Innovation2020/11/30
得意を武器にして、業界をつなぎあわせる。異業種からきたエンジニアの歩み
持ち前の好奇心旺盛な性格から、感性工学という学問に魅入られ、製品開発への活用を模索してきた丸山 弘明。その知識は、Hondaが掲げるコネクテッド戦略にも生かされています。人々が乗り物に期待する新たな価値の創出に、感性工学がどのように生かされるのか?独自のアプローチを続ける丸山のキャリアに迫りました。
丸山 弘明Hiroaki Maruyama
コネクテッド戦略企画開発部 戦略企画課
2009年に大学院を修了。ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社入社後、サッポロホールディング株式会社の研究員として商品の味覚やパッケージデザイン、CMに関する品質向上に向けた研究を行う。感性に関するコンソーシアムを通じて、異業種の自動車業界に興味を持ち2018年にHondaに入社。アシスタントチーフエンジニアとして音声認識技術を用いた「AIエージェント」のUX評価を担当。
人の感性に寄り添ったモノづくりのあり方
感性工学とは、人間が五感から得る刺激に対しどのような感情を持つのか、論理的には説明しがたいその反応を科学的手法で解明しようとする学問です。
たとえば、新しくオープンしたカフェに入って雰囲気が良いと感じること。洋服店ではじめて手にとったシャツに親しみを感じること。そこには無意識に感性の論理が働いています。
感性工学を深めることで、意図的に人が良いと思える製品・サービスを生み出すことが可能なのです。
そんな感性工学に丸山が出会ったのは、最初に就職した飲料・食品メーカーのポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社でした。
丸山「大学では、水産資源の動態を研究していました。生態系の変化により、淡水魚の資源が減っていくのか増えていくのか予測をするために、統計学やシミュレーションを学んだりしていました。就職すると、大学での経験を買われて、商品の評価を担当するようになりました」
評価系の仕事とは、商品である食品・飲料が、消費者の口に含まれたとき、どのような味として認識されるのか調査を行い、評価することで、商品開発やブランディングにつなげることをミッションとしたものでした。
そんななかで丸山は、味だけではなく多角的な分析で消費者のニーズを読み解く重要性に気が付きます。
丸山「味覚や嗅覚などの研究もしていましたが、お客さまの評価というのは口に入れたときときだけではなく、店頭で商品を見たときや、CMを見たときなど、様々な要素が絡んでいるんです。脳科学や心理学、感性工学を学ぶ必要性を感じて、働きながら大学院へ通うようになりました」
メーカーの視点で消費者心理をよりよく理解しようとする積極的な行動が、Hondaへの入社へとつながっていきます。
感性工学が異業種をつなぐ
感性への研究をきっかけにして、丸山は感性に関するコンソーシアムに参加します。
そのコンソーシアムでは、10年後の目指すべき社会像を見据えて、チャレンジングでハイリスクな研究開発を支援する活動で、丸山が参加したプロジェクトには、自動車メーカーも名を連ねていました。
丸山「それまでわたしは、食品に対して人が働かせる感性に興味を持って取り組んでいたんです。しかし、感性というものは、食品にも自動車にも隔たりがなく、同じような評価方法が使えることに気付かされました。むしろ自動車業界のほうが、精力的に研究に取り組んでいるイメージを持ちましたね」
自分の専門性をもっと生かせる職場を求め転職を決意した丸山。選んだのはHondaでした。
丸山「Hondaに興味を持ったのは、AI活用に感性工学を応用しようとする取り組みがなされていた点でした。当時は、AIを利用するユーザーの評価分析などに課題を持たれていて、私の経験に期待をかけていただいたことがうれしかったですね」
自らが培ってきた強みが評価され、AIという新たなジャンルにも挑戦できる環境に、丸山は独自のキャリアが開けていく可能性を見出しました。
パーソナルアシスタントをより親しみのある存在へ
Hondaで感性研究に就いた丸山は、音声認識技術を用いてHondaが開発する「AIエージェント」のUX評価を担当しました。
丸山「自動車においては、従来、デザインや乗り心地、運転のポジション二ングなどがユーザー評価の大部分を占めていました。しかし、わたしが担当しているのは、音声でユーザーとコミュニケーションをとるエージェントの“振る舞い”です。AIエージェントのシステムや機能が、どのように振る舞うとユーザーにとって一番価値を提供できるのか、感性工学の観点から評価し開発に役立てているんです」
すでに市場にある機能はユーザーの評価を定性・定量的に把握することができますが、まだユーザーが接していない機能を開発するときにも、感性工学のノウハウが大いに役立ちます。
丸山が挑むのも、まさに「まだ世に無い機能」の実装です。
丸山「音声認識技術を用いたパーソナルアシスタントは、ドイツのメルセデスをはじめ、一般的になりつつあります。ただ、画像認識技術など、多様な先端技術を用いることで、より複雑な機能を提供していくことも可能です。今までに無いような新しい機能に対して、お客さまはどう感じるのか、その機能を本当に欲しいと思ってもらえるのかを探っていくことが私のミッションなんです」
丸山はHondaへ来てから、自身が行なった評価や研究が製品開発に直結し、形となっていくことに強いやりがいを感じています。
丸山「研究のための研究ではなく、製品やサービスに生きる形で研究がある。さらに言えば、最終的な製品・サービスに対して、お客さまがどのような評価をしているのか、研究結果との照らし合わせを行なっています。研究から最終アウトプットまでを見据えて、プロセスがしっかり組まれていることがHondaの強みだと感じますね」
Hondaのコネクテッド戦略を支える人材に
丸山の研究は、Hondaが掲げるコネクテッド戦略においても重要な役割を果たしています。
自動車を常時インターネットにつなげることで、新たな移動に新しい価値をもたらそうとするコネクテッド戦略。より複雑化するサービスを、ユーザーがシンプルに扱える状態をつくるには、AIエージェントを軸としたインターフェースの設計が大きく影響するのです。
しかし、丸山に求められるのは感性工学に通じる知識だけではありません。
丸山自身、異業種で経験を積んできたバックボーンがあるからこそ、コネクテッドの広がりに夢を膨らませています。
丸山「食品や飲料のように、車も生活の一部として存在するんです。コネクテッドという概念のなかでは、移動中だけでなく、それ以外の生活シーンも含めた体験価値をいかにつくっていくかが重要でしょう。包括的に人の体験価値を考えるとき、異業種で学んできたことも強みになると思うんです」
自動車という乗り物がさまざまなモノとつながることで、移動という概念が変わり、Hondaが提供するサービスもどんどんと広がっていきます。丸山のように自身の得意を武器にして、業界と業界をつなぎあわせるような人材こそ、そうした未来を実現するのに欠かせない存在なのです。