初代「CBR900RR」は、「鈴鹿8耐でRVF750に勝てるだけのパフォーマンスを持たせること」を目標に開発が行われていた先行開発段階車をベースにして、1992年にデビューした。当初の750cc 直列4気筒エンジンは、当時のフラッグシップスポーツ勢と同等の加速性能を目標に、ストロークを伸ばして893ccまでスープアップ。この優れた動力性能と、乾燥重量185kg、ホイールベース1,405mmと、ほぼ先行開発車の同等の車体を組み合わせることで、誰もが思いのままに操ることのできる、これまでにないスーパースポーツのパッケージングが完成。クラス最軽量、最コンパクトを実現することで、扱い易く、意のままに操れるスーパースポーツとして新たな世界を切り開くこととなった。
初代CBR900RRの誕生から2年、路面追従性に優れたフルアジャスタブル式フロントフォークの採用や、エンジンのさらなる高効率化により、「誰もが意のままに操ることのできるスーパースポーツ」としての魅力を磨き上げたのが、1994年モデルのCBR900RRだ。徹底した軽量化を追求した1992年モデルの考えをさらに推し進め、このモデルではアッパーカウルステーを鉄からアルミへ、シリンダーヘッドカバーをアルミからマグネシウムへと変更するなど、各部をリファイン。独立2灯ライトから「タイガーアイ」と呼ばれる異形2灯のマルチリフレクタ―へと変更して、カウルのフラッシュサーフェース化を進めたことで、スタイリングも大きく変化させている。
一見すると1992年~1995年モデルと違いのない外観のツインスパーフレームだが、軽量化に加えて、剛性の最適化が図られている。操縦性を高めるためにタンクの形状を変更してライディングポジションを見直し、リアカウルは空力特性を向上させる外観デザインに変更した。ボアを1mm拡大してボア×ストロークを71mm×58mmに変更したことで、エンジンは排気量を893ccから918ccにアップ。最高出力を128PSと4PS向上させるとともに、キャブレターにスロットルポジションセンサーを追加してドライバビリティを向上。さらにはエキゾーストパイプのステンレス化、フューエルタンクの形状変更、フューエルポンプの廃止などにより、初代からさらに1kg減となる183kgを達成している。
初代から「軽量化」には並々ならぬこだわりを込めてきたCBR900RRだが、この1998年モデルでは、1996年~1997年モデルをベースに80%以上の部品を新設計。ボルト一本まで及ぶ見直しを行ったことで、乾燥重量を180kgまでシェイプアップさせることに成功した。こうして運動性能の高さにさらなる磨きをかけるとともに、剛性を見直したピボットまわり、軽量・かつ高剛性なテーパー形状を採用したスイングアーム、ディメンションを変更したヘッドパイプまわりの設計などにより、高速走行時の安定性を熟成。セッティングの見直しによって前モデル対比2PSアップとなる130PSを獲得したエンジンのもたらす力強い動力性能とあいまって、多くのライダーからの支持を得た。
先行開発車から基本設計を受け継いできたエンジンを、初めて完全に刷新。CBR-RRとして、初めてフューエルインジェクション(PGM-FI)を採用したエンジンは、排気量を929ccまで拡大し、最高出力を148PSへ大幅に向上させた。車体は、フレーム及びボディー構造を見直し、コの字型の別体プレートでピボットを支える、セミピボットレスフレームを採用。これはコーナリング時にリアセクションを適度にしならせることで安定感を生み出すためのメカニズムで、フレームの剛性を必要以上に高めることなく、高いコーナリングスタビリティと、スーパースポーツらしい軽快なハンドリングを高い次元で両立させることに寄与。誰もが楽しめるスーパースポーツとしての完成度を高めている。「軽量」というCBR-RRのアイデンティティは、エキゾーストパイプ及び、サイレンサーの一部にチタンを用いることでさらに進化し、初代CBR900RR対比でマイナス15kgとなる乾燥重量170kgを実現している。
「CBR900RR」という名称は、エンジン排気量を954ccまで拡大し、最高出力を150.9PS(欧州仕様)まで高めた、この6代目モデルで最終モデルとなる。エンジンは、ボアを74mmから75mmへと拡大させたが、ピストンとピストンピンの重量を大幅に削減することで、排気量がアップした際に発生する振動と余分なストレスを排除。クランクシャフトとクランクケースも変更し、エンジン全体のフリクションとマスを減少させることで、パフォーマンスとレスポンスを最大限に引き出すことに成功した。軽量化もさらに推し進め、2000年モデルと比較してさらに2kg減の乾燥重量168kgを達成。排気量の向上によるパワーアップと、「操ることを最大限満喫できる、最軽量スーパースポーツ」という基本コンセプトを踏襲し、扱いやすいハンドリング、扱いやすい車体サイズを備えた「初代を彷彿とさせる切れ味のいいCBR-RR」として好評を博した。
7代目では、ユニットプロリンクシステムや、センターアップエキゾーストシステムなど、最先端のレーシングテクノロジーをフィードバック。ワールドスーパーバイク選手権など、レースでの使用も視野に入れて新開発した軽量・コンパクトな998ccのエンジンには、回転数が3000rpm以上でスロットル開度が1/4以上の場合に、2つ目のインジェクターが作動して高出力を発生させる、「電子制御燃料噴射装置(PGM-DSFI)」、走行風を利用して中・高速域の優れた出力特性と俊敏なスロットルレスポンスを実現する「ダイレクト・エア・インダクションシステム」などを新採用。公道はもちろんのこと、レースまでをカバーできるスーパースポーツという、CBR-RRの新たな展開におけるトップバッターとなった。
エンジンは2004年モデルをベースとしながらも、ヘッドのインテークポートをストレート化し、エキゾーストポートはサイズを拡大。バルブ形状の変更とバルブタイミングの見直しにより、燃焼効率と吸・排気効率を高め、より力強い中低速トルクを発生させるエンジンへと進化させた。2004年モデルで増加した重量をシェイプアップするため、フロントブレーキはディスク径を310mmから320mmへとアップさせながらも、厚さを5mmから4.5mmへと薄肉化。一方、リアブレーキに小型で軽量の新型キャリパーを採用。制動性能のアップと軽量化の両立を図った。
「乗りやすさ」「デザイン」「力強さ」その全てでナンバーワンを目指す「オール・ザ・ベスト・イン・スーパースポーツ」をキーワードに開発が進められたのが9代目CBR1000RR。RC212Vからフィードバックしたバックトルクリミッターシステムに加え、クラッチレバー荷重を軽減したアシストスリッパークラッチを新たに採用。CBR-RR伝統の「乗りやすさ」に磨きをかけた。軽量ホイールやモノブロックブレーキキャリパーを採用するなど、軽量化、コンパクト化をさらに推し進めた他、ショートタイプのマフラーによってマスも集中化。デザインは重心から離れた部分の面積を小さくしたアッパーカウルや小型化したテールカウルなどで、デザインの面からもマスの集中化が図られている。
世界初「スーパースポーツ用電子制御式コンバインドABS」を搭載した「CBR1000RR<ABS>」を発売。このシステムは、ハンドレバーとフットペダルを操作した液圧を信号に変え、ワイヤ(電線)を通じてパワーユニットでブレーキをかける「ブレーキ・バイ・ワイヤ」方式を採用。コンピューターで前後ブレーキの効きやABSの細かい作動を制御することで、スーパースポーツにABSを設定する上で課題となる車両特性──軽量・ショートホイールベース、高い重心などにより、加減速時のピッチングが大きい──に対応している。さらに、システムを車体中央に配置するレイアウトとすることで、バネ下荷重の軽減とマスの集中化を実現、スーパースポーツの高い運動性能を妨げないシステムとした。
2009年モデルをベースに、スポーツライディングをより一層楽しんでいただくための、細部にわたる見直しを実施。走行中に生じるトルク変動を緩和するために、ACGフライホイールを大径化した他、クランクシャフトのフライホイール取り付け部の剛性を向上させることで、クランクシャフト類の慣性マスを6.87%アップ。スロットル操作におけるコントロール性を向上させている。一方で重量増加を避けるために、ラジエターファンモーターの小型化やエキゾーストパイプの口金部分の薄肉化、エンジンヘッドのシーリングボルトのアルミ化などのリファインを行い、全体の完成度を高めている。
初代のデビューから20年目という節目の年となる2012年モデルは、スーパースポーツを楽しんでいただくために必要不可欠な「扱いやすさ」をメインテーマとし、トータルでの熟成を図っていった。操縦性に大きく影響を与えるサスペンションには、前後ともに新機構を採用。リアには、シリンダー内をバルブのないピストンが摺動し、押し出されたオイルが別に設けられた減衰力発生部を通過することで減衰力を発生させる「バランス・フリー・リアクッション」を、フロントにはピストンの受圧面積を増やし、減衰力をスムーズに発生させるビッグ・ピストン・フロントフォークをそれぞれ採用。エンジンもフューエルインジェクションのセッティングを見直し、立ち上がり時のコントロール性を高めることで、より一層安心してハイパワーを扱うことのできるエンジン特性に仕上げた。