事業体質強化で構築したキャッシュ創出力をもとに
柔軟な資源配分を実行することで、企業価値の向上を実現します
取締役 執行役常務
最高財務責任者
企業価値の向上に向けては、財務・非財務資本を活用し、キャッシュ・フローの持続的な成長と資本効率の向上を実現する必要があると認識しています。この実現に向けて、①事業変革フェーズに応じた戦略的な資源配分、②資本コストを意識した経営の強化と環境変化への対応、そして、③積極的な対話による経営の質・透明性の向上へ取り組むことが重要なミッションであると考えています。これらの取り組みに対する短期での進捗および、中長期に向けた財務戦略についてご説明します。
2024年3月期決算は、営業利益が1兆3,819億円、当期利益が1兆1,071億円となり、いずれも過去最高益を達成しました。ハイブリッド(HEV)モデルを含む北米の四輪に加え、インドやブラジルの二輪での堅調な需要を背景に販売台数が増加し、2023年3月期から営業利益で6,012億円、当期利益で4,557億円の増益となりました。将来投資の原資を表すR&D調整後営業キャッシュ・フローについても、3兆円と2023年3月期から約1兆円の増加となり、複数の事業でバランス良く利益を確保し、将来への成長投資を支える基盤が構築できたと考えています。
2025年3月期の見通しについては、営業利益を1兆4,200億円とし、収益体質目標であるROS 7%を1年前倒しで達成する計画です。これにともない、設備投資や研究開発支出などの成長投資もそれぞれ2023年3月期から大きく増加させ、変革を加速させます。株主還元についても、2024年3月期の配当金を、68円と2023年3月期から28円増配するとともに、自己株式取得については、過去最大となる3,000億円の決議を行いました。多様な事業とモビリティを持つHondaならではのキャッシュ創出力を強みとし、戦略的な資源配分を実行していきます。
一方、2024年3月期の株式市場のHondaに対する評価ですが、株価は1年間で約60%向上し、一定の回復をしたものの、引き続きPBR1倍を下回る水準が続いており、この株式市場の評価を経営として厳しく受け止めています。HondaのPBRが1倍を下回る要因は、「過去からの資本の積み上がりによる資本効率の低下」、「四輪事業の収益性」、「電動化の不透明な将来に対する不安を払拭できていないこと」にあると分析しています。足元での改善を実績として示すとともに、冒頭でご説明した3つの重要なミッションに対する取り組みを中長期でもさらに強化し、PBR1倍超の早期達成を目指します。
Hondaは、経営計画を変革のフェーズごとに分け、具体的な財務目標を設定しています。2026年3月期には変革に向けた事業体質の強化を目標としてROS 7%以上、2031年3月期にはICE製品からEVへの事業転換を踏まえ、全社ROIC※5 10%以上、EV ROS 5%以上を掲げています。全社のROICは、具体的には二輪・四輪・パワープロダクツ事業などの製造販売に関する事業領域でのROICと、金融サービス事業のROEにより構成され、それぞれ10%以上を目標としています。
※5 ROIC:(親会社の所有者に帰属する当期利益+支払利息(金融事業を除く事業会社))÷投下資本※6
※6 投下資本:親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債(金融事業を除く事業会社)、期首期末平均により算出しています。
将来成長に向けたキャピタルアロケーション(金融事業を除く事業会社)について、事業変革のフェーズに合わせ、2022年3月期からの5年間と2027年3月期からの5年間に分けてご説明します。
2026年3月期までの5年間では、12 兆円のR&D調整後営業キャッシュ・フローの創出を見込んでいます。足元では、前述の通り、年間で3兆円規模までキャッシュ創出力が改善しており、2026年3月期までのキャッシュ創出については、概ね達成の目途が付いたと考えています。今後のさらなる改善については、資本効率の観点を重視し、資源配分計画とともに見直しを図っていきます。
2027年3月期以降の5年間は、ICE領域の継続的な収益に加え、EVの成長により過去5年間を上回るキャッシュの創出を目指します。ICE領域については、二輪事業の拡大、四輪HEVモデルのさらなる体質改善がドライバーとなりますが、HEVモデルでは、プラットフォームの刷新やHEVシステムのさらなる性能向上により、競争力と収益性を向上させます。EVについては、コア部品であるバッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーン構築によるバッテリーコストの低減や、EV専用工場での高効率生産体質の構築による、生産コストの削減などによりキャッシュ創出力を高めていきます。
これら各事業での取り組みを強化しつつ、事業環境変化に応じた柔軟な対応をとることにより、ICEからEVへの移行期においても、将来成長のための必要原資を安定的に確保していきます。
Hondaの掲げる「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた主要施策である、電動化戦略の実現に向けて、適切なタイミングでの戦略的な資源の投下が必要不可欠であり、EVの本格普及期となる2031年3月期までの10年間で、電動化・ソフトウエア領域に10兆円の資源の投入を予定しています。
2026年3月期までの5年間では、10兆円のうち、3.5兆円を投入します。研究開発支出の比重を増やし、次世代の競争力のあるEVへの仕込みを加速させます。
2027年3月期以降の5年間では、6.5兆円と電動化・ソフトウエア領域への投入資源を拡大します。足元ではICE・EVの並行開発により研究開発支出が高水準となっていますが、今後EVへシフトするなかで徐々に研究開発支出は減少する見込みです。一方、EV専用工場を含む垂直統合型バリューチェーンの構築に向けて投資や出資を増加させますが、資源投入の判断に際しては冒頭で申し上げた通りEVの市場への普及度合いを見定めながら、適切な投資タイミングを計り、柔軟に対応していきます。
成果の配分については、株主の皆様に対する利益還元を、経営の最重要課題の一つとして位置付けています。
2022年3月期から2026年3月期の配当を1.3兆円以上、2027年3月期から2031年3月期までの配当を1.6兆円以上としましたが、これは、変革に向けた資源投入を行いながらも、少なくとも足元の配当水準を維持し、安定的・継続的な配当に努める経営の意思を示したものです。
自己株式取得についても、2024年5月10日発表の3,000億円を合わせ、2022年3月期以降、合計で7,900億円の自己株式取得を決議しました。今後も資本効率の向上および機動的な資本政策の実施などを目的として、自己株式の取得も適宜実施していきます。
環境変化に柔軟かつ適切に対応し企業価値の向上を実現するため、資本コストを意識した経営の浸透を図るとともに時間軸を踏まえた複数の選択肢を持ち、柔軟な資源配分によるリスクへの対応を図っていきます。
2024年3月期決算における資本収益性(ROIC)は、事業体質の向上や株主還元の強化の取り組みなどにより9.1%と2023年3月期より3.2%改善しました。今後の変革期においては、将来に向けた投資が先行しますが、正味現在価値(NPV)を活用し資本コストを踏まえた投資判断を実施するとともに、経営の守るべきラインとして、資本コストを上回る全社ROICの維持を目指します。
Hondaは、コーポレートガバナンスの充実を実現する観点から、政策保有株式の早期縮減に取り組んでいます。2024年7月には、株主層の裾野の拡大および多様化により、Hondaの企業経営に対する規律をいっそう高めることを目的として、損保・銀行各社が政策保有する当社株式を、売り出しを通じて同時にゼロ化させるという日本企業として初めてとなる取り組みを実行しました。今後もHonda自ら率先して政策保有株式の相互保有から脱却し、企業活動を中長期的にご支援いただける幅広い投資家の方々と協創することで、強いブランド・事業基盤を構築し、さらなる企業価値向上を実現することを目指していきます。
EVへの本格的な移行期においては、変革に向けた大規模な資源投入を実行する必要があります。長期的な視点ではEVシフトが着実に進むとの考えは変わらず、すでにカナダでのEVの垂直統合型バリューチェーンの構築に関する投資を発表しましたが、一方、経済動向や環境規制の変化、技術革新など不確実性の高い事業環境は継続しており、Hondaらしいチャレンジを支えるためにも、リスクへの柔軟な対応により財務的なロスを最小限にすることが大切であると考えています。
Hondaは、複数の事業とさまざまな製品を生み出してきた技術力を背景に、不透明な事業環境下においても必要に応じた選択肢をフレキシブルかつスピーディーにとることができる事業体質を構築してきました。事業環境の変化を適切に把握し、EV需要の減速シナリオにおいては、HEVモデルでのキャッシュ創出の増強、電動化領域への投資タイミングのコントロール、アライアンスによるスケールメリットの活用など、複数の選択肢を持ち、柔軟な資源配分を行うことでリスクへの対応を図っていきます。
株主や投資家をはじめとしたステークホルダーの皆様に、経営の方向性が正しく理解され評価いただけるよう、経営陣が主体となり、イベントや個別面談等を通じて、これまで以上に対話を積極的に行っていきます。
2024年3月期は、日本・米国・欧州・アジアへ計7回のIRツアーを実施し、年間合計1,000回を超える個別対話を行いました。また、社長・副社長・CFOの参加回数の増加に加え、電動化時代におけるHondaの差別化要素をより明確に発信するため、技術マネジメントも対話に参加しております。これらの対話を通じて、経営陣や各領域技術責任者から成長戦略に向けた想いをお伝えするとともに、資本市場がHondaに求めていることを直接把握し、経営や事業戦略へ活かすことで、PBR1倍超の早期達成と企業価値の継続的な向上を実現し、ステークホルダーの皆様からも存在を期待されるHondaであり続けていきたいと考えています。