハンドルカバー形状やボトムリンクのフロントサス、プレスフレームに鉄のチェーンカバー、縦型メーター、そして縦型のフラッシャースイッチなど、今となっては唯一、オリジナルスタイルを継承するスーパーカブ系モデルとなっている。


ハンドル
1971年に登場したデラックスモデルの通称“かもめハンドル”を彷彿とさせるフロントまわり。フラッシャーも小型に。

メーター
メーターはスーパーカブ伝統の形状を継承。右にあるフラッシャースイッチもスーパーカブ伝統の縦スライド式。

フロントホイール
14インチタイヤにボトムリンクサスという組み合わせ。小径タイヤによって足つき性が向上、女性から高い支持を得る。
ニーズに応え設計された新聞配達用スーパーカブ
2005年プレスカブ50デラックス
1971年に新聞配達に特化した仕様が施されたニュースカブがリリースされたものの、車両重量の重さや車両価格の高さなどもあり、業界に広く浸透するまでには至らなかった。しかし、スーパーカブが全国の新聞配達業務で活躍していたのも事実であった。
1980年代半ば頃、発祥は諸説あるが、前カゴに新聞を積んだときにヘッドライト光が反射しないように前カゴの前に移設する、新聞販売店独自のカスタム仕様が全国的に広まっていた。郵政省向けスーパーカブのように、現場の声こそ最善とばかりに、前カゴの前にサブヘッドライトを装着したプレスカブが1988年に登場する。
トップから常時ニュートラルに入るロータリーミッション、大型リアキャリア、大径ドラムブレーキ、大型サイドスタンド等を装備。車両重量は8kg増、車両価格は15000円高に抑えられる。ついにプレスカブは新聞配達仕様の決定打となり、最新型はネーミングをスーパーカブ・プロとしながら、その志は今日に受け継がれている。


ポジションランプ
本来のヘッドライト部は、配達順路メモなどを確認するのに便利なポジションランプ(手元灯)となる(1988年のプレスカブ初期モデル以外)。

ヘッドライト&フラッシャー
1989年以降のプレスカブは、フラッシャーの取り付け部が、ヘッドライトの付いたカゴに移動。レンズも他車種で見られる角型タイプに変更された。

メーター
プレスカブは走行中でもニュートラルにシフトできるため、3速のギアポジションランプが備わる。左側の赤い大きなスイッチはデラックスに標準装備されたグリップヒータースイッチ。