アリは、山や森だけでなく街中や家の中でも姿を見ることができるたいへん身近な虫です。身体は小さいですが、集団で行動していることが多いので簡単に見つけることができます。子育てのために色々なエサを巣に運び、時には自分より大きな獲物をアゴでバラバラにして難なく運びます。アリたちの行動を観察すると、面白くて好きになってずっと見ていられますよ。今回は、そんなアリについて、ちょっと珍しいお話をご紹介しましよう。
アリはハチ目に属する昆虫で、ハチの仲間です。大きな群れを作って生活し、お尻に刺針を持っているものもいたり、ハチと同じ特徴を持っています。群れの中では、卵を産む女王アリ、食物を運び育児をする働きアリ、狩りをして他の生きものから巣を守る兵隊アリなどに役割が分かれていて、役割ごとに見た目も違っています。ちなみに私たちは働きアリがエサを巣に運んでいるシーンをよく目にしますが、働きアリはすべてメスです。
一言でアリと言っても相当な数の種類がいます。世界には1万種以上、日本にも280種を超えるアリがいると言われています。だからハローウッズの森周辺でも様々なアリを見つけることができますが、今回はその中でも「トゲアリ」の面白い習性についてご紹介しましよう。
トゲアリの外見の特徴は、胴体の胸の部分が赤褐色で背中側にトゲトゲが突起していることです。お尻に近いトゲはひときわ長く突き出しており、その勇ましい姿はアリの仲間で一番カッコのいいアリとも言えます。日本にはトゲアリの仲間が4種類いると言われていますが、地面の中ではなく樹木の皮の裏などに巣を作るので、ハローウッズの森では木のうろなどでよく見つけることができます。
トゲアリはものすごい大群で巣の周りに団子状態でいることが多く、息を吹きかけるとザワザワと動き出します。そしてそこに手のひらを覆いかぶせると、敵が来たと思って噛み付いてきます。
その力はかなりの戦闘能力です。他のアリで試しても、同じように噛んでくるアリはいますが、トゲアリほどの力はありません。また、ハチが刺すのと同じように、お尻の刺針から蟻酸を出します。ただトゲアリの場合は、敵に針を突き刺すのではなく針の先から蟻酸を吹き出して攻撃するのが特徴です。トゲアリの蟻酸は他のアリに比べて強力で、襲われた手の匂いを嗅ぐとものすごくツーンとした酸の臭いがします。
ちなみに鳥の中には、このアリの蟻酸を利用して自分の身体を保護するものがいます。カケスやカラスなどは、アリの巣に羽を広げて覆いかぶさりわざとアリに自分を襲わせることで、羽に蟻酸を染み渡らせて虫がつかないようにしているのです。ものすごい知恵ですね。
トゲアリの最も特徴的な習性は、自分では巣を作らずクロオオアリやムネアカオオアリなど他のアリの巣を乗っ取ってしまうことです。
巣の乗っ取りは、女王アリが行ないます。オスと交尾したトゲアリの女王は、クロオオアリやムネアカオオアリの巣に入り込み、敵の侵入を防ごうとする兵隊アリや働きアリたちと戦います。そしてその間に相手の匂いを体につけていき、相手に自分たちの女王だと思い込ませて巣を乗っ取っていくのです。そして最後に相手の女王を倒せば乗っ取り成功です。何とも壮絶な乗っ取りですが、その成功率はあまり高くありません。最終的に乗っ取りに成功する女王アリはほんの一握りで、多くは途中で死んでしまうと考えられています。
しかし乗っ取りが成功すればしめたもの。相手はトゲアリの女王を自分たちの女王だと思い込んでいますから、乗っ取った巣の中で女王が卵を産むと、自分たちの卵だと勘違いして子育てしてくれます。そして卵がかえると徐々にトゲアリが増えていき、反対に乗っ取られた側のアリたちは寿命を迎えて減っていき、最終的には完全に入れ替わるのです。
いかがですか? 種が生き残るために奇想天外な戦いを繰り広げるアリの世界に、ちょっと興味が湧いてきたのではないでしょうか。そこで、他のアリたちについてもご紹介しておきましょう。
最後に、ちょっと面白い生きものを紹介しましょう。アリそっくりに擬態しているクモの仲間、アリグモです。
クモの胴体は頭・腹の2つのパーツで構成されますが、アリグモは頭の部分がくびれており、アリと同じように頭・胸・腹の3つのパーツに見えます。またクモの足は8本ですが、アリグモは一番前の足をいつも上げているので、アリと同じような6本足プラス触角に見えるのです。だからパッと見ただけでは、まさかクモの仲間だとは思いません。それほど見事にアリに擬態しています。
しかしアリグモの最大の謎は、なぜアリに擬態しているのかという点です。と言うのも、アリを油断させて近づいてエサにするわけでもなく、またアリと共同生活を送るわけでもないので、アリに擬態する明確な理由が見つからないのです。
これは一つの仮説ですが、アリは集団で行動できる社会性を持つ虫なので、意外と敵が少なく、逆に他の虫たちから恐れられてるくらいの存在です。だからアリに擬態することで、敵を寄せ付けないようにしているのかもしれません。皆さんもアリグモを見つけてよーく観察してみれば、また違った理由が見えてくるかもしれません。ぜひ考えてみてください。