Innovation 2023/10/02
エネルギーとモビリティの最前線。グローバルで挑むエネルギーマネジメント
カーボンニュートラル実現に向けて取り組みを加速させるHondaでは、電気自動車の普及をめざすとともに、再エネ自家消費の最大化に向けて、クルマと家のトータル電力マネジメントや、それをベースにしたエネルギーサービスの新規事業にも取り組んでいます。その最前線となるアメリカに駐在する新家 貴浩と、本社で各地域のリーダーを束ねる渡瀬 顕人に、仕事のやりがいを聞きました。
渡瀬 顕人Akito Watase
コーポレート戦略本部 コーポレート事業開発統括部 エネルギーサービス事業開発部 チャージングソリューション事業課
新卒でHondaへ入社後、二輪車の営業を経て現職。充電、エネルギー事業を全世界で推進すべくグローバルヘッドチームの課長として、各拠点のプロジェクトリーダーをサポートする。
新家 貴浩Takahiro Shinke
American Honda Motor Co., Inc.
通信会社で事業開発の経験を積んだ後、Hondaに転職。次世代エネルギービジネスへの関心が強く、HondaのV1G/V2Gサービスをアメリカでいち早く普及させるべく2023年5月より現地に駐在する。
新しいエネルギーマネジメントのカタチとは
Hondaが力を注ぐ新規事業の1つとして、V1G(単方向の充電制御。電力系統からEVへの充電)や、将来的にはV2G(Vehicle-to-Grid: 双方向の充放電制御。電力系統からEVへの充電、EVから家や電力系統等への放電)と呼ばれる、エネルギーサービスの実現と普及が挙げられます。具体的には、電力の需給バランスを取るために、状況に応じてEV充電のタイミングを調整することで、電力系統の安定化に貢献しようとするものです。
EVを分散型電源として活用し、太陽光発電なども含め効率的に運用することで系統安定化が図られ、再生可能エネルギー由来電力の活用が最大化されることを期待しています。
そんなエネルギーサービス普及に向けた挑戦の舞台のひとつになっているのがアメリカです。
「2023年の5月からAmerican Honda Motor Co., Inc.に駐在し、エネルギーサービスの立ち上げを進めています。充電器販売の推進にはじまり、エネルギーサービスのパートナー選定、事業企画、予算取り、営業や開発といった他部署との連携など、さまざまな業務を担当しています」
一方、本社にあるエネルギーサービス事業開発部チャージングソリューション事業課は、グローバル全体で充電、エネルギーサービスの立ち上げを管轄するチームです。課長の渡瀬は、現地駐在員の重要性をこう語ります。
「ガソリン車から電気自動車に変わることで、われわれメーカーとお客様との関わり方も変わっていくと思います。ハードを中心につくられてきたリレーションだけでなく、電気を介することでより多くのステークホルダーと連携していく必要が生まれてきます。新たなつながりを生むためには、やはり現地に根を張って対話する人材を置くことは不可欠でしょう」
特にアメリカはエネルギー関連の新規事業をグローバルに展開していく未来を見据えたうえでも、最前線の認識で挑むべき要所です。
「日本は諸外国と比較して電動自動車の普及に遅れを取っている部分があります。電気自動車が先行しており、ビジネスポテンシャルの高いアメリカで事例をつくることが重要だと考えています」
「その意味では立ち上げるだけでなく、立ち上げたあとにお客様にサービスがフィットするよう調整して、事業を軌道に乗せるまでが自分のミッションだと思っています」
エネルギーに挑戦するならHondaしかない
Hondaにおけるエネルギー分野への挑戦の歴史は、決して浅くありません。2010年代から電気自動車を家庭用蓄電池として活用するV2H(Vehicle to Home*)のプロジェクトを進めてきました。しかし、実証から事業へと飛躍するには、さらに新しい知見が欠かせません。新家も外部の専門的な知見を有する人材として、キャリア入社した一人です。
*クルマ(Vehicle)から家(Home)に電力を供給すること
「前職の通信会社でも新規事業の立ち上げを担っていて、次世代エネルギーに関するプロジェクトマネジメントをしていました。次第にこの業界の方々がピュアに語り合う、未来のエネルギーのあり方に惹かれるようになって、自分もより大きな挑戦がしたいと考えるようになったんです」
そうしたなか転職先の候補として新家の頭に浮かんだのがHondaでした。
「エネルギーの脱炭素化、デジタル化といった変革は、社会に大きなインパクトを与えるもの。しかし一般の方は、ピンとこないと思うんです。まだまだ多くの人を巻き込めていないという課題感があって、分散電源にその答えがあると感じました。つまりは『蓄電池としてのクルマ』です。
Hondaのエネルギーに対する先進的な取リ組みは、以前から電力関係のシンポジウム等で見知っていたので、クルマをエネルギーデバイスとして、次世代エネルギーの社会変革を目指すならHondaしかないと考えたんです」
新家のように熱意のある専門人材が加わることは、Hondaにとっても大きな刺激となります。
「Hondaは先進的な取り組みにも果敢に挑戦するので、その最前線に立つメンバーの全員が経験豊富なわけではありません。新家さんのように専門人材が一人、また一人と加わることで、組織が飛躍的に強化されていくのを感じます」
市場と技術者をつなぎ付加価値を生み出す
キャリア入社した新家にとっても、Hondaのカルチャーは大いにやる気を引き出してくれるものです。
「当初配属された本田技術研究所のメンバーと接して気づいたのは、物事を理解して深めていく能力や、興味をもって突き詰めていく姿勢がベースにある組織だということです。
前職にいたころは、私が新しいビジネスを企画しても、技術者たちがなかなかついてきてくれないことがありました。リソースが足りないということは理解しています。それでも『ここを工夫できればもっと良いものになるのに!』と悔しく思っていたんです」
そんな苦い経験があるなか、Hondaで得たのは真逆の体験でした。
「技術の方々はいつだってスタンバイOKなんです(笑)。新しいエッセンスを見出せば、探求心を持って一緒に走ってくれる。市場のニーズと技術をつなぐことを生業とする私のような人間にとって、大きなやりがいが持てる環境なんです。何か突破口が見つかれば、Hondaの技術者はもっとすごいものをつくってくれるのではないかとワクワクします」
技術者の姿勢に感銘する新家ですが、もちろん外部から来たからこそ見える課題もあると言います。
「技術者が自走できる組織だからこそ、時にマーケットとずれた方向に進んでしまいそうになることがあるかもしれません。そこを整理していく役割や動き方さえ見出すことができれば、事業開発はより効率的になるでしょう。まさに今、その理想のフォーメーションを求めて、Hondaの技術者とアメリカの市場を橋渡しするチャレンジがすごくおもしろいですね」
「社内の技術者だけでなく、外部の技術会社ともつながっていきたいですね。必要な技術をすべて自前で持ち合わせているわけではありません。メンバーもリスキリングしながら、パートナリングによってビジネスを創っていくことが、われわれの挑戦の醍醐味だと思っています」
「まさにそうですね。業界自体が発展途上であって、ルールがどんどん変わっています。いろんなところにビジネスチャンスがあるからこそ、柔軟に技術を補っていくのが大事ですね」
自分のために働く結果が社会をよくしていく
自身のキャリアにおける展望と組織環境を一致させた今、新家はいよいよアメリカでの活動を本格化させようとしています。
「Hondaは、2024年からアメリカ市場で電気自動車を本格投入していく計画です。ここから3年ほどは、まずEVと、それを支えるエネルギーサービスなどの新規事業を成り立たせることが大きなミッションになってきます」
もちろん並行して、家とクルマの電力をトータルでマネジメントする仕組みやサービスは、お客様により受け入れていただけるよう、改善していかなければなりません。
「Hondaのクルマを蓄電池として活用できるサービスを洗練させていくことで、よりHondaの電気自動車を買って良かったと思ってもらえると思います。新規サービスは、出していきなり100点の仕上がりは難しいとも思うので、駐在期間中に可能な限り、継続して付加価値の向上にも取り組んでいきたいと思っています」
新家が覚悟を持って先々を見通せるのは、そこにある種、利己的な想いがあるからだといいます。
「結局は純粋に未来の電気のあり方に興味があるんです。電気は、あくまで自然の物理現象ですが、市場ルールの作り方次第で、いくらでも新規事業のチャンスが生まれます。電力取引は、エリアや時間帯などで今後ますます細分化していくでしょう。暮らしのインフラである一方、そうやって商売が成り立っているコントラストがとてもおもしろい。だからこそエネルギーマネジメントが重要で、私はそこを突き詰めていきたいだけなんです。それがゆくゆくは、お客様がHondaのクルマを選ぶひとつの理由になってくれたら嬉しいですね。
それに、本田 宗一郎氏も『会社のために働くな、まずは自分のために働け』と訓示していたそうです。自分のために仕事をすることが公に許されていることが本当にありがたいと思います(笑)。こんな自分本位の、少し青臭い話に耳を傾けてくれる社員が大勢います。そこがHondaの良いところです」
「青臭い話ができるのは、利益を優先するのではなく、お客様に新しい価値をどうやって届けていこうかと考えるところからまずスタートするという文化があるからですね。大きな会社ですが、意外とピュアな一面があるんです」
「だからこそ仕事にワクワクできる人材が集まっているんでしょう。そこがなければ、困難な出来事に出くわしたとき、前に進むことができない。自分がおもしろいと思ったことに粘り強く挑戦できる人こそ、Hondaに合う人だと思いますし、私もそういう人と一緒に働きたいです」
エネルギービジネスという新しい分野に挑戦することで、新家のような「自分が好きなものにワクワクできる人材」がまた一人集まってきました。Hondaはより良い未来を夢見ながら、新しい仲間を増やし続けます。