Sustainable impacts 2023/07/25
クルマも人も進化し続ける──ソフトウェアアップデートを支える技術者集団
先進テクノロジーを搭載する近年のクルマは、ソフトウェアをアップデートすることで、販売後も機能を向上させていくことができます。ソフトウェアアップデートの基盤をつくり、HondaユーザーのLTV(Life Time Value)実現をめざすのが先進サービス課です。多様なスキル・専門知識を必要とする同課で活躍する3人の軌跡をたどります。
大黒 敦史Atsushi Oguro
カスタマーファースト統括部 サービス技術開発部 先進サービス課
新卒で入社したHondaを一度退職。テスラの日本法人でサービス部門の責任者を経験した後、トヨタ自動車で生産技術部門からソフトウェアの商品企画部門を経て、2023年にHondaへアルムナイ入社。
滝 知明Tomoaki Taki
カスタマーファースト統括部 サービス技術開発部 先進サービス課
電機メーカーでパソコンなどの開発に従事した後、2016年、Hondaへ入社。入社以来主にソフトウェアアップデート基盤を実面でリード。
居駒 洵也Junya Ikoma
カスタマーファースト統括部 サービス技術開発部 先進サービス課
電機メーカーでIoTシステム開発に従事。その後IT企業に転職しクラウドサービスの開発・運用経験を積み、2020年にHondaへ入社。
ソフトウェアアップデートでクルマの持続的な進化を実現する
カスタマーファースト統括部サービス技術開発部は、元来販売したクルマのメンテナンスに必要なツールの提供をしてきた部門です。そのうち先進サービス課は、市場の変化や技術進化を見据え、お客様が求める新たなサービスの開発・導入を担っています。
「お客様のクルマが故障してしまった場合に、どこに問題があるのか診断をするソフトウェアを開発してきました。また、そこから発展してクルマに搭載されているソフトウェアのアップデートを提供するのも現在のわれわれの仕事です。今後は単純に不具合を直したり、性能をアップさせたりするだけでなく“クルマの進化”をソフトウェアによって実現し、お客様への提供価値とUXの向上をめざしています」
大黒がグループリーダーを務めるシステム開発グループは、ソフトウェア配信基盤の企画から開発までを担う専門的なチームです。フロントエンドの開発だけでなく、サーバーサイドの開発も行うなど、メンバーの業務は多岐にわたります。
リーダーを務める滝は、ソフトウェアアップデートによるサービスのコンセプトメイキングからシステム全体のデザインと、開発後の車両の検証業務を担当しています。
「コンセプトメイキングでは車載ユニットの開発部門とも協議し、車内でお客様にどのようにソフトウェアアップデートのサービスを提供するのかを考えています。また、サービスの仕様に合わせたサーバーの構築やアップデート情報の届け方の検討、その業務設計も一気通貫で担っています。
従来は地域特化型で国ごとに開発を行ってきたのですが、開発コストの圧縮やサービス品質の安定化をはかるために、これらのプロセスをグローバルで統一しようと動いているところです」
しかし、グローバルで共通化をはかることは簡単ではありません。国によってサーバー設置やシステム開発に関する法規が異なるため、柔軟な対応が求められます。専門知識を持った人材が不可欠な状況のなか、IT企業から転職してきた居駒もそのひとりです。
「滝さんが描いたシステムデザインを、主にサーバー領域の要件に落としこみ、社内のIT部門や社外のシステムベンダーをとりまとめて開発していくことが主な仕事です」
システム開発グループでは、サーバーシステムの専門家として居駒がいるように、ソフトウェア開発に必要な多様な要素をそれぞれ専門性のある人材が担っています。自動車開発というよりもシステム開発の傾向が強い業務内容から、部内の半数以上は専門性を持ったキャリア入社メンバーです。
クルマを取り巻く環境変化に挑戦のしがいを見いだす
大黒、滝、居駒は、全員が社外で経験を積んできたメンバーです。誰もが自動車業界に変革の熱気を感じ転職を決めたといいます。
居駒は、新卒で電機メーカーへ入社し、サーバーとクライアントをつなげるIoTシステムの開発を担当していました。しかし、当時は日本全体で電機メーカーの経営状況が悪化しているような状況で、将来のキャリアを考えてIT企業へ転職します。そこでは、数十台のサーバーを並列につなぐ大規模クラウドサービスの構築などを経験し、サーバーシステムに必要なスキルを一通り学ぶことができました。
「自分が経験を積んでいくなか、電機メーカーは苦境に立たされていました。そのため、もともとその業界に身を置いていた人間としては悔しい思いがありましたね。日本の製造業に貢献したいという思いが高まり、MaaSなどの新たな試みをはじめていたHondaに惹かれ入社を決意したんです」
一方の滝は、学生時代から自動車業界への憧れがあったといいます。
「クルマやバイクが好きだったので、新卒の就職活動でもHondaを志望していたんです。残念ながら叶わず、同じ開発系の会社ということで居駒さんと同様、電機メーカーに就職しました。しかし、業界再編の動きも激しく、いつまで自分が開発に携わり続けられるか不安があったんです」
そんなときに、電機メーカーと同じように海外勢が勢いづきはじめている自動車業界が再び目に止まりました。
「日本の基幹産業である自動車業界も電気機器業界と同じような道をたどらせたくないという想いが強かったんです」
居駒や滝のように続々とITの知見を有したキャリア入社メンバーが集まってくる一方、自動車業界で確かな経験を積んだ人材の重要性も再認識されています。大黒もそうした人材のひとりです。実は大黒には、かつてHondaに勤め、2018年に1度退社した過去があります。
カスタマーサービス部門に勤めていた大黒は、モビリティビジネスが変わりゆくなかで外の世界を見てみたいと考え、テスラの日本法人に転職し、カスタマーサービス部門の責任者として、自前のサービスセンターの運営責任者やソフトウェアアップデートを含む市場品質を担当していました。
「テスラ社に入って痛感したのが、日本の自動車メーカーの行く末です。テスラ社のビジネスモデルや製品の作り方は、ソフトウェアデファインドそのもので、これまで日本の自動車メーカーが作ってきたものとまったく異なるものであり、相対するものでした。
このままテスラのビジネスモデルがデファクト化していくと、日本の自動車メーカーも淘汰の渦に巻き込まれ、ひいては、日本経済基盤が衰退してしまうかもしれない。この業界で育ててもらった自分としては、この状況を立て直すことで恩返しをしたいと考えたんです」
日本の自動車業界に復帰することを決意した大黒は、当初Hondaではなく、縁があってトヨタ自動車へ入社しました。そこで感じたのがライバルの重要性です。
「トヨタ自動車が継承と進化の中でさらなる変化を遂げようとする今、同じグローバルで厳しい競争に晒されていて距離的にも近いHondaも強い競争力を持たなければ、日本の自動車業界全体が成長していけないと感じたんです」
クルマとITをひとつに
Hondaに復帰した大黒は、部門のミッションにとらわれず、社内外の関係者を巻き込みより先進的でソフトウェアデファインドな仕組みとサービスを実現するために活動をする人材として活躍しています。
一方、もともと電機メーカーにいた滝とIT企業にいた居駒、自動車業界でそれぞれの経験が生かされている実感を得ています。
居駒の場合、システムを実際に開発する実行部隊としての経験が、ユーザーサイドに立ってどのような体験が必要か考える際に役立っていると話します。
「サービス技術開発部は、ビジネスを実現するためのITをどう作るか戦略的に考えるチームだと思っています。ユーザーに提供したい体験を先に描き、IT部門を巻き込みながらのシステム実現方法を考えていくという流れは以前の職場ではできなかった経験ですし、よりビジネスに近いところで仕事ができているという実感が嬉しいですね」
滝は、クルマへの知見を深めることで、自身の経験が花開きました。
「IT出身の僕たちからすれば当たり前の技術が、クルマにおいてはそうじゃないなんてことはよくあります。当初は歩み寄れないと思える部分もあったのですが、私自身クルマのマイコン制御のECUの考え方についてについて学ぶうちに、サーバーと車載ユニットのつなぎは『そんなに簡単ではないんだ』という人たちの意見もわかるようになってきたんです。
最終的には一つのチームとなって、ソフトウェアアップデートを実現するシステムの一端を作り上げることができ、道半ばであるものの達成感を得ています」
粘り強くチームのあり方を模索し成果につなげてきた滝がよりどころとしていたのは、技術者への信頼です。
「まずはどういう世界を実現したいのか強く思い描くことが大事だと思っています。そのゴールと価値観を共有することができれば、違う分野であっても技術者は一丸となることができるんです」
「厳しい競争を生き抜き、存在を期待される企業であり続けるためには、部門を超えた運命共同体の意識を持つことは大事ですね。会社全体でコンセプトを共有し、一蓮托生の想いで助け合っていかなくてはなりません。
先進サービス課のメンバーに重要なのは、自分の持ち味やスキル、経験を惜しみなく生かし、異なる部門と相互信頼と共感を醸成する人間力であり、失敗を恐れず前に進む行動力だと思います」
先進を求め、バラエティに富んだ技術者集団へ
クルマとITという枠組みを取り払い、Hondaの進化に貢献する先進サービス課ですが、その課題は組織力の強化にあります。
「クルマのソフトウェアアップデートのために基盤をつくり、まずは第一段階を突破したフェーズです。これについては、他社ができていない領域にまで踏み込むことができ、良いものをつくれたと自負しています。
そして、これからが本格的にクルマを進化させていくフェーズです。新しいビジネスを構想できるメンバーも必要になっていきますし、現在出来上がった技術をベースとしながらさらに進化させていく開発メンバーも必要になる。今後を見据えて、チームがどんどん強くなっていかないと持続的な成長はできないと思っています」
クルマの進化の可能性が無限大であればこそ、求めるスキルに制限はありません。
「何かひとつでもITのスキルにとがったところを持っている方であれば、活躍いただけると思います。あえて言えば、われわれはシステムを作り上げて実用化、運用していくフェーズに入っていきます。そのためITシステムの運用スキルに関する人材のニーズもありますが、アプリケーションなどの開発スキルを持った人材のニーズも継続して高い状況ですね」
「それぞれが違ったものを持っているからこそ、新しいアイデアが生まれます。この領域は負けないぞという気概を持った方にぜひ挑戦してもらいたいです。むしろそうした想いがなければ、技術者集団のなかで主体性を発揮することは難しいかもしれません」
「これからのHondaは、これまで以上にバラエティに富んだ技術の集合体でなくてはなりません。強みを持った人が欲しいといえばその通りですが、それらの集合体であるからこそ、互いの意見に耳を傾け尊重し、そこから学び取って成長しようとする人にこそ輝ける環境にしていきたいですね」
ソフトウェアからクルマの価値向上に挑戦しているHonda。先進サービス課のメンバーは、その価値をお客様に届ける最前線で各自の技術スキルを発揮しています。