その他の多角的な取り組み
Hondaは社会全体におけるカーボンニュートラルを実現するために、モビリティの電動化に加えて、多角的なアプローチでチャレンジをしています。
SAFの普及拡大に向けた取り組み
長距離/高速移動が求められる航空機については、バッテリー置換によるカーボンニュートラル化にはまだまだ時間を要すると見通しており、当面はSustainable Aviation Fuel(SAF)が有効な手段になると考えています。SAFは既存ジェット燃料と混合または置き換えることでCO₂排出量を大幅に減らす次世代燃料であり、航空機のカーボンニュートラル実現に向けた重要な技術と位置付けています。
Hondaは、SAFの普及・拡大のフロントランナーとなるべく、SAFに関して「ルール化する」「使う」「つくる」の3つの観点で活動を推進しています。
「ルール化する」の観点では、国内ではSAFの普及に取り組む団体であるACT FOR SKY、米国では米国連邦航空局(FAA)と機体・エンジンメーカーで構成されるFAA/OEM Review Panelへ加盟し、SAF供給網やバリューチェーンの構築に向け業界団体との連携を行っています。また、航空機および航空エンジンを開発・製造する立場から、新たに開発されたSAFについて他の参加企業とともに各種試験データのレビューを通じて安全性を評価し、SAFの規格化を支援しています。
「使う」の観点では、Hondaとゼネラル・エレクトリック社(GE)が合同で100%SAFに対するHF120エンジンの適合性評価に成功しています。
「つくる」の観点では、一般的なバイオ資源や廃棄物からつくられるバイオ燃料だけではなく、PtL(Power to Liquid)と呼ばれるCO₂と水素から直接燃料を合成する、第3世代のSAFの触媒および触媒反応プロセス研究を進めています。
CO₂からの直接合成は世界的にもほとんど例がありませんが、ICEで培ってきた排出ガス浄化触媒の技術を強みに、SAFの安定的な供給への貢献に向けて取り組んでいきます。
SAFに対するHondaのアプローチ
カーボン循環(カーボンサイクル)の取り組み
DAC技術研究開発への着手
DACテストモジュール
IEA(国際エネルギー機関)の「Net Zero by 2050」レポートによると、産業、輸送、建物セクターによるCO₂排出はゼロにはならないとの予測であり、ネットゼロ実現には時間を要します。そのような背景から、大気中のCO₂を回収・除去するネガティブエミッション技術が求められており、HondaはDirect AirCapture(DAC)の技術研究に着手しました。DACは、大気中からCO₂を直接回収する技術であり、これにより企業活動全体としての実質的なCO₂排出量を削減し、ネガティブエミッションを実現することが可能です。
DACは植林などによるCO₂吸収に対し、CO₂除去効果が明確でLife Cycle Assessment(LCA)検証が容易というメリットから、パリ協定の目標達成に向けた重要な手段としても注目されています。
Hondaは、これまでのさまざまな製品開発、技術研究を通して培ってきた空力・流体解析技術、熱マネジメントや材料技術、ものづくりの大量生産ノウハウを活かした、高いエネルギー効率と低コストを両立するDACの実現に向けて挑戦しています。
現在、2030年代の商用化を目指して、2024年3月期より研究開発設備を稼働させ、原理証明や技術課題の抽出を進めるとともに、技術実証に向け協業先との連携を推進しています。
DAC技術により、2050年の自社の企業活動全体でのカーボンニュートラル達成のみならず、社会全体のカーボンニュートラル実現に貢献することを目指しています。
水素活用拡大
高効率稼働(長距離走行/連続運転、高出力、短時間での燃料供給)が求められる中大型の商用モビリティや建設機械、大型インフラの電源システムなどについては、完全なバッテリー置換が困難とされています。Hondaはこのような領域に対して、水素をエネルギーキャリアとした燃料電池(FC)システムがカーボンニュートラル化に向けて有用なソリューションと考え、水素の活用拡大に向けた取り組みを加速しています。
直近では、株式会社トクヤマ、三菱商事株式会社とのデータセンター向けFC定置電源の共同実証へ参画(NEDO※採択、2023年6月)、いすゞ自動車株式会社と合同での燃料電池大型トラックの公道実証(2023年12月)を開始しております。また、General Motorsとの合弁会社にて、新型FCシステムの量産を開始(2024年1月)しました。新型システムは「CLARITY FUEL CELL(2019年モデル)」の搭載システムと比較し、コストを3分の1に低減、耐久性を2倍に向上させるとともに、耐低温性を大幅に向上させています。このシステムを新型「CR-V e:FCEV」(米国、日本にて2024年7月発売)へ搭載するとともに、BtoB向けの外販を計画しています。
Hondaは、カーボンニュートラル社会の実現に向け、いち早く水素の可能性に着目し、30年以上にわたり水素技術やFCの研究・開発に取り組んできました。現在は、コア技術であるFCシステムの搭載・適用先を、自社のFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle、燃料電池自動車)だけでなく、社外の運輸セクターやさらには産業セクターまでアプリケーションを拡大するべく、事業化に取り組んでいます。FC普及のフロントランナーとして他社との協業を積極的に進め、水素を使う領域を拡張することで、社会全体のカーボンニュートラル化に貢献していきます。
NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
コアドメインと提供価値
再生可能エネルギーの活用拡大
世界の電力需要は今後増加していく見込みです。Hondaにおいてもモビリティの電動化にともない電力需要は増加していきます。そのため、モビリティをはじめとしたさまざまな電動製品の電力そのものを、クリーンな再生可能エネルギーへ置き換えていくことも重要です。しかし、風力や太陽光発電に代表される再生可能エネルギーは、発電量が天候や季節に左右され、電力需給や系統容量に合わせたコントロールが困難です。そのため、安定した電力供給を考慮すると、電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を高めていくためには、不安定な発電量をカバーすることのできるバッファ機能、つまり「調整力」の確保が不可欠となります。
Hondaは、EVに搭載された大容量バッテリー、車載バッテリーの二次利用による定置バッテリーと、エネルギーマネジメント技術によって、電力網へ調整力を提供し、再生可能エネルギー導入・活用拡大に貢献できるよう取り組みを行っています。
北米では、BMWグループおよびフォード・モーターと「ChargeScape」の設立に合意しました。自動車メーカーと、米国およびカナダに数多く存在する電力会社を結ぶ情報プラットフォームを提供し、台数規模による広範な電力調整力で電力網の安定化を目指します。また、その安定化を通じて再生可能エネルギーの活用を最大化するとともに、お客様の充電料金の負担軽減や電力会社のコスト削減にも貢献します。日本においては、EVの総保有コストを低減する新たなモビリティサービスと、EVバッテリーを長期に活用する新たな電力事業の構築を狙い、三菱商事株式会社と合弁で「ALTNA(オルタナ)株式会社」を設立しました。ALTNA株式会社では、EVの充電エネルギーサービスであるV1G※1スマートチャージを提供しお客様の充電コストを削減するとともに、将来的にはEVの蓄電池と電力網との間で充給電するV2G※2サービスの提供を目指します。また、車載利用を終えたバッテリーを回収して電力網用の蓄電池として活用し、調整力を供給することで、希少資源の国内循環と、さらなる再生可能エネルギーの普及拡大へ貢献していきます。
- V1G:単方向の充電制御、電力網からEVへの充電
- V2G:Vehicle to Grid、電力網からEVへの充電のみならず、EVに蓄えられた電力を電力網に供給する技術
- V2H:Vehicle to Home、住宅にEVから電力を供給する技術
- V2B:Vehicle to Building、事業所や工場にEVから電力を供給する技術