苦しい日もあった。悩んだ日もあった。だけど楽しかった。
メンバー全員のチカラがひとつになって、
素晴らしいマシンができあがった。
戦いの準備はできている。 いくぜ! 競い合うあの場所へ。
2018年、Hondaエンジンとともに挑戦する
芝浦工業大学Formula Racing SHIBA-4
彼らとともに、もてぎ試走会と全日本大会をレポートします。
SHIBA-4もてぎ 試走会レポート
大会後レポート
8月23/24日、芝浦工大SHIBA-4 S015とチームメンバーが、ツインリンクもてぎに集結した。これは9月の全日本学生フォーミュラ大会に向けたマシンの最終チェック走行の場としてプログラムされている「ツインリンクもてぎ試走会」だ。公益社団法人自動車技術会関東支部が主催し、Hondaはここを本拠地とするOBで結成された技術者集団マイスタークラブとともにバックアップを行なっている。今回は、関東・東北を中心とした14の大学、209名が参加した。
「もてぎ試走会」は、公益社団法人自動車技術会関東支部のスタッフをはじめ、マイスタークラブやHondaスタッフ、学生スタッフのサポートによって、車検とブレーキテスト、アクセレレーション(75m加速)、スキッドパッド(定常円旋回)、北ショートコースでの周回走行など、動的審査のすべてがプログラムされている。徹底的に走り込む本戦仕様のチームもあれば、車検を通すためにマイスターたちのアドバイスを熱心に聞き入ってマシンを修復しているチームもある。各大学チームのマシンがメンバーとともにずらりと並んだピットは、それぞれの1年間の成果を物語るような独特な熱気にあふれていた。
芝浦工大SHIBA-4のマシンS015は、さらに最終形態へと進化していた。巨大なウイングもアップデートされ、カウルも整えられて美しく仕上がっていた。そしてチームもどこかリラックスしている。聞けば、今年は必死に製作を前倒しして、すでにシェイクダウンから昨年の倍の7回も走り込んでセッティングもほぼ決まっているという。
リーダーの諏訪さんに、もてぎ試走会の状況を聞いてみる。「タイム的には去年より速いですけど、ライバルがそれを上回るタイムを出してきているので、今チーム内で燃えている感じです。メインはドライバーの大会前のリラックスのために車両に慣れること、楽しんで走るという意味も含んで来ていますが、その中でタイム更新合戦が始まったので、とりあえず勝ちたいねってことになって。ちょっとやってみようとセッティングしています。」と、余裕を感じさせるコメントをいただいた。
ピットで仲良く話している女性メンバーに話を聞いてみた。3年生の長倉さん、2年生の浜中さんだ。早速長倉さんに担当をうかがうと、なんと「パワートレインのリーダーと冷却と電装とプレゼンとコストですね。」と、5つも担当していることをさらりと話してくれた。学生フォーミュラのきっかけを聞くと「もともと車が好きで、将来、希望の業界に入りたいって思って、大学で変わったことしたいなと思ったときに、学生しかできないって勧められて入りました。」と、さらに明快に答えてくれました。
浜中さんもエアロの構造とブレゼンを担当していて、プレゼンはこの二人で発表するという。浜中さんのきっかけは、「私はモノづくりのほうがしたくて、それで入りました。物心ついたときから図工とかも好きだったし、小学生の頃から時計とか、動くものを見るのが好きでした。」と、こちらは筋金入りのモノづくり派。さらに学生フォーミュラで感じたすごさについて、「私はもともと車好きじゃないですけど、周りの様子とか、奥深さとか見てくるうちにすごいなって。Hondaで開催するマイスターの講座もそうですけど、みんなの熱量とか、知らないことが多過ぎて、なんかすごい。そういういろんなことを知っているみんながすごいのもそうですし、熱中している感じとかも結構あって。そこの発見のすごさです。」と語ってくれました。
1965年に本田技術研究所に入社し、狭山製作所でHonda初のスポーツカーS600の製造に関わり、主に溶接関係を担当していた。その後は和光研究所の試作課に移って手作りでゼロからの部品作りを経験。マイスタークラブは8年目、得意分野である溶接についての講座を受け持ち、学生たちに溶接の楽しさを伝えている。
マイスタークラブ 山田滋さん
1971年に本田技術研究所に入社。ボディ設計をメインに、初代シビック、初代アコード、プレリュードなどの歴代のHondaの名車の開発に関わる。朝霞研究所では2輪オフロード車のフレーム設計も担当。学生たちには学生フォーミュラを通じて、無から有を生み出す楽しさや奥深さを経験してほしいと語る。
マイスタークラブ 石井和幸さん
ツインリンクもてぎ北ショートコースにあるマイスタークラブの本拠地、ドリーム工房。そこで、マイスターのお二人が最近の講座やもてぎ試走会を通じて感じている、ある変化について語ってくれました。山田さんに、溶接が初めての学生についての感想をうかがっていたとき、「特に最近では、女性の方が結構うまい溶接をしますね。見栄えとしてもきれいな溶接をしてくれる女子の学生が、多くなってきています。」と話し始めた。
さらに石井さんも「たしかに女性が増えてきました。昨日も、エンジンの内部をばらしている女子がいたし、溶接もしていました。女性がいろいろと活躍しています。」と同じ感想。今年はメカニックだけでなくレーシングスーツに身を包んだ女性ドライバーを3人も見かけたりと、ここ1、2年で特に目立ってきたという。講座やもてぎ試走会に参加する女性が増えたことに変化を感じるとともに、「無から有を生み出すというのは、すごく悩んで苦しいけれど、出来上がるとすごい喜びに感じます。それが学生フォーミュラの中でも繰り返されているのだろうと思います。それを感じてもらえれば、モノづくりって、学生フォーミュラってこんなに面白い、苦しいけど楽しいと感じてもらえると思います」と語る石井さん。最後に、女性も男性も関係なく、クルマを好きでいて欲しいとおっしゃっていました。
諏訪さんに、改めてマイスタークラブについて聞いてみました。「Hondaのエンジンを使っているチームも多く、学生フォーミュラにエンジンを支援しているメーカーの中でも、Hondaは講習とかにすごく力を入れてくださいます。マイスターの方々は、新入生に対しても、まったく知識がない状態から学生フォーミュラに飛び込める環境づくりをしていただいていると感じています。走行会とか大会でもいろんな場面でお会いすることがありますが、その場でお会いしたときにも、こちらからの質問に対してすごく真摯にお答えをいただけるので、いつも本当に頼りにさせていただいています。」と、マイスタークラブについてしっかりと答えていただきました。
学生フォーミュラは、1年間でゼロからマシンをつくって全日本大会に臨む、過酷な競技。Hondaは、初参加の学校も、参加経験が豊富な学校も、すべての学校がベストを尽せるよう、これまでに培ってきた技術と経験を活かしたさまざまな支援活動を実施している。さらに「もてぎ試走会」では、その最終調整の機会として徹底的にサポートしていく。すべてのチームが良い結果を残し、達成感と喜びに満たされることこそが、Hondaの願いなのだ。
SHIBA-4チームの戦いを見て欲しい。と語るプロジェクトリーダーの諏訪さん。
「優勝を狙えるところまでは来ていると思うので、悔いの残らないようにしっかりやり切ることだけ考えようと思います。そうすれば結果も付いてくるはずです。」マシンの製作を前倒ししながら、走行機会を増やして、セッティングを重ねてきた。プレゼンテーションもチームを組んで、全員でチカラを入れてきた。目指すは、総合優勝。チームの雰囲気も、全員が同じ方向を向いて頑張っている。
一人ひとりのメンバーが、それぞれの青春をかけて挑戦する「全日本学生フォーミュラ」。
SHIBA-4チームにこれからも熱いエールを贈りたい。
9月4日〜8日、静岡県小笠山総合運動場「エコパ」。全日本大会のチーム受付が始まる4日から、今年の大会の流れを示唆するような天候による影響が出ていた。この日予定されていた午後からの静的審査は中止され、翌日に順延となったのだ。全日本学生フォーミュラ大会はこの後4日間にわたって、プレゼンテーション審査、コスト&製造・デザイン審査、車検、アクセラレーション・スキッドパットと、全長800mのコースを走行するオートクロスとそのタイムによって出走クラスが決定するエンデュランスによって総合的に審査される。出走したチームは、国内・海外あわせて93チーム。すべてのチームが整然と並ぶピットエリアは、各大学のチームメンバーとマシンの熱気にあふれていた。
9月8日、エコパは早朝から秋らしい青空と突然の雨が交互にやってくるという天候。SHIBA-4チームは、オートクロスで総合4位というタイムを叩き出して、見事に最終日のファイナルシックス※の出走を決めていた。総合優勝を目指す彼らにとって、ファイナルシックスに残ることは絶対条件だった。ピットではメンバーの誰もが明るい表情を浮かべていたが、出走を前にしてマシンの周りには緊張感が漂っていた。レインタイヤか、ドライタイヤか、セットアップはどうするのか。午前中は、晴れ間に突然のスコールという状況で、エンデュランスAクラスを走ったある上位チームは、ドライタイヤでスタートして周回中に雨が降り出すという不運に見舞われていた。午後になると、青空は見えるが時折雨も降るという状況。30分先の路面状況も読めないまま、レインタイヤを組み込む。そして、ファイナルシックスのスタートが近づく頃、ついに土砂降りとなってきた。
※ファイナルシックスとは、オートクロスで上位6位のチームが出走できるエンデュランスのこと。
2名のドライバーが交代で周回コース約20キロを走行する。
ファイナルの出走を控えた2人のドライバーに、今の気持ちを聞いてみた。スタートドライバーを務める2年生の白崎稜さんは「緊張もしているけれど、何よりも嬉しい。チームのために走ることが楽しみ。」と語る。彼は、前日のドライコンディションのオートクロスでS015のポテンシャルを引き出して4位のタイムを叩き出し、ファイナルシックス進出を決めた。その時のことを「自分としてはタイム的にまだ悔しいと思いましたが、チームを見ると涙ぐんでいる人もいて、チームに貢献できた!ファイナルでもチームのためにマシンの力を最大限に発揮する!という気持ちだった」。さらに、人として成長できる学生フォーミュラは、やっぱり面白いと熱く語ってくれました。
ゴールを目指して後半を走る3年生の五十嵐雄大さんは「無心の状態で走りたい。今回はトップグループのタイムが接近していて、総合順位もパイロン1本で変わってしまうので、自分たちの走りに集中して結果に残していきたい」と冷静に語る。コースに置かれたパイロンに接触すると1本で2秒のペナルティになってしまうシビアな戦いだ。そして、これからドライバーを目指そうとする人たちに向けて、「自分たちの手で車を作って走るというのは、ものすごく鳥肌ものです。走るまで本当にドキドキで、そういうのを味わってほしい。」と語ってくれました。
芝浦工大OBでSHIBA-4チームのプロジェクトリーダーの経験をもつ大河原悠介さんは、2017年にHondaに入社し、今年の全日本大会ではダイナミックイベント(動的審査)のサポートスタッフとして参加している。「チームとして参加している時は周りが見えていませんでしたが、スタッフとして参加してみると、運営側というのはこんなにも安全やすべてのチームのことを考えているのだと感じました。私が担当するポストは、走っているドライバーとフラッグでコミュニケーションをとるので、ミスがあれば結果に影響してしまうのでとても重要です。」と語る大河原さん。いちばん印象に残るのは、エンデュランスで完走できたドライバーとマシンが戻って来た時のチームメンバーの笑顔だとおっしゃっていました。
各大学のピットの近くに、大きな白いテントがある。そこは深刻なマシントラブルを抱えたチームの駆け込み寺のような存在のHondaの修理工房。そのテントで話を伺ったマイスタークラブ会長の関口昌邦さんは、まるで伝説のようなエンジニアの方でした。関口さんは、Hondaの研究所の試作部門に始まり、初代NSXのアルミボディの設備開発を経て、第3期F1活動ではカーボンモノコックボディの製造開発、さらに現在も続く第4期F1活動の開発拠点であるHRDさくらの風洞設備にも関わったという、まさしくフォーミュラマシンのマイスター。突発的なトラブルを抱えた学生フォーミュラのマシンを治すサポートをしている関口さんに、学生たちにかけている言葉は何かを伺いました。「大会に来たら、笑顔で帰ろう。今日ダメだったところがあっても笑顔で帰って、また来年、笑顔でチャレンジしてほしい。分からないところは、マイスタークラブ に相談してくれたらいい。」そう笑顔で語る関口さんから、学生フォーミュラへの愛情を感じることができました。
14時。晴れていた空に重い雲が広がり始めていた。ファイナルシックス出走を控え、SHIBA-4チームはエンデュランスコース手前の暖気エリアにS015を移動させる。3年生が中心となってマシンを運び、2年生がサポート、1年生たちも見守っている。そして暖気エリアについた頃、ついに雨が降り始めた。コースはウエット宣言が出され、直前のグループAクラスの出走は中断。時間が過ぎるほどに雨はひどくなる。ここで出走順が変更され、通常の2チーム×3レースから、3チーム×2レースとなった。オートクロス4位のSHIBA-4は最初の3チームの出走となる。上位3チームが後の出走だ。土砂降りの中ピットに移動した頃には、コースはもはやヘビーウエット状態だった。
ついにS015がコースイン、ドライバーは白崎さん。激しい雨の中、タイムを縮めていく。同時出走の中ではダントツのタイム。10周を走りきり、五十嵐さんへとドライバー交代。雨が弱くなるにつれてタイムを削っていった。チェッカーを受けると、サポートスタッフ全員が拍手で迎える。SHIBA-4チームも涙で迎える中、マシンはそのままレース後の騒音チェックを受ける。OK、エンデュランス完走だ。その瞬間、リーダーの諏訪さんは感極まって泣き崩れていた。路面が乾き始め、出走を控えた残り3チームはさらにタイムを縮めていくだろう。でも、SHIBA-4チームはそれどころではなかった。完走の喜び、1年間のゴールに、全員が感動に包まれひとつになっていた。
大会のすべてのイベントや記念撮影の盛り上がりも終わった頃、撤収準備を見守るリーダーの諏訪さんの姿があった。お疲れ様でしたという言葉とともに、全日本大会までの総括を伺った。「大会を通じて様々なことが変化していく中で、比較的臨機応変に動いてしっかりと全行程を走りきることができたので、全力は尽くせたと思います。悔しい結果の部分は来年しっかり挽回できるように、次のチームを支えて頑張っていきたいと思います。」と、早くも次のチームへの期待を語っていた。リーダーとして学生フォーミュラに関わって、何を得たのかを伺うと、「まず、人間的に自分を理解することができた。チームのことを考えることで自分を見つめ直す、すごく重要な1年間だったと思います。」との答え。さらに、「学生フォーミュラを経験して、クルマに対する意識は180度変わりました。小さなマシンの設計でも大変なのに、何千、何万もの部品を集めてできているクルマはどうやってできるのかということを身をもって感じる活動でした。」と続けてくれた。最後に、Hondaのサポートや講習、会話を通じて知見が広がったことへの感謝の言葉をいただくとともに、エンジニアとなる決意を固めたことを伝えてくれました。
諏訪さんに次期リーダーのことを尋ねた際に名前が上がったのが、2年生ながら信頼を置かれ、ファイナルシックスのピットメンバーも務めた沼野さんでした。8月に2年生全員が集まった時に、次期リーダーになることが決まったとのこと。「この大会では、リーダーになったらできないようなことを、今やろうという気持ちで楽しみました。」と答える沼野さん。次世代のSHIBA-4チームのことを伺うと「次のメインとなる世代は、今年の倍近い12人もいます。だから僕たちの世代では、新しいことにチャレンジして、優勝して、そしてまた次のステージへとステップアップしたい。」とリーダーとしての意欲を語ってくれました。
第16回 全日本 学生フォーミュラ大会に参加したすべてのチームにエールを贈ろう。
シェイクダウンからチームに密着し、マシンとメンバーの姿を追い続けた芝浦工業大学Formula Racing SHIBA-4チーム。リーダーをはじめ、多くのチームメンバーを通じて、学生フォーミュラに挑むことのやりがいと楽しさ、難しさが見えてきた。1年間をかけてつくられるのは、マシンだけではない。チームの一人ひとりに、頑張った分だけの知識と知恵を生み出す経験と想い出がつくられる。
Hondaは、これからも学生フォーミュラを応援していきます。
SHIBA-4もてぎ 試走会レポート
大会後レポート
みんな「ドリーム工房」で育っていった?
ツインリンクもてぎの北ショートコースの隣には、「ドリーム工房」という名の建屋ある。ここは、Honda OBで結成された技術者集団「マイスタークラブ」のマイスターたちが、学生フォーミュラの設計・製作を技術的視点で支援する拠点だ。モノづくりの喜びと技術の伝承をモットーにするこのドリーム工房では、各大学の学生たちが設計のイロハから溶接、エンジン分解・組立など、実際にパーツや工具を手にしながら貴重な体験を重ねて成長していく。
「フォーミュラ」の意味って、知ってる?
1年間かけて作り上げてきた、汗と涙の結晶のような学生フォーミュラのマシンたち。コースを走る姿を夢見て、準備万端でピットに並べてみても、走らせてもらえないことがある。それは、車検やブレーキテストといった厳しい審査があるからだ。そう「フォーミュラ」という言葉は「決まり」や「規格」という意味。安全と公平な競争のために決められた規則「レギュレーション」にすべて合致していなければ、走ることはできない。よく聞くF1も、グレード1規格=フォーミュラ1という意味だ。
「全日本大会」に、海外チームも集まる!
全日本学生フォーミュラ大会といっても、参加するのは日本のチームだけではない。2018年、第16会大会は参加登録チームが全部で98チーム。その内訳は、ガソリンエンジンのICVクラスが国内64チーム、海外17チーム。電動のEVクラスでは、国内10チームに対して、海外勢が7チームにもなる。インドネシア、中国、タイ、台湾、フィリピン、韓国、マレーシアなど、アシアを中心に多くの地域から参加。さらに海外で活躍する強豪のオーストリアからのチームも注目を浴びている。
「ファイナルシックス」は、頂点の戦い!
学生フォーミュラの動的イベントには、75mの加速を競う「アクセラレーション」、8の字コースを周回する「スキッドパッド」、直線やターン、スラロームを組み合わせた800mのコースを走行する「オートクロス」がある。そのオートクロスのタイムで出場するクラスが決まるのが、「エンデュランス」。これは、1周1000mに延長した周回コースをドライバー2名が10周ずつ走行する、全日本大会のハイライトだ。さらに全出場チームのトップタイム上位6チームのみで競うのが、「ファイナルシックス」。まさしく、すべての参加チームが目指し、憧れる、栄光のファイナルレースとなる。