ゲンゴロウ(源五郎)という虫を知っていますか? 日本最大級の水生昆虫として有名なので、名前は知っている人は多いと思います。でも、見たことがあるという人はどれくらいいるでしょう? おそらくとても少ないのではないかと思います。今回はそんな、有名だけど珍しいゲンゴロウという虫のなぜ?なに?について、詳しくご紹介していきましょう。
一般的にゲンゴロウというと、体長40mmを超える一番大きなナミゲンゴロウが有名ですが、ゲンゴロウにはおよそ140種類の仲間がいると言われており、その中には体調数mmの小さな種類もいます。
ゲンゴロウについておじいさんやおばあさんたち年配の方々に尋ねると、「昔は田んぼにたくさんいたのにな~」という答えが返ってきて、数十年前までは日本中でゲンゴロウを見ることができたことが分かります。しかし近年は都市化が進み、田んぼの減少などの環境変化で急激に数を減らしており、絶滅の心配がある仲間も多くいます。
ゲンゴロウは、カブトムシやクワガタなどと同じ硬い羽を持つ甲虫ですが、彼らと違うのは、魚のように自由に水の中を泳ぎ回る「水生昆虫」だということ。トンボやホタルなども幼虫の時は水中で暮らす水生昆虫ですが、成虫になると水を出て飛び回ります。ゲンゴロウのように成虫になっても水中で生活する虫はそう多くありません。そういう意味でも、印象的な昆虫として昔から知られてきたのでしょう。
ゲンゴロウは長い時間をかけて、水中で暮らしやすいように進化してきました。水の抵抗を受けないように非常に滑らかな流線形の体を持ち、ブラシのような長い毛が生えた後ろ足で力強く水を掻いて俊敏に水中を動き回ります。そして水中に潜るときには羽と背中(羽の内側の胴体腹部)の間に空気を貯めて、それを空気タンクのように使って呼吸するのです。そのため、ゲンゴロウが息をする穴(気門)は、背中にあります。
このように水中での活動を得意とするゲンゴロウですが、それ以外の活動が不得意というわけではありません。ゲンゴロウは夜行性なので、夜になると活発に空を飛び回ります。昔は、道端の電灯の周りを飛び回るカブトムシを捕まえてみたら実はゲンゴロウだったという話がよくあったそうです。ある時は潜水艦のように水中を泳ぎ回り、ある時は飛行機のように空中を飛び回る万能の虫、それがゲンゴロウなのです。
ゲンゴロウは水中の草の茎をかじって穴を開け、茎の中に細長い形をした卵を産み付けます。10日ほどでふ化した幼虫はそのまま水中で生活し、2回ほど脱皮を繰り返した後、陸上に上がって地中に潜り、蛹になります。そして1カ月ほどで羽化して成虫になると、また水中に戻って生活します。つまり、卵・幼虫・蛹・成虫と姿を変えていく中で、蛹のときだけ水から出て地中で暮らすという面白い生活パターンを持っているわけです。
成虫になる前のゲンゴロウで特徴的なのは、何といっても幼虫の食生活です。ゲンゴロウは肉食なのですが、食べ方と食べ物が幼虫と成虫で異なり、成虫よりも幼虫のほうが獰猛なハンターだと言われています。
ゲンゴロウの幼虫は、他の虫や魚に襲い掛かって口の両側にある鎌状の大きな顎でがっちり挟み込んで捕まえます。そして注射針のように管状になっている顎から、獲物を麻痺させる毒と消化液を獲物の体内に注入し、毒で動かなくなった獲物の溶けた肉を顎内の管から吸い込んで食べるのです。ふ化したばかりのまだ小さい頃はミジンコやアカムシ・ボウフラなどを、脱皮を繰り返して体長8cm程度にまで大きくなると、ドジョウやメダカ、オタマジャクシなどを捕まえて食べます。まさに水中のハンターです。
ゲンゴロウの成虫も肉食ですが、幼虫のように獲物に襲いかかるようなハンティングはしません。また毒や消化液を出すこともありません。水の中で溺れたり傷を負って弱った生きもの、または死んだ生きものの肉をかじって食べます。ものすごく大食漢で、死んだ魚がいると、その周りにゲンゴロウ達が群がり、あっという間に奪い合うように食べてしまいます。
ゲンゴロウは水中で交尾します。陸にいる虫たちとは違い、泳ぎながら交尾をするのでオスはメスを捕まえるのに必死です。そのためオスの前足は、メスの背中をつかめる様に、また滑らない様に、フエルト状の毛で覆われています。
メスの羽根は、オスのツルツルの羽根とは違いオスがつかみやすいように溝があります。
このようにゲンゴロウのオス・メスは、前足と羽根で見分けることができます。
ゲンゴロウの敵は水鳥やカエルなど。それらに襲われたとき、ゲンゴロウは胸の辺りから白い液体を出します(種類によって違います)。人間には何となくいやな匂いにしか感じませんが、捕食生物にとっては、口に入れた際、思わず吐き出してしまうような匂いのようです。このように、ゲンゴロウは、自分の身を守る術をもっているのです。
ゲンゴロウの多くは、山間部の田んぼや沼・池・川などの水辺に住んでいます。成虫で越冬し、初夏に産卵します。寿命はあまり知られていませんが、飼育で2年以上と長生きです。
しかし最初に紹介したように、ゲンゴロウが住む水辺はどんどん無くなってきており、ゲンゴロウの生育数も激減しています。今や平地の人里近くでその姿を見ることはできず、山間部の池、沼、田んぼ、水路などを丁寧に探してようやく見つけることができるほど。
でも、貴重だと言われれば余計に見たくなるもの。日本にいるゲンゴロウは約140種類と言われていますから、根気よく探せばきっと見つけることができるでしょう。「子どもの森の遊び」ページでは、ゲンゴロウをつかまえる罠のつくり方も紹介していますから、ぜひ参考にしてみてください。ただし、罠で捕まえても、傷つけないように間近で観察したあとは、逃がしてあげるようにしましょうね。
●上で紹介したナミゲンゴロウ以外にも、こんなゲンゴロウがいます。
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