「メダカの学校は~川のなか~」と童謡でも歌われるように、メダカは古くから私たち日本人に親しまれてきた魚です。里山の小川や田んぼ、小さな池や沼など、日本の至るところでその姿を見ることができます。「メダカ」の名前は目が顔の高い所にあることから昔の江戸付近で「目高」と呼ばれ始めたのがその由来と言われていますが、日本各地には「アブラコ、ウルメ、カンコロ、コメンジャコ、ザッコ、ゾナメ、メンザ、メンパチ」など、実に5,000近いメダカの地方名があります。
メダカ属の魚は、日本だけでなく中国、台湾、朝鮮半島、インドネシア、ベトナムなど東アジアから東南アジアにかけて分布して20数種類が分布しており、日本にいる種類は「クロメダカ(または二ホンメダカ)」と呼ばれてきました。
しかしごく最近、クロメダカはさらに2種類に分かれるという説が登場し、これが通説になりつつあります。青森県から兵庫県日本海側にかけて分布する「キタノメダカ」と、兵庫県以西の日本海側、岩手県以南の太平洋側、南西諸島に分布する「ミナミメダカ」です。このことが書かれた論文が出版されたのが2012年ですから、本当にごく最近のことです。
メダカは繁殖期が非常に長い魚です。最低温度が15℃以上、日照時間が13時間以上であれば繁殖するため、おおよそ春から秋にかけて、地域によっては1年の半分近い期間が繁殖期になります。特に田んぼに水が張られて田植えが終わった初夏になると、田んぼに水を引く水路などで盛んに産卵するようになります。
メダカの産卵は早朝からはじまります。まずオスは卵でおなかの大きくなったメスを探し、見つけると追いかけてカップルになろうとします。メスがこれに合意すると2匹は一緒に水底に沈んでいき、オスは背びれと尻びれでメスをしっかり抱きます。そのためオスの背ビレと尻ビレはメスと形状が異なり、メスを抱きやすくなっています。
抱き合いながら沈んでいくと、オスは体を震わせてメスに産卵を促し、メスが産卵すると自分も精子を放出して受精が行なわれます。ここで特徴的なのは、普通の魚と違ってメスの体にまだ卵が付いているうちにオスが精子をかけること。これは確実に自分の子孫を残すためだと言われています。
メスが1回に産む卵の数は10~30個ほど。卵には付着毛が生えていて、これがからみあって卵塊をつくり、メスは卵塊を腹につけたまましばらく泳ぎまわります。そして水草に付着毛のついた卵をからみつかせ、産みつけていきます。
繁殖期の間、メダカはこの産卵を毎日のように行ない、これが20日ほど続きます。卵は透明なので、飼っているメダカであれば虫メガネなどを使って卵の中でメダカが育っていく様子を観察することも可能。温かい水で順調に育てば、受精から10日前後でふ化します。
メダカは江戸時代の文献に登場するほど日本では古くから観賞用の魚として親しまれてきましたが、これには、小さくて可愛く、飼いやすいという理由のほか、自分ごのみの色や形をしたメダカを品種改良で作り上げることがある種のブームになったことも理由に挙げられます。
古くから知られる改良品種は「ヒメダカ」という種類で、これは江戸時代以前から存在したと言われています。通常のメダカと違い、体が黄色がかった淡いオレンジ色をしていますが、元々は野生のメダカが持つ黒色素胞が無くなり黄色色素胞が強く現れた突然変異種です。これをもっと鮮やかな赤に近づけるように他のメダカとかけ合わせたりする品種改良が行なわれたのです。
近年のメダカブームも、この品種改良がひとつのきっかけになっています。ヒメダカのように色を追求するばかりでなく、優雅に揺らめく長いヒレのメダカや宝石のように輝くラメのメダカなど、現代のメダカは実に多様な種類が生み出され、愛好家たちを楽しませています。
しかし、ここで注意しなければならないのは、これら人工的に作られたメダカを自然界に放流してはいけないということ。これら品種改良種を自然に解き放つと、野生のメダカと交配して原種であるキタノメダカやミナミメダカが絶滅する危険さえあるのです。飼育して増えたからといって決して自然界へ放たないこと。このことをしっかり守ってメダカとふれあっていきましょう。