CEOメッセージ

夢の力と創造力で
あらゆるモビリティを進化させ、
「自由な移動の喜び」に満ちあふれた
社会の実現を目指します。

取締役
代表執行役社長
最高経営責任者 三部 敏宏

無限の「夢」の力を信じ、
その実現を後押しするパワーであり続ける

Hondaは、「自らの技術で人の役に立ちたい」という創業者の強い想いから始まり、現在、総合モビリティカンパニーとして、幅広いモビリティやサービスを世界中のお客様にお届けしています。
2023年にグローバルブランドスローガンである「The Power of Dreams」を再定義し、私たちの目指す提供価値とその原動力をあらためて明確に示しました。この検討においては、これまで私たちが提供してきたあらゆるモビリティの本質的な価値は何か、ということについて、徹底的に議論を重ねました。
考え抜いた末に、私たちがあらためて確信を抱くに至った結論は、モビリティは単に人が移動するための道具ではなく、「時間や空間といったさまざまな制約から人々を解放し、また人の能力と可能性を拡張する」という素晴らしい価値を有しているということです。
子どもの頃に初めて自転車に乗れたときの風を切る感覚、家族と一緒にクルマで訪れた知らない土地の風景やにおい、初めて乗った飛行機の窓から見下ろした光景など、モビリティのもたらす「解放」と「拡張」という価値を通じて、私たちは多くの喜びを享受してきました。「もっと遠くへ、もっと速く、もっと自由に移動したい」という想いは人間の根源的な欲求であり、その願いを叶えるモビリティは無限の可能性を秘めています。
Hondaには、この普遍的で本質的な価値を持つモビリティをさらに進化させることで「自由な移動の喜び」を世界中に広げていきたい、という強い想いを持った人たちが集まっています。Hondaで働く一人ひとりが「こうしたい、こうありたい」という夢を持ち、その強い想いと個性がぶつかり合い、多様な知と多様な夢が相互に作用し合うことで、大きな価値を生み出す「創造」につながっていくと信じています。夢を原動力に、独創的な技術とアイデアで、「より自由で、より便利で、より楽しいモビリティ」を実現するために、私たちはチャレンジを続けています。
私たちの夢と創造力から生まれるモビリティ、その「時間や空間の制約からの解放」、「人の能力と可能性の拡張」という提供価値が世界中の人々を動かし、心を震わせ、それぞれが夢に向かって一歩踏み出す力となっていく。そしてその力が周りに波及し、新たなつながりが生まれ、社会全体に夢が広がっていく。Hondaはいつも、世界で紡がれる無限の「夢」の力を信じ、その実現を後押しするパワーでありたいと考えています。

「自由な移動の喜び」をサステナブルに提供するために

モビリティを通じて世界中に「自由な移動の喜び」を永続的にお届けしていくためには、「人と社会に対して負の影響を与えない」ことが極めて重要であると考えています。
Hondaはいつも、私たちモビリティカンパニーの責務ともいうべき「環境」と「安全」という2つの大きな社会課題に対して、真剣かつ真摯に対峙してきました。当時、「クリアすることは不可能」とまでいわれた排出ガス規制の米国マスキー法に対しては、世界で初めて適合するCVCCエンジンを開発するだけでなく、その技術を他の自動車メーカーに公開することで、モータリゼーションにともなう大気汚染の軽減に大きく貢献しました。また、世界的に関心が高まる前からエアバッグの研究に粘り強く取り組んだ結果、国産車で初めてとなる運転席用SRSエアバッグシステムを開発し、その後のエアバッグの一般的な普及に大きく寄与しました。
こうした企業姿勢は、現在においてもいささかも変わることはありません。「環境」と「安全」という大きな社会課題に対して、Hondaはほかの誰よりも真摯に向き合い、解決に向けた一歩を先んじて踏み出すことで、より良い未来を実現していきます。そして、Hondaの姿勢に共鳴していただいた人たちと手を取り合ってともに前に進んでいくことで、Hondaだけでは成し得ない高い目標へとチャレンジしていきたいと考えています。
真に環境への負荷をなくすことは非常に困難な課題ですが、自社の企業活動の範囲内にとどまらず、製品ライフサイクル全体を見据えた総合的な取り組みの進化を図るべく、関連する企業間の連携を強めていきます。また安全についても、すべての人が安心して自由に移動できる「交通事故ゼロ社会」の実現を目指して、多角的な取り組みを進めていきます。

目指す姿の実現に向けた5つの重要テーマ

2023年に、持続可能性の観点から網羅的に抽出した社会課題をHondaの目指す方向性に照らし、注力していく領域を明確にしました。具体的には、Hondaの成長の原動力である「人」と「技術」、またすべての企業活動の総和ともいえる「ブランド」に加え、従来より経営の重要テーマとして掲げてきた「環境」と「安全」の5つの非財務領域を選定しています。
内発的な強い意志のもとに果敢にチャレンジを続ける「人」、そして不断の研究と弛まぬ努力の末に生み出される卓越した「技術」こそがHondaの成長の源泉です。そして、そこから生まれた質の高い商品やサービスによる一つひとつの企業活動の積み重ねが、ステークホルダーの皆様から共感をいただける魅力的な「ブランド」をかたちづくっていくものと考えています。
また、前述の通り、総合モビリティカンパニーである私たちにとって「環境」と「安全」は何よりも真摯に向き合うべき社会課題であると捉えています。それぞれ「環境負荷ゼロ社会の実現」、「交通事故ゼロ社会の実現」をテーマに掲げ、実効性ある施策をスピーディーに展開していきます。
誰かがやってくれるのを待つのではなく、Hondaがフロントランナーとなって一歩を踏み出し、誰もが永続的に「自由な移動の喜び」を享受できるサステナブルな社会の実現を目指してまいります。

ライフサイクル全体でのカーボンニュートラルの実現に向けて

環境負荷ゼロ社会の実現に向けて、2021年に「Triple Action to ZERO」というコンセプトを掲げ、具体的な取り組みの方向性や達成目標時期を明確にしました。このなかでも極めて重要となる「CO₂排出量の実質ゼロ」については、2050年に「Hondaの関わるすべての製品と企業活動全体を通じてカーボンニュートラルを実現する」ことを目指しています。そのため、 自社の企業活動だけではなく、素材・部品調達から設計・開発・生産・輸送・販売・使用・廃棄段階に至るまでのライフサイクル全体を対象とし、グローバルに展開する多くのパートナーとともにCO₂削減の施策に取り組んでいます。非常に困難な課題であることは認識していますが、自由な移動の喜びをサステナブルに提供し続けていくために、果敢にチャレンジし続けていきます。

この目標の達成に向けては、Honda全体のCO₂排出量の大半を占める「製品使用時のCO₂排出」を大幅に削減していくことが必要となりますが、二輪・四輪といった小型のモビリティについては、長期的には電気自動車(EV)が最も有効なソリューションであると考えています。したがって、EVの基幹部品であるバッテリーをいかに環境負荷の少ないバリューチェーンで調達していくかが非常に重要となります。
これを具現化する取り組みの第1弾として、米国オハイオ州の工場をEV生産のハブ拠点と位置付け、生産設備の改修や、LG Energy Solution,Ltd.との合弁によるバッテリー工場の建設など、北米におけるEV生産体制の基盤づくりを進めています。
取り組みの第2弾となるカナダでは、オハイオ州の拠点で培うEV生産のノウハウをベースに、カナダの豊富な資源やクリーンエネルギーを活用し、バッテリーを中心とした原材料の調達から完成車生産までの包括的なバリューチェーンの構築を目指していきます。
その一環として2024年にPOSCO Future M Co., Ltd.とカナダにおける車載バッテリー用正極材の生産に関する協業について、旭化成株式会社とはカナダにおける車載バッテリー用セパレーターの生産に関する協業について発表しました。主に北米市場向けEVに搭載されるバッテリー向けの正極材やセパレーターの生産を目的に、両社それぞれと合弁会社設立の検討を進めていきます。素材技術や電動化技術といった互いの強みを活かし、バッテリー主要部品の性能を大きく向上させ、より提供価値の高い高性能なEVをお届けしていきます。
バッテリーの安定的な供給体制により、EV全体のコスト競争力を高めるだけではなく、二次利用やリサイクルなど、ライフサイクルを通じたバッテリーの価値の最大化を図っていきます。これらの取り組みにより、高い収益性を持つ事業基盤の確立とカーボンニュートラル社会実現への貢献を目指します。環境負荷ゼロ社会を実現するために、Hondaはこれからもパートナーとともにライフサイクル全体でのカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを推進していきます。

カーボンニュートラルの実現に向けた多角的な取り組み

Hondaは社会全体におけるカーボンニュートラルを実現するために、モビリティの電動化に加えて、多角的なアプローチでチャレンジをしています。
例えば、稼働率が高く完全なバッテリー置換が難しい中・大型商用車や、大型インフラの電源システムについては、水素を活用した燃料電池(FC:Fuel Cell)システムの普及により、カーボンニュートラル化の実現を目指しています。
また、長距離かつ高速での移動が求められる航空機の完全電動化にはまだまだ時間が必要であるため、カーボンニュートラルの実現に向けてはSAF(Sustainable Aviation Fuel)が有効であると考えています。SAFの普及・拡大を牽引するため、「ルール化する」「使う」「つくる」の3つのアプローチで、基礎研究と業界団体との連携を推進しています。
加えて、IEA(国際エネルギー機関)の「Net Zero by 2050」レポートによると、2050年時点でも産業、輸送、建物セクターによるCO₂排出はゼロとはならないとの予測であり、ネットゼロ化の実現に向けては、大気中のCO₂を回収・除去するネガティブエミッション技術が求められています。Hondaにおいても、DAC(Direct Air Capture)の技術研究に着手し、将来的な商用化を見据えて、技術実証に向けた協業先との連携を推進しています。
さらには、電力の安定供給や再生可能エネルギーの活用拡大を後押しするエネルギーマネジメントの仕組みづくり、着脱式可搬バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」のさらなる活用など、さまざまなアプローチで取り組みを進めています。

交通事故ゼロ社会の
実現に向けて

Hondaが目指す「交通事故ゼロ社会」は、すべての人が心から安心して、好奇心に導かれながら自由に移動できる社会です。クルマやバイクに乗っている人だけでなく、道を使う誰もが安全でいられる「事故に遭わない社会」の実現を目指しています。
全世界の交通事故死者数は、現在も未だ深刻な状況にあります。二輪車を最も多く社会に提供する企業として、すべての交通参加者に対する安全の取り組みを積極的に牽引し、2050年に全世界でHondaの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者を「ゼロ」にすることを目指しています。
この実現に向けて、「モビリティの性能(技術開発)」「人の能力(啓発活動)」「交通エコシステム(他者との協働やシステム・サービス開発)」のそれぞれの領域における取り組みを進めています。

モビリティの性能(技術開発)

モビリティの安全性をより高めていくためには、人体を保護するもの、衝突を極力回避するもの、人の意思を捉えクルマや他者に伝えるものなど、「人の能力」を正しく補完あるいは拡張するための複合的な性能が必要です。
今後、四輪車では、衝突安全性能の強化や、先進運転支援システム(ADAS)の適用拡大に加え、次世代に向けて運転時のヒューマンエラーに起因する事故ゼロを目指す技術開発も進めています。二輪車では「ABS」「CBS」などの先進ブレーキ、視認性および被視認性の高い灯火器の適用を拡大させる取り組みを進めています。

人の能力(啓発活動)

交通安全の基点は“人”です。そのため、運転技術、認知・判断能力だけでなく、周囲に対する思いやりといった心の部分も含めた「人の能力」を高めていくことが重要であると考えており、インストラクターの養成や交通教育センターでの研修などを積極的に展開しています。また、さらなる安全運転の普及に向けて、各国の運転免許制度を含む法規制や交通ルールの整備に貢献する取り組みも進めています。

交通教育の発展に向けた
インストラクターの育成

現地の交通環境や文化を踏まえて、ライディングスキルだけではなく、危険感受性を高める座学などに重点を置いた研修を実施しています。

交通エコシステム(他者との協働やシステム/サービス開発)

交通事故ゼロ社会の実現に向けては、人の意思を介在させないまま技術により自動的に安全を創り出すのではなく、人々の意思を原動力とし、技術を用いて交通参加者が本来持っているお互いを尊重する意識に働き掛け、協力しやすくなるよう後押しすることが重要であると考えます。
ここで必要となるのが、交通参加者がお互いの意図や感情を察し、その人の状況を配慮することを支援する技術です。そのため、事故の予兆を早期に察知し情報を提供することで、事故発生前に交通参加者が各自で備え対処することを支援する「安全・安心ネットワーク技術」の開発を進めており、実証実験や官民連携のプラットフォームの構築を通じて、円滑な社会実装を目指しています。
Hondaは、一人ひとりが力を合わせた「温かみのある交通社会」を実現することで、人々がもっと行動したくなる未来を創り上げていきます。

総合モビリティカンパニーとしての進化

自由な移動の喜びをサステナブルに提供し続けるために、Hondaはさまざまな事業・製品において「電動化」と「知能化」を進めていきます。電動化に必要不可欠となるバッテリーの安定的な生産・調達に加え、原材料となる重要鉱物の確保、コストの削減、さらなる次世代電池の技術開発、IoTによる利便性の拡張など、従来のビジネスの延長線上ではないさまざまな課題に対し、迅速かつ柔軟な取り組みを展開しています。
また、モビリティそのものの進化に加え、充電ネットワークやバッテリーの再活用、エネルギーマネジメントシステムなど、モビリティの電動化にともなって拡大する新たな事業にも積極的に関わりを強めるとともに、eVTOL(電動垂直離着陸機)やロケットなど、従来のモビリティのフィールドを大きく拡張させる新たな価値の創造にも積極的にチャレンジしていきます。

私たちは総合モビリティカンパニーとして、既存の枠にとらわれることなく、心がワクワクするような商品やサービスの創造を追求し続けます。一人ひとりの創造力から生まれる夢のあるモビリティや多様なサービスによって「環境負荷ゼロ」「交通事故ゼロ」を実現するとともに、「解放と拡張」という本質的な提供価値を世界中にお届けすることで、人や社会を前進させるパワーとなることを目指してまいります。

提供価値を実現する
パートナーシップの拡大

ここまでご説明した通り、Hondaの目指す提供価値の実現に向けては、従来にない数多くの困難な課題が待ち受けています。この課題を達成していくには、Hondaだけの力で立ち向かうのではなく、他社や関連するステークホルダーと相互に関わりながら、バッテリー・ソフトウエアといった主要領域におけるケイパビリティを補完していくことが必要だと考えています。そのため、人材育成や採用強化といった社内の取り組みに加え、それぞれの領域に強みを持つ他社とのパートナーシップの拡大を進めています。
さらにモビリティの進化に合わせて、充電ネットワークや安全・安心ネットワーク技術といった新たな社会インフラを整備していくことが急務となります。「自由な移動の喜び」に満ちあふれた社会の実現に向けて、志を同じくするパートナーとともに、一体となって取り組みを進めていきます。
直近では、2024年3月に結んだ日産自動車株式会社との戦略的パートナーシップに関する覚書に基づき、両社で検討を重ねた結果、次世代のソフトウエアデファインドビークル(SDV)プラットフォームの基礎的要素技術の共同研究契約を締結し、研究をスタートしています。
また、バッテリーやe-AxleなどEVのコアコンポーネントの共通化、車両相互補完、国内エネルギーサービスなどの領域においてパートナーシップ深化に向けた検討に基本合意しました。
さらに、日産自動車株式会社とHonda二社での検討の枠組みに三菱自動車工業株式会社が参加する旨の覚書を三社で締結しました。
各社が培ってきた強みを持ち寄り、化学反応させることで、新たな自動車の価値を生み出すことができると考えています。開発スピードを加速させ、知能化・電動化の分野で世界をリードすることを目指して、今後も協議を進めてまいります。

目指す姿の実現に向けて、Hondaはこれからも果敢にチャレンジを続けてまいります。Hondaが生み出す夢見るモビリティ、自由な移動の喜びを創造するモビリティにどうぞご期待ください。

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