モノづくりが好きだ。
クルマが好きだ。 熱中することが⼤好きだ。
ゼロからフォーミュラマシンをつくろう。
やる気とやりがいは無限にある。
「つくって、はしって、きそって」が合⾔葉。
僕らのマシンはカッコいい。
めざせ、総合優勝! 仲間とともに。
2018年、Hondaエンジンとともに、優勝をねらう
芝浦⼯業⼤学
Formula Racing SHIBA-4
彼らの熱い挑戦を、
マシンづくりから密着レポートします。
学⽣フォーミュラって、何だ?
学生フォーミュラとは、大学ごとにチームを組んで、毎年1年間でフォーミュラスタイルのレーシングマシンを設計し、フレームやパーツを製作して、「モノづくり」への取り組みや技術力、性能を競うプログラムのこと。9月に開催される「全日本学生フォーミュラ大会」では、マシン製作のコンセプトやコスト・プレゼンテーション・デザインなどの審査と、さまざまな走行性能の審査や計測によって、総合力を競う。仲間とともに設計から製作までのマネジメントやエンジニアとして挑むことで得られるのは、まるで小さな自動車メーカーのようなリアルな体験と、1年間の燃え尽きるような熱い感動だ。Hondaは、エンジンの供給だけでなく、マシンづくりのさまざまなバックアップを行なっている。
コレが、2018年を戦う
SHIBA-4マシン、S015だ
⼤きなウイングが⽬を引くSHIBA-4マシン、S015。
とにかく、カッコイイ。このマシンは、去年の⼤会で総合2位を獲得したS014の⼩型・軽量というコンセプトを受け継ぎながら、あらゆる部分をさらに進化させている。S015は、フレームはゼロから設計・製作し、さらに軽量・コンパクトに。エンジンは、HondaのスポーツバイクCBR600RRの600cc4気筒エンジンを独⾃にチューンして搭載している。S015の最⼤の武器は、サスペンションメーカーと共同開発したS015専⽤サスペンションと、新しいコンセプトのエアロパーツ。さらに、わずか0.1秒以下でシフトチェンジを⾏ってしまう⾃作のクイックシフターも⾒逃せない。もちろん、狙うのは総合優勝!S015に期待しよう。
9 ⽉、新プロジェクトリーダーが決定。
2017年9⽉、全⽇本学⽣フォーミュラ⼤会で総合2位、部⾨賞7部⾨⼊賞。SHIBA-4史上最⾼の結果を獲得というプレッシャーの中、当時2年⽣の諏訪⼀樹さんが新たなプロジェクトリーダーに就任。2018年マシンS015の開発とチームづくりがスタート。
マシンコンセプトは、「G」。
S014に込められていた、⼩さな⾝体に強さを詰め込むイメージの「The Goblin」というコンセプトをキープしながら、さらに進化させるという意味でS015のコンセプトを「G」に決定。チーム内で議論を重ねながら、メインフレームを中⼼に各パーツの設計・デザインが始められていく。
フレームワークのスペシャリスト登場。
どれほど結果が良くても、ゼロから新しくフレームを設計・製作するのが、学⽣フォーミュラのルール。S015では、1年目からフレーム設計の製作をこなせることが出来た当時⼀年⽣の三井悠⽣さんが担当となった。スチールパイプを組み合わせて強度計算と溶接するという点では⾃転⾞も学⽣フォーミュラも同じだ。彼は、設計の後3ヶ⽉も溶接に熱中することになる。
クルマ⼤好き! エアロパーツ⼤好き!
もうひとり、S015の開発にあたって、まさにぴったりのメンバーがいる。とにかくクルマとドライブが⼤好きで、それもエアロパーツがとくに好きという、エアロ命の五⼗嵐雄⼤さん。ドライバーとしてはもちろん、フロントとリヤウイングは、新しいデザインへの挑戦が始まった。
スポンサーへの営業活動、
夢のような共同開発。
学⽣フォーミュラにとって、パーツの製作や提供に協⼒いただくメーカーへの営業活動はとても⼤切な仕事。その中でのビッグニュースは、サスペンションメーカーとの共同開発という夢のような提案。これはS014がベスト・サスペンション賞1位という結果を獲得したことで、学⽣フォーミュラ専⽤ダンパーを共同開発していくことが決定。
静的審査の順位を上げなければ
いけない!
学⽣フォーミュラでは、マシンの性能だけではなく、コスト審査・プレゼンテーション審査・デザイン審査という静的審査のポイントも総合順位に⼤きく影響する。S014では、プレゼンテーション43位という結果であったために、静的審査での⾼得点をめざして、マネジメント体制を徹底的に強化して、総合優勝を狙う。
え? ライバルは⿃⼈間とロボコン!
⼤学⽣活で、⼀⽣の思い出となる「モノづくり」への挑戦を選ぶとき、学⽣フォーミュラのライバルとなるのが、なんと「⿃⼈間コンテスト」と「学⽣ロボコン」だった。これはどの⼤学も似たような状況にあるらしい。モノづくりに挑戦したいという気持ちに、クルマ好きが加わる⼈は、学⽣フォーミュラがぴったりかもしれない。
やりたいことがあれば、なんでもできる!
学⽣フォーミュラの魅⼒は、⾃主的にやってみたいことがあれば何でもできるということ。SHIBA-4をはじめ、ほとんどの⼤学では、本⼈が「やってみたい!」ことへの挑戦を尊重しているようだ。クルマが好き!というだけでなく、機械が好き!デザインが好き!競争が好き!プログラムが好き!とか、それぞれの思いがあるようだ。もちろん、プレゼンテーションが好き!とか、溶接が好き!という変わり者も⼤歓迎!
エンジニアとして、就職に効くってホント?
⼤学⽣活の中で、本当に熱中できて、本気で取り組めるのが学⽣フォーミュラの魅⼒。エンジニアとして、フォーミュラマシンの設計から製作まですべて体験できるというのは、とても貴重な経験。⾃動⾞メーカーだけでなく、さまざまな業界で注⽬されている。もちろん、Hondaには学⽣フォーミユラOBのエンジニアがたくさん働いている。
⼩さな⾃動⾞メーカーとして、考える?
学生フォーミュラの総合成績を上げるには、「静的審査」と「動的審査」の両方で高いポイントを獲得する必要がある。静的審査のひとつである「プレゼンテーション審査」というのは、自分たちが製作したフォーミュラマシンを1000台作って販売するという前提で、コンセプト・市場・ユーザー・販売価格の決定をし、実際の性能や販売企画、利益などをプレゼンテーションするというもの。設計から製作、量産移行、販売まで、まるでメーカーのように考えることが求められる。
不具合がないかのチェックを
行うテスト走行
芝浦工大SHIBA-4の
ファクトリー訪問
感動の瞬間、サーキットで初⾛⾏!
5⽉25⽇、ジュニアモーターパーククイック⽻⽣。約9ヶ⽉に及ぶ設計・製作期間をかけて、完成したフレームに組み上げたHondaエンジンに⽕が⼊り、それまではイメージでしかなかったS015が実際に⾛⾏する⽇を迎えた。モータースポーツでは、完成したばかりのマシンを実際に⾛らせてチェックする初めてのテスト⾛⾏を「シェイクダウン」と呼ぶ。設計・製作したチームメンバーにとって、もっとも緊張する瞬間でもある。チームカラーのイエローのテントで改めて組み上げられたS015をメンバーが囲み、⼊念な⾛⾏前チェックが始まった。
トラブルを
乗り越えることに意味がある。
シェイクダウン本番、サーキットにマシンを送り出す直前に、エンジンを冷却する水温が下がらないというトラブルが発生する。その中でもチームは落ち着いて対応し、無事にコースへマシンを進めていく。そして9ヶ月の間、夢に描いた、実際に走るS015の姿に感動していた。しかし、今回の秘密兵器とも言える、電子制御で0.1秒以下の変速を可能とする自作のクイックシフターはECU(エンジンコントロールユニット)の設定が合わず作動させることが出来なかった。ただ、このようなトラブルを発見し次につなげることがシェイクダウンの目的。クイックシフターを担当した沼野直樹さんは、ここで課題が出たことに意義を感じながら、ドライバーがアクセルワークで変速しながら走るS015の姿を見つめていた。さらに沼野さんは、「学生フォーミュラって、自分で考えて、自分で作って、それを付けたら、どういうふうにしたら、速くなるのか、そういうことを深くまで考えられる。そういう競技です。自分を成長させてくれる部活というか、そういう感じが一番強いと思います」と、学生フォーミュラの魅力を語ってくれた。
※クイックシフターとは、ギアのシフト(変則)を素早くする機能。
本来はウイングが
付いているのが、あるべき姿。
この日、シェイクダウンを行なったS015は、本当の意味では完成ではない。SHIBA-4マシンの特徴とも言える、大きな前後のウイングが取り付けられていなかった。ウイングを取り付けるための溶接も担当する三井さんは、シェイクダウンに遅れが出ないように、走行には影響しないウイング取り付けを見送ったことを残念がっていたが、“まずはシェイクダウンを成功させること“。フレームとサスペンションなど、走行に必要なシャシー担当としての使命感を誰よりも感じていた。三井さんは、シェイクダウンでしっかり走ってくれたことに安心しながら、溶接に取り組んだ数ヶ月を振り返り、「終わって実際に作り上げたときに、全部自分で作業して形になって。それに対してはすごく自信になったというか。自分の中でひとつ特技というか、強みというか、自信が持てるところが一つ見つかったのが、すごくうれしかったです」と、ここまでのやりがいと、その喜びを語ってくれた。
シェイクダウンで⾛る
S015の姿をみつめて。
シェイクダウンを終えて、プロジェクトリーダーの諏訪さんは、「メンバーの⾎の滲むような努⼒とともに⼤宮校舎の⽚隅の、せまいガレージの中で誕⽣S015が、実際にコースを元気よく⾛り回る姿を⽬の当たりにすると、⾮常に報われる想いでした」と、リーダーとしての責任と、メンバーへの感謝を熱く語っていた。
まるで森の中の秘密基地!
SHIBA-4ファクトリー訪問。
大宮キャンパス西側。森に埋もれるように歴代のマシンが並べられた先に、白いファクトリーはあった。中に入るとまず目に飛び込むのは巨大な金属のプレートに鎮座する製作中の彼らのマシンS015だ。この部屋は「ガレージ」といって、フレームやサスペンション、エアロなどの各パーツを製作して組み立てるためのスペース。いつも3〜4人のメンバーが交代で溶接をしたり、工作機械を使って自分たちが設計したパーツを夢中になって自作していく。なんとS015が載った巨大なプレートは、マシンの水平を維持するだけでなく、チームメンバーが徹夜申請した際にはベッドにもなるらしい。慣れてくると涼しくて気持ちいいそうだ。その隣の部屋がエンジン内部や電装関係の加工とミーティングを行う、自称「倉庫」。注目すべきは、タイヤやオイルなど、スポンサー企業から提供されたパーツがぎっしりと積まれていること。マシンをつくり、熱心に営業活動をし、ときには議論に熱中する。ここは、すべての努力を楽しさに変えるチームの秘密基地だった。
最大のイベントは1500ページの
コストレポート!
リーダーの諏訪さんに、シェイクダウンを終えてからの活動を伺ってみると、この1ヶ月の最大のイベントはコストレポートの提出だったという。コスト審査は静的審査の競技項目の1つで、総合優勝を狙うためにはどうしても高得点を狙いたいところ。レポートづくりは、使われているすべてのパーツの製作コストについてCADデータを使って綿密に計算するという、チーム一丸となって取り組む高いハードルだ。作成に関わった木名瀬芳輝さんによると、「コストレポートは去年と比べて良くなっていると思います。去年のレポートでは、修正版を結構出していました。今年はシェイクダウンを早めたことで、パーツそれぞれの最終的な設計値が早く決まって、今のところ修正が少ないので、結構いけると思います。コストレポートの不備は減点になるので、ぜんぜんできなければマイナス100点!みたいなイメージで頑張りました」。チーム全員で取り組んだ熱さが、1500ページという膨大な厚さのレポートとなったのだ。
新入生は26名。
みんなにやりがいを見つけて欲しい。
今年のSHIBA-4には、新入生勧誘の努力が実りなんと26名も参加した。その中には、エコパの試走会に1年生でただひとり「ぜひ行かせてください」と手をあげた新入生がいたという。なんとその新入生は、レーシングカート経験者とのことだ。「ドライバーの選択基準は、なによりもパッション第一!」を持論とするリーダー諏訪さんも、ドライバーとしての可能性に注目している。新入生の教育は2年生が担当するのだが、新入生たちには早くも課題が出されている。いくつかのチームに分かれてS015を支える専用器具を自分たちで設計・自作して、優秀なものだけ実際に使われるというハードな競技に挑戦中だ。つくることのよろこびと、競うことの厳しさを同時に学んでいる。
芝浦工大の目標は、もちろん総合優勝!
チーム全員がハードに挑み続けている。
プロジェクトリーダーの諏訪さんに、目標などを伺ってみた。「もちろん優勝する気満々です。だけど、まだまだやることはいっぱいある。この後テストを重ねて、マシンが速くなって、デザイン、コスト審査も確実に点数を獲得する。そうすればおのずと優勝は見えてくると考えています。」ともにこのファクトリーで抱いてきた想いや汗を握りしめ、メンバー全員が、自分が担当する部門の1位を目指していく。その姿に、総合優勝に挑むチームだけが持つ、強さと自信を感じることができた。彼らにとって、まさに“青春”というモノづくりに明け暮れたこのファクトリーで、進化するマシンと優勝への想いは、一気に加速していく。
FOR THE CHAMPION
不具合がないかのチェックを
行うテスト走行
芝浦工大SHIBA-4の
ファクトリー訪問