「総合優勝」を目標に
全力疾走し続けた1年間!
日本大会から振り返り総括会、
後輩に渡したYNFPの夢
最終チェックに
目を光らせる学生たち
「学生フォーミュラ日本大会」を1週間後に控え、マシン走行の最終チェックを行う場となる「もてぎ試走会」が2019年8月20〜21日の2日間、ツインリンクもてぎで開催された。曇天の会場に到着すると、そこには猛々しいエンジン音が響く学生たちの戦場が広がっていた。
公益社団法人自動車技術会関東支部が主催し、HondaOBで結成された技術屋集団マイスタークラブと共に、Hondaがバックアップを行う本試走会は、過去最高の申込数を記録。二日間合わせて全15校253名が参加するという、学生フォーミュラの盛り上がりを象徴するかのような活況だ。
会場中に広がる、
各チームの真剣勝負
コース走行を繰り返すチームはもちろん、ドラマはピット中に広がる。マシントラブル対処のため車体の下に潜り込んで格闘するチームや、マイスタークラブのサポートを仰ぐチームなど、各大学がそれぞれの目的に向かって、一心不乱に取り組んでいるのだ。決して大声が飛び交っているわけではない。しかしそこには確かな緊張感が充満していた。
チームの一体感が格段にアップ!YNFPいざ試走会へ
幾度ものトラブルが彼らを強くした。
たくましく成長したメンバーたち
YNFPのピットに到着してから、まず最初に目を奪われたのが、進化した完成間際のマシンだ。2月に大学で見学した際はまだ骨組み段階であったものが、ほぼ完成形の状態になっていた。しかし実際にはパーツに不具合があり、この日は走れる状態では無いようで、大学に残ったメンバーがパーツの修復作業にあたっている。まだ午前中にも関わらず迅速な対応にチームワークの良さを実感。この不具合は総合優勝へ向けて例年以上に試走会への参加を重ねた結果、パーツが消耗して起きたようだ。いくら準備をしても予期せぬ事態が起きる難しさ、それをどうやって乗り越えるかをチームで考える面白さが、学生フォーミュラの魅力ともいえよう。
試走会初日でこのハプニングは、チーム全体に不安や混乱を招いているのではないかと思ったが、「この程度のハプニングは想定内です」と余裕な表情で話すリーダーの大澤駿太さん。チーム全体も、数カ月前の自信と不安が入り混じる雰囲気からガラリと変わり、頼もしさが漂っていた。「シェイクダウン後、担当ごとの責任感が強くなり、チームの動きが良くなったんです」とも大澤さん。それぞれのメンバーが今やるべきことを考え、適切に実行できていること。多くの失敗を経験し、着実に乗り越えてきたからこそ、全員が信頼し合えていること。それが、今のチームの雰囲気を作り出している要因だろう。
チーム結成から数々の苦難を経て、急なハプニングをものともしない現場に強いチームへと成長している。
マシンの一番の理解者!
経験に裏打ちされた自信
メインの周回競技である『エンデュランス』のドライバー、3年生の福田祥多郎さんには現在の心境を聞いた。「今は得点のチャンスをものにすることに集中しています。自分はマシンを作り、実際に乗っている。だからこそマシンを一番理解し、チームに貢献したいんです。」と、初日にテスト走行ができない状況なのにもかかわらず、自身のやるべきことやチームへの想いを冷静に語っていた。彼は今日まで、フォーミュラカー特有の重いハンドルに耐えるため、腕力や握力のアップに励み、たくさんの走行を重ねてきた。そういった着実な経験の積み重ねが、自然に自信となっているのだろう。
現役メンバー+学内OB!
強力タッグでトップタイムを目指す
そして、もう1人のドライバー椎橋祐介さんは、昨年引退した現役学生のOB 。現役メンバーを影から支え続けた功労者だ。「自分たちがやり残したことを伝え、それをどうするか選択してもらうイメージでアドバイスし続けました」と試走会までを振り返る。YNFPの上位入賞の秘訣は椎橋さんを始め、多くのOBとの濃い繋がりにもよるもの。
「自分の代のトラブルを後輩が乗り越えていると、うれしく感じます。今年はマシンが速いので、それを運転できるのは強いモチベーションになってますね(笑)」と笑みをこぼす椎橋さん。シンプルにマシンとの触れ合いを楽しむ彼の姿をみて、マシンづくりの楽しさに気づいた後輩もいるのではないだろうか。
信頼するOB椎橋さんを迎えた最強メンバーで、YNFPは試走会に臨みトップタイムを目指す。
試走会を支える
マイスタークラブ、
「本田宗一郎」から受け継ぐ魂
マイスタークラブとは?
このもてぎ試走会に参加しているのは、学生だけではない。学生にモノづくりの大切さやチャレンジ精神を教え、日本の工業を担う存在へ育ってもらうことを目的とする、HondaOBで結成された技術屋集団「マイスタークラブ」もその一つ。 Hondaが開催する「チャレンジ講座」で、学生フォーミュラで必要な基礎的なことやエンジン整備、サスペンション実技などの技術指導をしたり、学生からの質問や相談に答えるなど、技術の伝承とともに力強いバックアップを行っている。
マイスタークラブの活動拠点、 ツインリンクもてぎにある「ドリーム工房」で
学生フォーミュラ支援についてお話を伺った。
PROFILE
井出温さん
3気筒から大型車まで、Honda車のほとんどのエンジンを手がけてきた、Hondaの四輪エンジンの歴史を知る人物。学生フォーミュラとの出会いは、退職後の2014年。マイスタークラブのメンバーに誘われ、もてぎ試走会を見学したことが参加するきっかけとなった。
菊池文明さん
アルミの機械加工、シャーシ系の設計、アクティシリーズの開発、完成車の耐久性テスト、技術評価室でのマネージャーなど幅広い業務に携わってきた。2005年から個人的に茨城大学の学生フォーミュラを支援。自身の経験を通して“クルマやモノづくりの面白さを伝えたい”と、2014年にマイスタークラブに加入。
学生の成長を、
真近で見届けられる喜び
学生の成長を感じられるのが、学生フォーミュラに携わる醍醐味。「一番うれしいのは、一年目に何も分からなかった子が、次の年には一人前に話すようになって、3年目ともなるとすごく良い顔になっていることですね。『ここまで育ったか!』って、成長がよくわかるんですよ(笑)」と目を細める菊池さん。
一方で、「シュミレーションで出した最初の設計だけで、製作を終えてしまうチームが多いのが気になりますね」と井出さん。モノづくりのサイクルは、作ったモノが狙い通りの性能を出せているのかを実際に確認し、トライ&エラーを繰り返すのが一連の流れ。頭の中で理解していても、実際にやってみるとなかなか思い通りにいかないのがモノづくり。そこが難しくもあり、探求の面白さでもあるため、「ぜひ1回の設計で満足せず、試行錯誤して、より良いモノを作るというモノ作りの基本を学んで欲しい」と未来のエンジニアに期待を込める。
学生フォーミュラの指導の中で、「正解を教えてはいけない」というのがマイスタークラブのルール。「ヒントや基本的な原理原則を教えるように心がけています」と井出さんが話すように、最後は学生たちが自らの頭脳と手足で解決するしかないのだ。
「モノづくりって結局は“少しずつの進化”なんです。だから最後まで諦めないことが重要。そしてもっと進化させるために自分が体験したことをしっかりと後輩に伝えていってほしいですね」と、菊池さんが締めくくった。
お二人から強く感じた“学生への想い”は、「恐れず挑戦して欲しい」ということ。
失敗も次の成功への1ステップ。
これは、長く第一線で活躍してきたマイスタークラブのお2人だからこそいえることだろう。
今後もエンジニアとして、次世代のエンジニア育成に力を注ぎ続ける。
試走会でのトップタイムを記録!総合優勝への狼煙を上げた
多難を乗り越えてきた仲間と!
もてぎー横浜間の見事なチームプレー
試走会1日目は、パーツ破損でタイムの計測ができず…。そして豪雨により、イベントの早期撤収という不毛なスタートとなった。しかし、横浜の大学で修理するメンバーとの綿密で迅速な連携により、2日目には見事マシンが復活。タイム計測ではもてぎ試走会全体でのトップタイムを記録した!諦めない気持ちとチームの結束力が、自他共に認める結果を残すことになったのだった。
快音をたてて疾走するマシンを見届け、「大学に残って作業してくれたメンバーには感謝しています。個々人の能力やチームワークを含めたチーム力が大会に向けて、さらにパワーアップしたように感じました」と、大澤さんも思わず笑顔を見せる。メンバーも皆、「やっとここまで来たな」と感慨深い表情だ。
チーム結成時から、メンバー全員で悔しかったときや楽しかったときを過ごしながら、マシンを完成に向け改良を重ねてきた。YNFPは総合優勝へ一歩、歩みを進めた!
いよいよ本大会!総合優勝へ向けたリーダーの想い
(大澤) 1年間、総合優勝に向けて努力してきましたが、今のチームワークは完璧だと思います。去年が2点だとしたら、今年は90点と言ってもいい。去年の大きなトラブルを経験して乗り越えてきたメンバーがほとんど残っていて、それぞれの適材適所がわかっているので信頼関係は抜群です。僕自身、一人ひとりを尊敬していて『メンバーは家族や友だちではなく、恋人だ』というくらいに想っています。間違いなく歴代で最高のメンバー!だからこそ結果に出したいですね。
ギャラリー
3年生が中心となって、
先輩や後輩の垣根を越え、ときにはOBの力も借りながら、
目標である“総合優勝”を目指してきたYNFP。
幾度ものエラーをチームで乗り越え、
最後の最後まで、妥協を許さないマシンへの熱い想いを持ち続け、
着実に成長してきたメンバー全員で、ついに本大会へ挑む!
全身全霊をかけてきた1年の集大成はいかに。
Hondaは次世代のエンジニアの夢を応援します。
日本大会を戦い抜いたYNFPに迫る!