


2025.06.26
ハローウッズ キャスト
奥山 英治
関東地方が梅雨入りしたと思ったら、沖縄はもう梅雨明けしたとのこと。いよいよ夏が目の前までやってきています。そんな中、ハローウッズに嬉しいニュースが飛び込んできました。数年ぶりに「タガメ」が姿を現したという報告が入ったのです。
「タガメ」は昆虫類カメムシ目コオイムシ科、体長45~70mm、水の中で暮らすカメムシの仲間です。栃木県にあるモビリティリゾートもてぎには、初夏から夏にかけてこのタガメがごくまれに飛んできます。産卵のために水場を求めてやってくるのです。
日本のタガメは絶滅危惧種に指定されているほど貴重な水生昆虫です。モビリティリゾートもてぎにあるハローウッズの森には、田んぼ、池や沼が存在します。そんな水場に、今年、数年ぶりタガメが飛んできました。先に書いたとおり貴重な昆虫ですから、ハローウッズではなんとか産卵させて少しでも数を増やしたいと考え、ハローウッズの水生生物研究室でオス・メスを確保して飼育することにしました。
最初に確保したのは70mmほどのメス。これを環境を整備した水槽に入れて、次はオス探し。場内の水場を探し回ると、乗り物のアトラクションの池でオスを見つけました。オスはメスより小さく、捕まえたのは50mmほどの大きさ。これも水槽に入れて飼育をスタートしました。
ハローウッズの田んぼ
水の中で生活するタガメ
これは今回捕まえたタガメではなく、以前別のタガメを捕まえた際に撮影したもの。カブトムシ級の大きな昆虫であることが分かります。
2匹を一緒に飼育すること4日目、オスとメスは水槽にセットした木の枝に登り、水から出て交尾を始めました。メスは卵を産みながら何回か交尾を繰り返し、90粒近くの卵を産んでくれました。
卵を産んでくれたメスを別の水槽に移し、ふ化までオスだけにしました。以前メスが自分で産んだ卵をかきむしり、全てを水に沈めて殺してしまったことがあったからです。一方、タガメのオスは卵を敵から守ったり、カラカラにならないように水をかけたりして大切に育ててくれます。
強い日差しから卵を守るオス
オスが育てること6日、ふ化が始まりました。タガメの赤ちゃんはほぼ一斉に生まれて水に落ちます。生まれたては淡い黄色の体色で数時間経つと黒っぽく変化します。
生まれたての幼虫
ふ化してから数時間経った幼虫
模様がつくとさっそくエサを獲るようになるのですが、タガメはなんと同じ卵から生まれた兄弟もエサにしてしまいます。例えば卵から80匹生まれても、幼虫同士で食べ合って1日で40匹以下になる事があります。自然界でも共食いをして育っているのです。
研究室では生まれて色がつくと、共食いされないように研究室周辺にある池に分散して放流します。産卵したメスは別で飼育して、またオスのところへ戻します。すると2日後また交尾をして、今度は30粒ほどの卵を産みました。
ふ化したタガメは、水に落ちた虫やオタマジャクシなどを捕食し、5回脱皮を繰り返して成虫になります。エサの状況や水温でも差がありますが、成虫になるまでの期間はおおよそ2カ月前後です。しかし田んぼで育つタガメは、共食いでそれほど多くは親になれません。田んぼはエサが多い環境ですが、それでも横にいる仲間をエサにしてしまうのです。
オタマジャクシを食べるタガメの幼虫
成虫のタガメはカエルも食べてしまいます
現在、日本のタガメの生息地は減っています。飼育などでたくさん増やして自然界に放しても、生きていける環境がなければ育ちません。タガメは田んぼやその周辺の水場で暮らす生きものです。水田の環境が変わると、そこに住む生きものたちにも影響が出ます。田んぼで暮らす生きものがこの先どうなるのかは人間次第です。できれば今のままの環境を守りたいものですがなかなか難しいのが現実です。
昔は、どこの田んぼでもたくさんいたタガメが生息していました。大きくてかっこいいタガメは水生昆虫の王様。森の王様カブトムシに負けないくらい人気のある虫です。昔のようにどこの田んぼでも見られるようになってほしいものですね。