2023.10.24
ハローウッズ キャスト
奥山 英治
夏の暑さが終わり、朝夕が冷え込むようになってきました。田んぼでは稲刈りも終わり、生きものの賑やかさも終わろうとしています。そんな田んぼでせっせと産卵しているトンボがいます。秋の虫の代名詞「赤トンボ」です。今回は赤トンボの産卵シーンをスローで収録しました!
私たちが「赤トンボ」と呼んでいるトンボは1種類ではありません。「赤トンボ」は通称で、身体の赤いトンボをまとめてそう呼んでおり、実は「赤トンボ」は何種類も存在します。
これら「赤トンボ」の中でもっとも有名なのは、なんといっても次に紹介する「ナツアカネ」と「アキアカネ」です。
たいていの赤トンボは水辺を好み、池や沼、小川や田んぼなどの周辺に生息しています。特に人里近い「田んぼ」周辺でよく見かける「ナツアカネ」「アキアカネ」は、もっとも人間たちに馴染みの深い赤トンボだと言えるでしょう。
「ナツアカネ」「アキアカネ」は、田んぼで産卵し、田んぼで幼虫になり田んぼで成虫になります。つまり一生を田んぼと関わって生きていくトンボです。そのため、田んぼのシステムに合わせた生態を持っています。
ほとんどのトンボは産卵後数日で幼虫(ヤゴ)に成長しますが、アキアカネは平均180日、ナツアカネで平均165日、孵化までに日数がかかります。これを田んぼの環境で考えると水を抜かれて稲刈りをした田んぼで産卵し、冬の間は卵の状態で水の無い田んぼの寒さをしのぎ、田植えの水張りと同時に孵化がはじまるシステムなのです。
9~11月の秋の季節になると、トンボは交尾して産卵します。交尾する際は、オスが腹部末端にあるハサミ状の把握器でメスの頭部や胸部をしっかりつかまえます。メスは腹部を前方へ折り曲げて、腹部末端をオスにくっつけることによって交尾が成立します。この交尾の姿はオスとメスとでハート形を形成する独特な形をしています。
交尾が終わると、そのまま産卵に入ります。他の昆虫はメスだけで産卵することが多いですが、トンボはオスとメスが連結したまま産卵を行ないます。これは、メスを離してしまうと他のオスが受精した卵をメスの腹部から掻き出してしまうため、オスは産卵が終わるまでメスから離れず、自分の子孫を守っているためだと言われています。
同じ産卵でも、ナツアカネとアキアカネでは、やり方がちょっと異なります。アキアカネは湿り気のある泥や田んぼの水たまりに打ち付けるように産卵するので、これを「連結打泥産卵(れんけつだでいさんらん)」または「連結打水産卵(れんけつだすいさんらん)」といいます。一方、ナツアカネは卵を空中から田んぼへばら撒くように産卵します。これを「連結打空産卵(れんけつだくうさんらん)」と言います。
打泥産卵は確実に泥に産卵できますが、低く飛ぶ必要があるため、カエルなどに襲われてしまうリスクがあります。また打空産卵は、敵に襲われないかわりに、確実に卵を泥に落とすことができるとは言えない方法です。これらの様子を最初の動画でスローでじっくり見ることができますので、ぜひご覧ください。
田んぼを利用して生きる赤トンボ。元々は湿地や沼で生きてきた赤トンボが、人が稲を育てる田んぼの環境で上手に生きられるように順応してきたのです。この秋、そんな赤トンボの姿を田んぼでじっくり見てみてください。