
「夢の力」を信じ、
独創的な技術とアイデアで
モビリティの進化に挑み、
自由な移動の喜びを創造します
取締役
代表執行役社長
最高経営責任者
三部 敏宏
創業期から変わらぬ想い
Hondaは創業期から自分たちの「夢」を原動力に、尽きることのない情熱と独創的な技術、アイデアを大切にしながら、誰もが無理だと思うようなことに果敢にチャレンジし成長を続けてきた会社です。創業者の本田宗一郎は、戦後まもなく、まだ人々の移動手段が自転車だった時代に、技術で人の役に立つという想いから自転車用補助エンジンを製品化しました。当初は無線機の発電用エンジンを活用していましたが、すぐに独自性にこだわったオリジナルのエンジン開発に挑戦、Honda最初の製品となるA型を発売し成功を収めました。さらに、資本や規模に勝る二輪メーカーがひしめき合う中、創業当初から世界一のオートバイメーカーになるという壮大な「夢」を抱き、創業からわずか5年後に当時世界最高峰の二輪レースであったマン島TTレースへの参戦を宣言。初めは世界との力の差に愕然としながらも、決して諦めることなく挑戦を通じて技術を磨き続け、ついには出場3年目に125cc・250ccの両クラスで当時のコースレコードを更新し、1位から5位を独占、まさに世界一の実力を証明したのです。この創業期のエピソードから学べることは、夢を持つこと、そして、その実現に向けて遮二無二取り組むことの大切さだと思います。つまり、夢を信じて努力を続けていけば、実現できない夢はないということです。
現在、Hondaの二輪事業は世界で最も多くのお客様に選んでいただけるまでに成長を遂げました。創業者の「夢」に共感・共鳴して集まった多くの仲間たちが、情熱を持って不断の研究と努力を重ね、挑み続けた結果だと思います。こうした歴史からも分かる通り、私たちは、夢の持つ力を信じている集団です。Hondaがこれからも存在を期待される企業であり続けるために「夢の力」が何よりも大切だと考えています。
Hondaの目指す姿
Hondaは「夢」を原動力に、独創的な技術とアイデアによってモビリティを進化させ、より良い社会をリードする総合モビリティカンパニーでありたいと考えています。人は移動することによって生活圏を広げてきましたが、「もっと遠くへ、もっと速く、もっと自由に移動したい」という想いは人間の根源的な欲求でもあり、社会にとってモビリティは必要不可欠なものと考えています。私たちは、モビリティの進化を自らの技術とアイデアで創造していく企業となることを目指しています。2023年にグローバルブランドスローガンである「The Power of Dreams」を再定義しました。モビリティの本質的価値である「解放」と「拡張」を私たちの「夢の力」を起点として「創造」していき、そして私たちの生み出したモビリティが夢に向かって踏み出す人の原動力となっていく。その力が周りに波及し、新たなつながりが生まれ、社会全体に夢が広がっていき、より良い社会の実現につなげていきたい。このブランドスローガンにはそのような想いが込められています。
独創的な技術へのこだわり
さまざまな企業やステークホルダーの皆さまから、「Hondaは技術にこだわりのある企業ですね」と言われることが多いのですが、確かに創業以来、自らの技術とアイデアで価値を創造していくという姿勢にはこだわりを持っているつもりです。もちろん、複雑な課題に対するソリューションを実現する中では、私たちが有していない知見を持つ多くのパートナーの皆さまとの共創による価値創造が重要であり、取り組みを強化していますが、それさえも自分たちの中に確固たる技術やアイデアがなければ成立し得ないものと考えています。この観点から技術とアイデアを育み続ける企業風土が重要となります。Hondaには、モビリティをさらに進化させ、より良い社会を実現させたいという強い想いを持った多様性に富む人材が多く集まっています。その仲間たちがHonda独自の文化である「ワイガヤ」に代表されるように、自らの能力や個性に基づく主張を互いに何度もぶつけ合いながら、本質に迫り、新たな価値の創造に情熱を傾け、挑み続けています。創業以来受け継いできたこの企業文化は、これからもHondaの財産であり、大切にしていきたいと思います。
総合モビリティカンパニーとしての使命
多様なモビリティを通じて世界中に「自由な移動の喜び」を持続的に届けていくためには、人と社会に対して負の影響を与えないことが極めて重要です。こうした考えからHondaは、モビリティカンパニーの責務として「環境」と「安全」という二つの大きな社会課題に真摯に向き合い、いつの時代も徹底して取り組んできました。
例えば「環境」の面では、1970年代初頭、当時最も厳しいとされた排出ガス規制の米国マスキー法に対して、世界で初めて適合するCVCCエンジンを開発するだけではなく、その技術を他の自動車メーカーに公開することで、モータリゼーションに伴う大気汚染の軽減に大きく貢献しました。また「安全」の面では、世の中で関心が高まる前からエアバッグの研究に粘り強く取り組んだ結果、国産車初となる運転席用SRSエアバッグシステムを開発し、その後のエアバッグの普及に大きく寄与しました。
こうした企業姿勢はこれからも決して変わることはありません。Hondaは、2050年に「Hondaの関わる全ての製品と企業活動を通じたカーボンニュートラル」、ならびに「Hondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」の実現という目標を定めています。この目標は非常に高く、実現に向けては多くの課題が存在すると思いますが、私たちがモビリティを通じて社会に貢献することを目指す以上、「環境」と「安全」は絶対的に取り組むべき社会課題です。Hondaはこれまでも時代に先駆けて環境・安全技術の確立や安全運転普及活動などに取り組んできましたが、これからは自社にとどまらず、社会全体への取り組みへと昇華させていくことが重要だと考えています。誰かがビジョンを掲げ、将来に向けて行動で示さなければ、何も始まらず何も変わりません。Hondaは、企業や業界の枠を越えて多くの企業や団体と協力しながら「自由な移動の喜び」をサステナブルに提供することを目指していきます。
事業環境の変化を踏まえた成長戦略
一方、足元では、環境規制の変化などによるEV(電気自動車)市場の拡大スピードの鈍化や、通商政策動向の変化など、事業環境の不透明さが増しています。このような状況を受け、2025年5月に開催した「2025 ビジネスアップデート」にて発表した通り、四輪電動化戦略を軌道修正することとしました。
EVの本格的普及に時間を要することを鑑み、当面は競争力のあるHEVを中心とした戦略とし、「知能化を軸とするEV・ハイブリッド車の競争力強化」と「パワートレーンポートフォリオの見直しによる事業基盤強化」を図ってまいります。
知能化はモビリティの可能性を飛躍的に拡大し得る領域であり、今後ますます激しさを増す競争環境の中で、この領域における新たな価値の創造は、他との「違い」を生む重要な要素になると捉えています。この考え方に基づき、Hondaは独自開発の次世代ADAS(先進運転支援システム)をキードライバーとし、2027年頃からEVだけではなく、広く普及が進むハイブリッド車へも搭載することで、スケールメリットを生かした高い商品競争力と低コストを両立し、付加価値の高い「移動の喜び」をお客様にお届けすることを目指します。
これに伴い、カナダでの包括的バリューチェーン構築時期の後ろ倒しなど、投入資源の見直しを決定しました。2030年時点のEV販売比率は、従来目標としていた30%から20%になる見通しですが、2050年のカーボンニュートラルや交通事故死者ゼロ社会の実現という目標を変更することはなく、「自由な移動の喜び」のサステナブルな提供には引き続き全力で取り組んでいきます。

このように複数のソリューションを組み替えて柔軟かつ機動的に戦略を変更できるのは、将来を見据えて基礎研究や技術開発を行い、ICE(内燃機関)、ハイブリッド、EV、そして燃料電池などのコア技術を手の内化してきたからに他なりません。常に時代の変化を先読みし、基礎研究や技術開発を大切にすることで、あらゆる環境変化に対応し、迅速な経営判断を可能とするレジリエンスのある体質を構築していることは私たちの強みです。
夢の実現に向けて
モビリティを通じて個人の「自由な移動の喜び」をサステナブルに提供していくこと、そして、モビリティを進化させ、より良い社会をリードしていくこと。これらが、総合モビリティカンパニーとしてのHondaの存在意義だと考えています。Hondaは年間2,800万人のお客様へさまざまな製品やサービスをお届けしていますが、「自由な移動の喜び」を創造、提供するモビリティは、二輪、四輪、パワープロダクツや航空機だけではなく、人々の願いと行動圏の広がりに応じて常に進化していくでしょう。陸・海・空のみならず、宇宙空間においてもHondaはモビリティの進化を常にリードする存在でありたいと思います。あらゆる移動領域にHondaのロゴを冠したモビリティが行き交い、人々が「移動の自由」を獲得した世界を実現することが、私の「夢」です。この6月にはロケットの離着陸実験を公開しました。まだ基礎研究の段階ではあるものの、将来のモビリティの拡大に向け、「夢の力」を信じ、取り組み続けていきたいと思います。
先に触れた通りHondaは、さまざまな「夢の力」を起点に挑み続け、不可能と思われた壁を乗り越えてきました。この創業者から生まれたHondaのDNAは、今も私たち一人ひとりに脈々と受け継がれています。「環境」「安全」という二つの大きな社会課題を解決に導きつつ、総合モビリティカンパニーとして幅広いモビリティやサービスを通じ、人々の「時間や空間の制約からの解放」、そして「人の能力と可能性の拡張」という価値を提供していきたい。実現にはさまざまな困難が待ち受けているかもしれません。しかしHondaは、これからも自分たちの「夢の力」を強く信じ、情熱を絶やすことなく、夢に共感してくれる仲間とともに、独創的な技術とアイデアを遺憾なく発揮して挑み続けていきます。来年からは、また一つ、私たちの夢の力がコアとなる活動が再び始まります。創業者が実力の証明に世界最高峰のレースに挑んだように、FIAフォーミュラ・ワン世界選手権(F1)への再参戦を果たします。電動化の時代にあってもHondaのパワーユニットが世界一でありたい、この想いを胸に、カーボンニュートラルに向けた技術の限界にチャレンジし、勝利を通じて、多くのファンの皆さまと感動を共有することを目指していきます。これからもHondaの挑戦にどうぞご期待ください。
