こんにちは!日本野生生物研究所の奥山です。2020年のハローウッズの森は、例年より約1カ月ほど春の訪れが早い感じがしています。暖かさが続くと活発に動き回る虫が多く現れますが、アリもその仲間です。今回は、そんなアリたちの好きな食べ物を確かめるためにちょっとした実験を行なってみました。
アリは、虫の中でも一番有名な虫かも知れません。なぜなら、小さな子どもたちにも、まだ這い這いしている赤ちゃんの目にも留まるからです。逆に私たち大人の方が、アリのような小さな虫には気づかないかもしれませんね。
日本には280種ほどのアリが住んでいて、地域や場所などで棲み分けています。私たちの身の回りで簡単に見つけることができるアリだけでも、かなりたくさんの種類が存在しますから、そうしたアリたちをあらためて観察してみると、新しい発見があって面白いですよ。
口から口に分泌物を交換して情報交換するアリ。
アリはハチの進化系で、ハチ目アリ科の昆虫です。女王がたくさんの卵を産み、大きな家族を作って集団で暮らします。働きアリ・兵隊アリ・雄(オス)アリ・女王アリなどの種類に分かれていて、それぞれが、食べ物を調達する役割、外敵から巣や仲間を守る役割、女王と交尾する役割、卵を産んで子孫を残す役割などの分担を担っています。
ちなみに雄アリ以外は全て雌(メス)で、ワタシたちが良く目にする、大きな昆虫に群がったり、集団でエサを運んでいたりする働きアリや兵隊アリは全て雌ということになります。
これらのアリのうち、雄アリと女王アリだけが羽を持っており、年に1回、繁殖期に一斉に飛び立って空中で交尾を行ないます。これを結婚飛行と言い、女王アリは別の巣から飛び立った雄を見つけて交尾を行ないます。女王アリの寿命は10~20年と言われていますが、交尾を行なうのは一生に一度だけで、その後はオスからもらった精子を体内に蓄えて産卵し続けるのです。
交尾を終えて地上に降りた女王アリは羽を抜いて産卵、育児を始めます。通常は雌の働きアリだけが生まれ、集団の数を増やしていきますが、繁殖期になると雄アリや女王アリが生まれます。
地面を掘った土が積み重なって盛り上がっているのがアリの巣の入り口。
羽を持ち、繁殖期に一斉に飛び立って女王アリと交尾する雄アリ。
さて、アリの繁殖の概要が分かったところで、次はアリの食事について見てみましょう。アリが何を食べるかは、種類によって異なり、他の生きものを食べるもの、植物を食べるもの、菌類を食べるものなど多種多様です。でも私たちが良く目にするのは、大きな獲物を集団で持ち上げて巣まで運ぶ姿だったり、開花した花に群がる姿だったりすることから分かるように、肉類でタンパク源をまかない、植物の蜜やアブラムシの甘露など甘い汁でエネルギー源をまかなう雑食の種類が多いようです。
自分たちより大きな敵(スズメバチ)に集団で立ち向かうアリたち。
倒した獲物(バッタ)を強力なアゴで噛み切って運べる大きさにして巣に運ぶアリ。
ハローウッズの森の地面に9種類の食べ物、飲み物を並べて、どれに多くのアリが集まるかを実験。
一番固い食べ物だし、そんなに甘くないので不人気かと思っていたら、アリさんたちは意外にもビスケットにけっこう集まりました。
人間は食べられないので味付けは分かりませんが、栄養満点だからでしょうか、比較的人気が高かったドッグフード。
味はしないはずですが、巣にエサを運ぶ途中の水分補給なのでしょうか、こぼれた水にも集まっていました。
今回一番意外だったのがしょうゆ。しょっぱいものを好むとは思っていなかったので、大きな発見でした。
この実験が面白いのは、いろんな食べ物や飲み物を試すことができるところです。今回の9種類だけでなく、実験する人が思い思いの食べ物、飲み物を用意して試してみることができます。一度実験してアリの反応を観察したら、「じゃあこれはどうかな、次はあれを試してみよう」と、いろんなアイデアが産まれてくるのが面白いんです。みなさんも、ぜひ自分の家の近くのアリで試してみてください。
もがけばもがくほど深みにはまり、抜け出せなくなっていくことを現す「アリ地獄」という言葉がありますが、これはある昆虫のことを指す言葉だってご存知ですか? その昆虫の名前は「ウスバカゲロウ」。トンボに似た外見を持つ昆虫ですが、このウスバカゲロウの幼虫は「アリジゴク」と呼ばれており、地面の砂地に作ったすり鉢状の巣に落ちてきた他の昆虫をエサにするのです。
巣に落ちた虫は、壁を這い上がって逃れようとしますが、砂がサラサラと崩れて登ることができません。それはアリと言えども同じで、この罠から逃れられずにもがく間に、巣の中心に隠れていたアリジゴクは砂を吹きかけて滑り落とし、捉えて食べてしまいます。
丸く囲った部分がアリジゴクの巣。民家の軒下などの砂地で見つけることができます。
巣の中心の土の中に隠れて獲物を待ち構えていたアリジゴクを掘り出してみました。
アリもアリジゴクも非常に身近な昆虫ですが、このようにまだまだ知られていないことがたくさんあります。みなさんもお家の周りにいるアリやアリジゴクを注意深く観察すれば、みんながあっと驚くような新しい発見ができるかもしれません。ぜひチャレンジしてみてください。