横浜国立大学レポート | 全日本学生フォーミュラ | Honda

学生フォーミュラ大会屈指の名門校 横浜国立大学
前編 前編

学生フォーミュラの名門校の一つである横浜国立大学のYNFP(Yokohama National university Formula Project)。「今年こそは!」と総合優勝を狙うYNFPのマシン製作の現場を訪問。モノづくりへの情熱はどこから湧き上がるのか。真剣なまなざしのチームメンバーに、今年の大会へかける想いやマシンづくりをレポートします。

学生フォーミュラ大会とは?

学生フォーミュラとは、大学ごとにチームを組んで、毎年1年間でフォーミュラスタイルのレーシングマシンを設計し、フレームやパーツを製作して、「モノづくり」への取り組みや技術力、性能を競うプログラムのこと。8月に開催される「学生フォーミュラ日本大会」では、マシン製作のコンセプトやコスト・プレゼンテーション・デザインなどの審査と、さまざまな走行性能の審査や計測によって、総合力を競う。仲間と共に設計から製作までのマネジメントやエンジニアとして挑むことで得られるのは、まるで小さな自動車メーカーのようなリアルな体験と、1年間の燃え尽きるような熱い感動だ。Hondaは、エンジン支援だけでなく、マシンづくりのさまざまなバックアップを行なっている。

いざYNFPの製作現場
主力となる2年生は
わずか7名

横浜駅の北西3㎞ほどの保土谷の丘の上にある横浜国立大学。そこで学生フォーミュラ大会に参加するのがYNFPだ。2005年の初参戦からこれまで13回連続で参戦。2011年と2016年の2位を最高位として、40以上の賞を獲得してきた。上位入賞の常連となる全国でも屈指の名門校である!

2019年YNFPコアメンバー紹介

左から福田祥多郎さん、西川健太郎さん、大澤駿太さん、田中靖人さん、
青山弘承さん、田中真由さん、伊本咲矢さん(欠席)の7名。

「チームの目標は“成長、そして総合優勝 しかも目立ちたい”です」と意気込むYNFP。勝つだけではなく“目立ちたい”とさらにハードルを高めるチームの主力となる現2年生は、わずか7人。少数精鋭のアットホームなチームだ。
チームへの参加動機として7人に共通するのは「モノづくり」に興味があったこと。「何かを作ってみたい」という動機から、実際にチームを見学して「雰囲気が良くて、楽しそうだった」「フォーミュラが格好よかった」と参加を決めたと言う。
コアメンバーの2年生は、少人数だが経験は豊富。昨年は先輩の2年生が1人しかおらず、現在の2年生が主力メンバーで参戦。「昨年は、ありとあらゆるトラブルに見舞われました。シェイクダウン(初走行)でエンジンがかからず、原因解明と修理に、まるまる2日の完徹をしたり……。それ以外にも、本当にたくさんあって。そのおかげか、ちょっとやそっとではへこたれなくなりました(笑)」とメンバーと笑い合う、リーダーの大澤駿太さん。1年間苦楽を共にした仲間とリラックスした雰囲気だ。苦労があったからこそ絆が強まる、そんなチームなのだろう。

YNFPの すべてを結
1台のマシンができるまで

2017年12月 2017年12月

新チームの結成は2年
大会へ向けて
ミーティングスタート

2019年大会に向けての始動は2年前。1年生の冬からミーティングをスタートし、大会での目標とリーダーなどの役職を、約半年をかけて話しあっていく。これほど早くチームを立ち上げてミーティングを繰り返し、信頼関係を築くことが上位入賞の秘訣かもしれない。
もちろん、その間に2018年大会のための作業は並行して行われたため、現在の2年生は作業の主力として大忙しだったとか。

2018年6月 2018年6月

新リーダー就
チーム目標に「目立ちた!」

追加!?

リーダーには大澤さんが選ばれた。「彼は声が大きい。それに真面目。みんなを引っ張っていく力があります」と、満場一致での決定だったそう。チームの目標は2016年の2位、2017年の6位を鑑みて、「成長、総合優勝」に設定。後に「しかも目立ちたい」を加え、現在のものにアップデート。
学生フォーミュラの知名度がまだまだ低いことを嘆くメンバーの発案で、学生フォーミュラ自体の知名度アップと、自己主張の二つを合わせ、最終的なチーム目標が決定した。

リーダー/大澤駿太さん

2年生で、ただ一人の文系の経済学部。「今までやったことのないことをしたい。大学生だけでしかできないこと。それがしたくてチームに加入しました」と話す。

2018年9月 2018年9月

スポンサー活動開
ただならぬ緊張&商談成功による達成

大会への参加には、マシン製作にチーム運営、遠征などの資金が必要だ。そのため、スポンサー獲得もチームメンバーの重要なミッションとなる。もちろんスポンサー探しや交渉はメンバー全員の仕事。一人最低でも数社、多いと数十社を担当する。さらに新規獲得のため、スポンサーになってくれそうな会社を探し出し、訪問して交渉も行う。スーツを着て新しい会社に赴き、会議室で行うプレゼンは、ものすごく緊張するようだ。「プレゼンの日の朝は、逃げ出したくなりますね(笑)」との本音も。商談は大変だからこそ、うまくいったときの達成感は格別。学生生活ではめったにできない貴重な体験だ。

机上だけでは学べない技術を学
Hondaのマイスタークラブによる講座へ参加

“モノづくりに挑戦したい”と思っても、誰もが最初は初心者。そこでチームメンバーは皆、Hondaの支援プログラムである「学生フォーミュラチャレンジ講座」へ参加する。これはHondaOBで結成された技術屋集団「マイスタークラブ」が座学と実技を交えて指導してくれるもの。機械や図面の基礎知識にはじまり、溶接やFRP成型、エンジンの整備方法、サスペンションのセッティング、さらにはチーム運営の方法まで、多角的なノウハウを得ることができる。学生フォーミュラ参戦の上で欠かせない貴重なスキルだ。

2018年10月 2018年10月

“売れるマシン”を目指して
マシンのコンセプトを決

学生フォーミュラ大会は、自作のマシンが速いだけでは勝てない。「静的審査」といって、作ったマシンを販売すると想定したプレゼンテーションやコストなどの審査もある。つまり自分たちで自動車メーカーを起業するイメージだ。お客様、製造、コストなどを見据え、企画から販売までを想定して、マシンのコンセプトを決めていく。「初めての商品企画は、本当に苦労しました。最初に作ったコンセプトは、製品としてのストーリーがなかったんですよ。そこを先輩たちにダメだしされて……(笑)」。何度も話し合いをし、何度も練り直したと話す大澤さん。根幹となるコンセプト作りの重要性が伝わってきた。
そして出来あがったコンセプトは「ドライバーとしてのステップアップ」。限られた資金と練習機会の中でも腕を磨くことができる、若手レーサー向けのマシンだ。

2018年11月 2018年11月

設計スター
トライ&エラーの日々。
新しい気づきや発

コンセプトが決まった後の11月に、マシンのサイズや重量などの具体的な数値を決めていく。そして12月末までかけて手分けをして部品の設計を行う。YNFPは、設計図は紙ではなく、3Dキャドというコンピュータ・ソフトを使う。もちろんメンバー全員が最初は初心者で先輩から教えてもらう。
チームでのモノづくりは楽しいだけでなく、授業以上の勉強にもなるという。理工学部は授業でも3Dキャドを習うが、YNFPでソフトを扱う時間の方が圧倒的に多いそうだ。

2019年2月 2019年2月

製作スター
自分たちの成長を見据えてほとんどの部品の内製化を目指す

大学が春休みになったところで、フレームをはじめ、サスペンションやマフラーなどの部品をメンバーで製作する。部室の近くに大学の作業室があり、そこにある旋盤や溶接器具などを使ってパイプや金属の塊からパーツを削り出し、溶接して組み立てる。“勝ち”を狙うだけなら外注の方が確実だが、“成長”が目標の一つなので、自分たちの手で作るYNFP。成長しながら勝つ、それがチームの流儀だ。完成したマシンに不具合がないかを調べるテスト走行、シェイクダウンの予定は3月24日。与えられた時間はわずかに2ヶ月弱!

いよいよ 組立に着
総合優勝を目指し
成功&失敗の連続

POWER TRAIN

パワートレイン

POWER TRAIN

エンジンとミッションを総称するのがパワートレイン、担当は福田さんだ。エンジンはHonda製オートバイ「CBR600RR」のものを使用。吸排気系のパイプ類などをオリジナルで設計・製造する。今回はエンジン内部とコンピュータのソフトにも手を入れ、扱い易さとハイパワーを兼ね備えるものを目指した。昨年から5%以上パワーアップしたようだ。

福田さんはメンバーの中で唯一のモータースポーツ経験者。小さなころからオートバイを買ってレースに参戦。「自分の作ったマシンに、自分で乗って走れるのは学生フォーミュラだけです。本当に楽しいですね」と顔がほころんだ。

FRAME

フレーム

FRAME

学生フォーミュラでは、毎年フレームを作るのがルール。90本以上ものパイプを削り、溶接でつなげて形をつくっていく。やりがいがある作業のひとつだ。担当の田中真由さんは、理工学部とはいえ学部は情報系。溶接はYNFPに入って覚えたとか。

「溶接って格好いいなと思っています(笑)。実際に自分の手でモノを作りたいとチームに入りました」。はにかみながら話す田中真由さんは、メンバー内で最も溶接が上手く、他メンバーの部品の溶接も担当している。

CHASSIS

シャシー

CHASSIS

ハンドル部分に改良を加えたと話してくれたのは、シャシー(サスペンション系)担当の西川さん。 「今年のマシンはサスペンションの取り付け角度を改良して、ハンドルを軽くしています」。これまではハンドルの重さでドライバーがレース中に疲れ、速く走れなくなることがあったとのこと。この改善でさらに良い走りが期待できそうだ。

アクセルやブレーキなどのペダル類の製作は、リーダーの大澤さんが担当だ。「部品担当をやりたかったんですよ。モノづくりをしてみたかった。でも、応力集中(部品の一部に力が集中すること。部品が壊れる場所になる)とか、文系では知らない言葉だらけで大変です」と苦笑い。

BODY

ボディ

BODY

昨年からYNFPが挑戦しているのが車体全体を樹脂部品で囲うフルエアロ・ボディだ。エアロダイナミクス担当の青山さんは、「樹脂製のエアロパーツを作るのは初めてだったので、製作方法のノウハウもなくて手探り状態。本当に大変でした。ですから、初めて装着して走らせるときは“壊れたらどうしよう”と、ものすごく心配でしたね」。初挑戦時の不安はかなり大きかったようだ。

青山さんは昨シーズンからエアロパーツを担当しており、今年はタイムアップのためのエアロパーツ作りにも挑戦している。コンピュータ・シミュレーションで最適な空気の流れを模索している最中。エアロパーツの完成は3月のシェイクダウンではなく、本番直前の夏だ。

2019年3月 2019年3月

過去最高のマシンを目指し
待ちに待ったシェイクダウンの日

シェイクダウン当日、いつになく安堵した表情の大澤さんがいた。今年のシェイクダウン時のマシン完成度は、例年以上だったようだが、完成までの道のりは決して簡単ではなかった。
「特に苦労したのは、製作スケジュールと現状のズレを認識し、解決することでした。500ほどあるパーツの製作管理には、メンバーとのコミュニケーションが不可欠。製作が遅れた部分をどれだけ挽回するのか、挽回できないところはどうするのか。連日話し合いを重ねました」と話す。時には深夜までの作業も行い、なんとか完成にこぎつけたようだ。

シェイクダウン 果たして結果は・・・・・!?

完成したマシンを初めて走らせるのが“シェイクダウン”。
学内にある100mほどの直線道路の周りには、たくさんのOBが応援に駆け付けた。
ピリピリとした緊張感がメンバー内を漂う中、スタートの合図!
その瞬間、マシンは軽快に走り出した。
コースサイドで見守る仲間からは自然と歓声があがったほどであった。

メンバー全員が試行錯誤を重ね、
壁を乗り越え続けたからこそたどり着いた、今回のシェイクダウン。
「皆には自分たちのマシンに自信と誇りをもって、胸を張って欲しいです。
ただ、シェイクダウンは一つの節目で、優勝に向けての通過点にすぎません。
より良いマシンとなるように、一層努力していきたいと思います!」と、
目標に向かって進んできたメンバーへの思いを語る大澤さん。
YNFPのチームワークの良さは、仲間へ対する姿勢から生まれているのかもしれない。
今後は本大会へ向けたマシンの本格的なクオリティ調整が始まる。
マシン全体の完成度には達していないため、まだまだ気を抜けないところだ。
“総合優勝”へ向け、YNFPの挑戦は続く!

教え! YNFP
 5つのトピック 

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メンバーが思う、
強さのヒミツ

通常は5月頃に行われるシェイクダウンを、YNFPは3月に行う。早めにスタートすることで後半のスケジュールに余裕ができ、トラブルの洗い出しや走り込みにあてられるという。後半の調整期間を長く取っていることが、好成績を残しているヒミツかもしれない。

スケジュールにヒミツあり! スケジュールにヒミツあり!
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チームワークの良さは
どこから?

制作する上で、リーダーと各メンバーがコンセンサスを取りながら進めたこと。それがチームワークの良さの要因のようだ。制作する上ではお互いの納得が必要。昨年の苦しい経験をふまえ、上下関係なく話し合いを行い、反映すべき点は反映してきた。自分たちでどうすべきか考え、試行錯誤した結果がYNFP独自のチームワークの良さになっているといえよう。

仲の良さが自慢です 仲の良さが自慢です
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2018年は
スポンサー獲得率急

全員で行うスポンサー活動では、15社の新規を獲得! 業種に合わせて訴求点を変えた複数のプレゼン資料を用意した。さらに旧来のスポンサーを回るだけでなく、大学のOBが参加する交流会や展示会で名刺を配って顔を広げ、スポンサーの新規開拓に励んだ。昨年は2年生が1名だったこともあり、ほとんど新規獲得ができなかったのに対し、今年は6名でめいっぱい活動したことで、多くの新規獲得ができたのだという。

獲得できた時の嬉しさは格別! 獲得できた時の嬉しさは格別!
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新人獲得の苦労

新人獲得は例年苦労しているそうだ。今年は現メンバーの実体験に基づき、“活動の楽しさが伝わる”内容を意識し、“YNFP公式のツイッターアカウント”を開設。SNS上でリアルタイム更新される情報や活動の様子に、新入生の反応は上々! ツイッターアカウントでは、日々の制作風景も発信し、イキイキとした笑顔でモノづくりをするメンバーの様子が投稿され、楽しさが伝わる内容となっている。

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YNFP
レーダーチャート

チームメンバーに聞き込み調査!
 YNFPのチーム力とは……?

根性10点、技術力7点、経験6点、学業5点、設備8点、スポンサー新規獲得力10点、資金力5点、仲の良さ10点 根性10点、技術力7点、経験6点、学業5点、設備8点、スポンサー新規獲得力10点、資金力5点、仲の良さ10点
根性10点
技術力7点
経験6点
学業5点
設備8点
スポンサー
新規獲得力
10点
資金力5点
仲の良さ10点

「チャートの項目は何がいい?」との質問に、「根性ですね! これは満点です」と即答。“昨年は、メンバー全員で多くの困難を乗り越えてきたんだな”と思わせる項目。

仲の良さに自身あり 仲の良さに自身あり
根性ならまけない! 根性ならまけない!

YNFP
初の 総合優勝 を目指して

着実に本大会への歩みを進めるYNFP
リーダー大澤さんにこれからの展望を聞いた。

「8月の本大会に先駆け、静的審査に関係するコストやデザインなどの書類提出は6月です。何百枚にもなる、精密さや緻密さを要する書類を作成するのにかかる苦労は、マシン製作となんら変わりません。提出書類を重ねると30㎝以上になるんですよ。去年は徹夜もしましたね。もう少し前もって進められたらいいのですが(笑)」と昨年の苦い経験を思い出していた。しかし着実に制作を進めてきた彼の表情には、どこか自信が感じられた。
続けて「まずは4月いっぱいをかけて、トラブル出しを終えておきたいですね。5月の試走会を、どこも壊れずに終えることができれば、6~7月をセットアップに使えるので、完成に向けて入念に仕上げられます」 と話す。
「今年は目標に向かい、先輩方を頼りながらも、“自分たち”でどうするかを考えながら製作を進めてきました。過去5年で一番、総合優勝に近いと感じています。配点の大きい静的審査やシェイクダウンのスケジュールなど、昨年の反省点をしっかりと反映させています。1年生のときから困難や課題を共に解決してきた仲間がいますし、自信がありますよ」
大澤さんの顔つきには、同じ目標を持つメンバーへの信頼感と、昨年から綿密に練られた計画を着実に行ってきた自負が感じられた。昨年の経験をふまえ、今年のYNFPは格段にステップアップしている。そう認識した返答だ。

一人何役もこなしながら、一丸となって本大会出場を目指すYNFP。
“優勝”という高い目標へ“成長”と“目立ちたい”を加え、コツコツと経験を積んできた。
自分たちの勝利だけでなく、学生フォーミュラ全体の知名度アップをも目指す原動力になっているのは、
マシンへの強い探求心や向上心。そして、モノづくりへの情熱だ。
これから先、大きな壁がでてきたとしても、彼らの柔軟な考え方とチームワークがあれば、きっと乗り越えられるはず。
常に夢を追いかけ続けるYNFP。目指せ、総合優勝!

Hondaは未来のエンジニアの夢を応援しています。

次回、いよいよ試走会!