寒い冬がやってくると原っぱの草花が少なくなり、雪が積もる日もあるので、冬眠せずに活動している野生動物の足跡やウンチ、エサの食べ残しなど「フィールドサイン」が見つけやすくなります。これらフィールドサインを手掛かりに、普段はあまり見ることができない動物たちの暮らしぶりを想像してみるのも、森の楽しみ方のひとつです。
足跡やウンチ、食べ痕など、フィールドに残された動物たちのサインは、政府による生態調査や分布調査でも手掛かりとして利用するほど、動物たちの特徴を表しています。また、フィールドサインからその正体や何をしていたのかを推理するゲームは「アニマルトラッキング」と言われ、自然観察のひとつとして楽しまれています。
しかしこのアニマルトラッキング、野生動物の専門家などは “ほぼ間違いないであろう”答えにたどり着くこともできるのですが、普段どれだけ生き物の行動を観察しているか、どれだけ生き物の行動を想像できるかで楽しみの幅が違ってきます。
そこで今回は、冬の森をもっと楽しむために、里山に住む動物たちとそのフィールドサインをご紹介していきたいと思います。
左上のエビフライのような写真は、リスが松ぼっくりを食べた痕です。リスは食べ方に特徴があり、松ぼっくりの種子を一つひとつ剥がしながら食べるので写真のような通称「森のエビフライ」と呼ばれる特徴的な形になります。ちなみにネズミなども同じような食べ方をするのですが、リスのようにきれいなエビフライの形を作るのは難しいようです。また、クルミの殻をきちんと真ん中から割って食べるのも、お行儀のいいリスの食べ痕です。
リスは木の上に巣をつくりますが、地面にも降りて行動しているので森のあちこちでフィールドサインを見つけることができます。
タヌキは里山に暮らし、エサを探して人間が住む場所のすぐ近くまでやって来る動物です。
そんなタヌキの特徴的なサインは“ためフン” です。縄張りを主張しているのかキレイ好きなのか、タヌキは決まった場所でウンチをするので、1カ所に山のように積もっていることがあります。雑食性で肉や虫のほか木の実も食べるので、ウンチの中には種子などが混ざっていることが多いです。
真ん中の写真は、タヌキの足跡です。里山にはタヌキの他にもキツネ、イタチ、ハクビシンなど肉球を持つ動物は多くいますが、キツネは写真のように指の肉球が開いていないので足跡全体のシルエットがひし形になります。また、イタチやハクビシンなどであれば指の跡が5つ付くはずです。
4つの指が開いた足跡はネコも考えられますが、写真をよくみると指先に爪の跡が見えるものがあります。しかしネコは爪をしまって歩くので、正体はタヌキだとわかるわけです。
それにしても写真の足跡は真っ直ぐ歩かず、あちこち向きを変えながら歩いていますね。この近くでエサのいい匂いがして、探し回っていたのかもしれません。
キツネも足裏に肉球を持つ動物ですが、タヌキのような指の開きはありません。しかも前足と後ろ足を重ねるように歩くので、まるで1本の線の上を歩いたような足跡になります。これがキツネの特徴です。
その足跡をたどってみると、樹木や杭、切り株などにオシッコの跡が見つかることがよくあります。これは犬のマーキングと同じで、他のキツネに自分の縄張りを匂いで教えているのです。また雪が積もったときなど、ウサギの足跡の上にキツネの足跡が重なって続いているのを見ることがあります。これは匂いを頼りにキツネがウサギを追いかけていたのではないかと推理することができます。
キツネは警戒心がとても強くて普段はなかなか姿を見せてくれませんが、タヌキと同様に里山で暮らしている動物です。主に小動物やトリなどを襲って食べるほか木の実なども食べる雑食性なので、ウンチには動物の毛や骨、木の実の種子などが含まれます。
里山でヒヅメを持っている動物は、イノシシかシカです。ヒヅメの後ろに副蹄(ふくてい)と呼ばれる小さなヒヅメの跡が付いていればイノシシだと判断することができるのですが、左上の写真のように分かりづらいことも多々あります。
そんなときは近くにウンチが落ちていないか探してみてください。ウンチは足跡と同様に動物の特徴を表してくれています。シカのウンチは豆状の粒がパラパラと落ちているのに対して、イノシシのウンチは粒々をひとかたまりにしたような、1本のウンチに切れ目をいくつも入れたような形です。これなら簡単に見分けることができますよね。
イノシシもシカも畑などに侵入し、作物を食い荒らしたりするので害獣とされています。なかでも右上の写真のように森や畑の土を掘り起こしてエサを探すのはイノシシの仕業。夜行性なので昼間は見かけないですが、日が落ちると姿を現し、土の中の根菜類や木の根、ミミズなどの虫を食べているようです。
もしも木の周りにV字型や円形にかじられた葉っぱが落ちていたら、それはムササビの食べ痕かもしれません。
夜行性のムササビは日没後に行動を開始し、森の中を枝から枝へと飛び移りながらエサの木の葉や木の実を探して食べています。しかし全部は食べず、ひとくちか、ふたくちでポイッと捨てて次の葉っぱを食べ始めるのが特徴です。とても贅沢な食べ方ですね。
木の上で暮らすムササビは、オシッコもウンチも木の上でします。ウンチは直径5mmほどで、一度に何十粒もするので、木の下に小さなウンチがばら撒かれていたら、これも手掛かりになるはずです。
夜行性のムササビは木のウロ(穴)や建物の屋根裏などを寝床にして、昼間は寝て過ごしています。しかも寝床は転々と移動してずっと同じ場所にいるわけではないですが、ハローウッズではモニタリング調査を続け、3~5匹のムササビが生息していることがわかっています。
トリは足指が前向きに3本、後ろ向きに1本付いている種類が多いので、左の写真のような足跡はトリのものとわかります。
種類の見分けは指の付き方、水かきの有無、歩き方、大きさなどで絞り込んでいくことができます。
写真の足跡を見ると水かきは無く、左右の足を交互に出しながら歩いていますね。カラスやスズメの仲間などは、両足を揃えてジャンプするように歩きます。そして何より特徴的なのは、縦横10cmを越える足跡の大きさです。これにハローウッズの棚田という場所を加えて考えれば、ダイサギかアオサギの足跡だということがわかります。
どちらも翼を広げると1m以上にもなる大きなトリで、田んぼや川で魚やザリガニなどを食べています。
田んぼや川の泥に真っ直ぐの線や曲がりくねった線が何本も引かれ、まるでアートの世界。一体誰が作ったのか覗いて見ると、だいたいその近くに本人がいます。カワニナです。
カワニナは淡水に住む巻貝の仲間で、ゲンジボタルの幼虫のエサとして知られています。ですから川にカワニナがたくさんいれば、夏はホタルいるかもしれないというサインにもなりますね。
このように、森のなかを注意深く観察していると、様々なフィールドサイン見つけることができます。ここで紹介したフィールドサインも参考にしながら、冬の森歩きを今まで以上に楽しんでください!
わかりましたか?
それでは答え合わせです。
左の写真は、モグラがトンネルを掘った時に捨てた、土の山です。地面にトンネルを掘ってエサとなるミミズなどを獲って暮らしているモグラは、新しいトンネルを掘ったときの土を地上に押し出すようにして捨てます。すると地上には「モグラ塚」と呼ばれる写真のような土の小山ができあがるのです。
右の写真は、トリが繭の中のサナギを食べた痕。冬になり木の実などが少なくなるとトリたちはエサ探しに必死です。木の皮の中にいる虫やカマキリの卵などなんでも食べます。この繭に穴を開けた正体は、繭に穴を開けられる鋭いクチバシを持ち、繭に掴まっても小枝が折れない小型のトリ…シジュウカラやヤマガラなどではないかと思われます。
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