ハローウッズのキャンプやカヌー体験プログラムが行われる那珂川。
ハローウッズの近くを流れる関東随一の清流・那珂川(なかがわ)は、アユの河川別漁獲高全国1位を誇るアユのメッカです。那珂川とその支流の逆川(さかがわ)では、毎年春から夏にかけてアユの稚魚が遡上(そじょう)する姿が多く見られます。
アユは川魚として有名ですが、アユの仔魚は海で過ごすことをご存知の方は少ないかもしれません。那珂川のアユの成魚は夏の終わりから秋にかけて川を下り、中・下流域の砂礫底に産卵します。2週間ほどで孵化した仔魚は海へ下り、河口域の低層や砂浜の波打ち際、沖合の表層といった沿岸域で主に動物性のプランクトンなどを食べて成長し、翌年の春、ちょうど海水と川の水温が同じぐらいになると川を上るのです。
那珂川は、栃木県の那須岳山麓に始まり茨城県のひたちなか市付近で海に出る一級河川です。
産卵のために川を下るアユの習性を利用し、川の中に簗(やな)を組んでアユを捕る簗漁。
那珂川河口の開門橋。秋に孵化したアユは、ここを下り翌年の春まで海周辺で生活します。
河口付近で生活するアユの仔魚は、動物性プランクトンを食べて成長し、遡上に備えます。
ちなみにアユには香魚(こうぎょ)や年魚(ねんぎょ)などの別称がありますが、香魚は川を上ったアユが川底の石や岩盤に付着する珪藻や藍藻を食べることで香りと味が良くなることから付いた名前です。また、年魚は秋に河口に下り産卵を終えると死んでいく寿命が1年の魚であることから付いた名前です。
そんなアユの遡上が今年那珂川で確認されたのは、去年より6日早い3月19日。調査が始まった1989年以降の32年間で最も早かったそうですが、今年も多くのアユが那珂川を上ってきています。
アユの塩焼きはハローウッズのイベントでも人気メニュー。
香りと旨味がしみこんだ鮎めしは栃木県の伝統的な郷土料理です。
那珂川だけではありません。近隣を流れる鬼怒川や久慈川もアユが有名で、釣り人が選ぶ「天然アユがのぼる100名川」に選ばれています。またアユとともにサケが遡上することでも知られており、その豊かな自然環境は永らく流域に暮らす人々の暮らしを支えてきました。
こうした川の豊かな自然環境は、川だけで成り立っているわけではありません。川の上流にある山や森、そして河口に広がる海との間で、生きものにとって大切な栄養素が循環することによって、森・川・海の豊かな自然が実現し、維持されています。
たとえば、海の生態系を底辺で支える海藻や植物プランクトンの成長には鉄分が不可欠ですが、海水にはごくわずかしか鉄分が含まれていないので、海の数百倍の鉄分が含まれると言われる川から流れ込む水がこれを補っています。川の上流にある森では、地上に落ちた葉や枝などの有機物をミミズなどが食べて糞を出し、さらにそれを微生物が分解して腐植性土壌(腐葉土層)が出来上がっていく過程で、鉄分が結合して「フルボ酸鉄」と呼ばれる物質が生成されます。このフルボ酸鉄が川を通って海に流れ込み、海藻や植物プランクトンがこれを吸収して成長することで、海の豊かな生態系を支えているのです。つまり、川の上流にある豊かな森の栄養素が、海の豊かな生きものを支えているのだと言えます。
豊かな森の栄養素が川に流れ込み、最終的には海へともたらされます。
海に流れ込んだ森の栄養素が、海の生態系を豊かにしています。
では、豊かな森が失われてしまうとどうなるのでしょう? 森のタイプにもよりますが、例えば、手入れされずに森の中に光が入らず暗くなった森では、地面に光が届かずに下草も生えない環境になっていることもあります。下草が生えない森では、大雨が降るたびに分解される前の落ち葉や枝が流れ出てしまい、腐植性土壌が作られなくなってしまいます。腐植性土壌がなくなると、海藻や植物プランクトンに必要な「フルボ酸鉄」もできなくなり、豊かな海の生態系も失われてしまう結果となります。明るく林床(森の地表面)の植生が豊かな森があることが、海の生きものたちにとっても非常に大切なのです。
森の落ち葉などの有機物が分解されていくことでフルボ酸鉄ができます。
有機物を分解するのは森に住むミミズなどの土壌生物です。
アユやサケなど、川で生まれ海に出て再び川に帰ってくる魚たちは、この栄養素の循環について大きな役割を担っています。川岸で育つ草木や樹木からは「海洋性の窒素や炭素」が含まれていることが確認されていますが、その栄養素の運び屋となっているのが、アユやサケたちなのです。
海から川に戻ってきたアユやサケは、カワウやクマなどの天敵に狙われ、また死んで川岸に打ち上げられて、森の動物の生態系を維持する食料源となります。さらに排泄物となって森に供給され、森の植物たちの栄養素となります。こうしてアユやサケたちによって海の栄養素やミネラルが川の上流に運ばれ、上流の生きものたちに供給されているのです。森と川と海の密接なつながりと、その間を循環する豊かな栄養素。この絶妙なバランスを維持することで、森・川・海の美しく豊かな自然が守られます。
しかし私たち人間は、生活していく中でこの森・川・海の循環とバランスを崩してしまうことがあります。例えば、十分に浄化していない生活排水を川に流したために過剰な栄養分が海へ広がって赤潮が発生し、大量の魚が死んでしまったり。
私たち人間は森・川・海の自然の恵みを食して生活しています。よって私たちも森・川・海の自然のバランスの一部なのです。そのことを忘れず、自然の循環とバランスを維持し、周囲の自然と共生していくよう心掛けていかなくてはなりませんね。
川岸に打ち上げられたサケも海と川、森をつないでいます。
栄養素の循環から、上流の森も豊かに育まれています。
静岡県浜松市にあるHondaトランスミッション製造部には、ビオトープや果樹園を含むHondaWoodsの森が整備されています。森の中には小川や田んぼも作られ、稲作体験や水辺の生きもの観察なども行われています。
静岡県浜松市中区葵東1-13-1