機能戦略

“人”と“デジタル”の力で、
変革を支える強固かつ柔軟な
事業基盤を形成していきます。

取締役
代表執行役副社長 貝原 典也

変革を加速させる「人的資本経営」と「デジタル」の進化

「第二の創業期」ともいうべき事業変革のフェーズにおいては、企業そのものを形成する「人材」、そして企業オペレーションを支える「デジタル」領域の取り組みをいっそう進化させることで、強固かつ柔軟なビジネスの基盤をつくり上げ、変革を加速させていく必要があると考えています。
事業変革の基軸となる「電動化」と「知能化」に向けて確保すべき人的資本をグローバルで可視化し、とくにソフトウエアやバッテリー、デジタルといった重点領域において必要な人材を迅速に充足させるとともに、グローバルブランドスローガンの示す方向性に基づき、Hondaで働く一人ひとりが「夢」に向かって持てる能力を最大限に発揮できる環境をつくり上げていきます。
また、急速に発展するデジタル領域においては、総合モビリティカンパニーとしての広範な事業オペレーションを支える先進的なデジタルプラットフォームの整備を着実に進めるとともに、卓越したデジタル技術をさまざまな商品やサービスへと活用することで、さまざまな驚きと感動をお届けできる新価値の創出を目指します。

「総合モビリティカンパニー」としての進化を支える人材戦略

「電動化」と「知能化」を軸とした変革が加速するなかで、総合モビリティカンパニーとしてさらなる進化を続けていくためには、Hondaの人・組織もその事業変容に合わせて変わっていく必要があります。将来的にHondaが目指す姿、そこから導かれる経営戦略・事業戦略と連動した人材ポートフォリオを描くとともに、最適なタイミングでの人材充足に向けた取り組みを強化していくことが重要と考えています。
この考え方から、Hondaの人的資本経営において短中期・中長期の両面から取り組むべき大きな方向性として、2つの人材マテリアリティを定めました。一つは“事業上の重点領域の人材の量的・質的充足”、もう一つは“従業員の内発的動機の喚起と多様な個の融合”です。それぞれのマテリアリティが達成された状態を定義するとともに、それに紐付く定量的な目標を管理指標として設定し、経営メンバーによる定期的なモニタリングを実施することで、実効性のある施策をスピーディーに展開していきます。
Hondaの人的資本経営においては、さまざまな観点から多角的な取り組みを展開することで企業価値のさらなる向上を目指していきます。私たちの共通の価値観であるHondaフィロソフィーをベースに、情熱を持つ人材が集い、「夢」を原動力に挑戦する多様な個が輝くことのできるHondaであり続けられるよう、今後もチャレンジを続けてまいります。

事業上の重点領域の人材の量的・質的充足
競争優位を確立する人的資本の
グローバルマネジメント

ソフトウエアやバッテリー、デジタルなどの新たな重点領域で競争力を高めていくためには、既存領域と新領域のそれぞれにおいて高い専門性を持つ人材の多様な知をグローバルで結集し、高次元で融合させることで、新たな価値創出へとつなげていくことが肝要となります。今後の事業環境の変化に柔軟に対応できるよう、グローバル全体の人的資本を「量」だけでなく「質」の観点からも可視化し、事業と人材のポートフォリオを連動させるための基盤構築に取り組んでいきます。
とくに重点領域においては、前例のない規模のリソースを投入し、高度な専門性を有した人材を育成するための専門教育プログラムを産学官連携を含めて拡充していくとともに、グローバルで活躍できる人材の育成と確保にも引き続き注力していきます。

従業員の内発的動機の喚起と多様な個の融合
変革を推し進める組織風土強化・改革

事業変革に向けたさまざまな取り組みを加速していくためには、Hondaで働くすべての人が最大限に能力を発揮できる環境を構築する必要があります。Hondaで働く人それぞれが自らの仕事に対し、意味を見出し、夢中になれているか。自らがやりたいこと、夢、目標を明確にできているか。そしてその実現に向け、全力でチャレンジしているか。そのチャレンジを後押しするサポートは十分かなど、企業風土を構成するすべての要素について、総合的に見直しを図っています。
Hondaは一人ひとりの「夢の力」と「スピード」で、野心的な目標にチャレンジし、多様な知と多様な夢が相互に作用し合うことで、さらに大きな夢を実現してきました。Hondaで働くすべての人が最大限に能力を発揮できる「“The Power of Dreams”を体現できる企業風土」を目指し、全力で取り組んでいます。

事業オペレーションを支えるデジタルプラットフォームの進化

デジタル領域における課題認識

製品やサービスの電動化・知能化を進めていく上では、製品開発・生産・販売の全領域におけるオペレーションの進化と新たな価値の創出が必要であり、事業オペレーションを支える基幹ITシステムの刷新とデータの価値を最大化するデジタルプラットフォームを確立していくことが急務であると認識しています。
「デジタル技術を活用した業務プロセスの改革を通じて、“ビジネス変革のスピード”と“事業効率”とを高め、競争優位性を確立する」ことをDXビジョンとして掲げ、さまざまな取り組みを進めています。

デジタルプラットフォームの整備に向けた全体戦略

電動製品を中心とした事業モデルにおいて目指すべき価値を「お客様価値」、「製品価値」、「社会的価値」の3つに定め、業務システムとデータを最大・最適に活用することで、持続的なビジネス価値の創出を目指します。
これらの3つの価値を実現するために、Hondaが目指すデジタルシステム進化の方向性は以下の通りです。

お客様価値

デジタルサービスは社会に広く普及し、多くの業界で購買体験が変化しています。モビリティにおいてもその体験は進化しており、カスタマージャーニー全体でデジタルサービスを展開し、さまざまなお客様のニーズに応じた新しい価値を提供するため、システムを刷新・新規導入していきます。
これまで培った車内の体験を生み出すデジタル技術と車外の体験を、アプリケーションとデジタル基盤でより広範囲かつシームレスに接続することで、データをより効果的に活用できるようになり、お客様ごとの利用シーンにマッチしたサービスの提供が可能となります。またそれらの利用状況をもとにクルマのソフトウエアをアップデートする基盤についても、2025年に北米での上市を皮切りに展開を拡大し、継続的にサービスの機能や質の向上を図っていきます。

製品価値

従来のガソリンエンジン車・HEV(ハイブリッド)の設計・開発・量産・販売のあり方は、EVにおいてはそのコンセプトやビジネスモデルが異なるところが多いため、各領域の業務システムは老朽化対応も含めて全面的な刷新が必要になります。EV事業オペレーションにおいてそれぞれの領域のプロセスが最適につながることで、事業としての競争力の向上と、社内体質の強化を実現します。
EV事業の基幹システムは、ものづくりのオペレーションを支えるだけでなく、リアルタイムに事業横断のオペレーション実績データを集計・可視化し、データドリブンでのタイムリーな経営判断や計画策定を可能にするグローバル共通の新たなデジタル基盤として整備します。
このデジタル基盤は、Fit to Standard のコンセプトを基本に、業務プロセス・ITシステム・データをEnd to Endでつなげることで一貫性のある高効率な事業オペレーションの実現を目指します。EVラインアップ計画に合わせて、順次基幹システムの刷新を進めています。

社会的価値

欧州電池規則への対応をはじめとした、製品および企業活動における環境負荷データの収集、分析や、各事業、地域、機能における効果的な活用に向けた全社の環境システムを刷新・新規導入していきます。
とくにモビリティカンパニーにおける環境に関連するデータは、地域、国をまたぐさまざまなステークホルダーの皆様と連携して収集・活用をしていく必要があるため、組織を横断した体制を構築し、社内システムの整備・刷新をはじめ、全社の集計基準の整備や、業界標準のデータプラットフォームとの連携も行いながら、Triple Action to ZEROの実現を目指していきます。
具体的な取り組みの一例として、EVに搭載したバッテリーの回収・再利用(リパーパス)に向けて、システム化・プロトタイプ検証を進めています。また、四輪生産におけるグローバル統一のCO2排出量可視化に向けた企画を進めており、寄居工場を皮切りに、次世代工場や既存工場への展開を目指していきます。
これらの取り組みを通じて、事業・地域の業務プロセスに基づいた業務システムのデータを標準化し、サービスやビジネスの用途ごとに束ねて活用することでさまざまな事業モデルの発展を支えるサービス・データプラットフォームの構築を進めています。
事業オペレーションのデジタル・トランスフォーメーションはHondaの第二の創業期に必要不可欠であり、その展開に向けては、経営に直結したデジタル基盤タスクフォースの体制を形成して推進するとともに、中長期で必要な投入資源を適切に確保して取り組んでいます。

デジタル基盤全体像

デジタル基盤活用スケジュール

デジタルによる業務を効率化する環境の整備

事業オペレーションを支えるデジタルプラットフォームの構築に加えて、生成AIの活用やオフィスツールなど、デジタルを活用した日々の業務を効率化する環境の整備にも取り組んでいます。

実務領域の進化~生成AIの活用

業務効率の向上と新しい価値の創出を目的に、Chat形式での活用に代表される生成AIを積極的に活用しています。

社内のノウハウ蓄積・活用のための生成AI基盤の構築・運用

社内の過去資料・文書には多くの重要な情報が含まれていますが、これらを効率的に活用することは困難であり、とくに人事異動や退職とともにノウハウが失われる問題がありました。その貴重な情報をノウハウとして蓄積・活用することを目的に、生成AI技術を活用した全社生成AI基盤を構築しました。2024年3月に基盤構築を完了し、製品設計・開発の領域から順次ノウハウの蓄積を進めています。

事務作業における生成AIツールの活用

電子メールやオンライン会議システム、また文書作成や業務上の作業において使用するさまざまなオフィスツールは日々の業務に欠かせないツールとなっています。これらのツールを従来以上に効率的に活用すべく、AIアシスタントを活用して生産性を引き出す生成AIツールである「Microsoft 365 Copilot」を導入し、約20,000人の従業員が活用できる環境を整えました。日々の業務において生成AIを当たり前に活用することで、飛躍的なオペレーションの効率化と新たな価値創出を目指します。

事業活動における広範な生成AIの活用

日常のオペレーションだけでなく、生成AIは事業活動全体により広く、深く入り込んで活用できるツールであると考えています。例えばイノベーションの初期構想段階においては画像生成AIを活用し、製品の品質向上のフェーズにおいては設計・生産・お客様情報といった幅広いデータを社内外から収集するなど、さまざまな事業活動において積極的に活用していくための取り組みを進めています。
事業オペレーションを支えるデジタルプラットフォームの進化、デジタルによる業務を効率化する環境の整備という2つの大きなアプローチから、社内のデジタル環境の構築を進めています。デジタルの世界は日々進化しており、これらの取り組みを今後ともさらに加速していきます。

デジタルの強みを活かす人材の育成

日進月歩で発展するデジタル技術の進化に対応するためには、社内において高度なスキルを有するエキスパートを積極的に認知・育成し、その専門性の発揮を後押ししていくことはもちろん、経営陣を含めたHondaの一人ひとりが一定のデジタルスキルを身に付けることが必要であると考えています。すべての従業員がデジタルツールや社内外のデータを適切に活用できるよう、デジタルリテラシーの向上に向けた人材育成の取り組みを進めています。

1. 全社ソフトウエア教育の実施

事業変革に当たっての重点領域の一つであるソフトウエア領域においては、事業や職種を問わずHondaの全従業員が基礎的な知見を身に付けられるよう、ビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ、ソフトウエアエンジニア、デザイナーの5つの学習領域を定め、eラーニングプログラムを構築しました。これらのプログラムは経営メンバーからのメッセージとともに全社へ展開し、全従業員のうち必須対象者を決めて、約30,000人が受講しました。

2. 日々の業務処理の効率化を牽引する部門推進リーダー(トップガン)の育成

デジタルツールやデータを活用した効率化施策は、もはやIT・デジタル部門だけの役割ではありません。全従業員がデジタルツールやデータを使いこなし、IT・デジタル施策を広く実行することで、日常の仕事の進化を図っていくことが必要となっています。
このような考え方から、各部門においてIT・デジタルを活用した効率化施策をリードする「トップガン」を選出し、自立的に施策を展開していくための教育を実施しています。管理領域の部門を中心に約400課でトップガンの育成を完了し、それぞれの部門で効率化施策を実行した結果、約242万時間の工数削減(2024年3月期)を達成しました。

3. 先進AI技術を有する専門人材の認知と活用(Gen-AIエキスパート)

Hondaは、世界中で注目を集める生成AI(Gen-AI)の有用性に早期から着目し、その活用に向けた取り組みを進めてきました。生成AIを適切に活用することで、オペレーションの効率を飛躍的に向上させるだけでなく、新たな価値を創出できると考えています。
この考えのもと、社内に点在する希少かつ貴重な生成AIの専門性を持つ従業員を発掘し、その専門性の発揮を後押しするために、「Gen-AIエキスパート制度」を2024年6月に導入しました。この制度により、生成AIを代表とした高い専門性を持つ従業員が組織の枠を超えたプロジェクトに柔軟に参加できる体制を整え、全社AI活用に向けた取り組みを加速していきます。

「Gen-AIエキスパート制度」の狙いと概要

4. 全従業員を巻き込んだ社内DXコミュニティ運営とイベントの開催

トップガンやGen-AIエキスパートなどデジタル活用を推進する従業員を中心に、情報交換やイベントなどを通して相互に技術を高め合うオンラインコミュニティを展開しています。とくに、プログラミングや生成AIに関心が高い人材が集まる社内コミュニティ「Borders」は2,000人規模に達しており、デジタル関連の最新情報の共有やディスカッション、AIツールの活用を支援する勉強会など、活発な知の交流が行われています。
また、年に1度、従業員参加型の社内オンラインイベント「Honda DX Expo」を開催し、社内のデジタルツールやデータ活用の実例共有、各種ツールの体験会・勉強会、社外有識者の講演など、多くの従業員にDXにふれる機会を提供しています。2025年3月期で3回目の開催となりますが、毎年10,000人以上が参加する大規模なイベントとなっており、全社的にDXを強力に推進していくための風土醸成に大きく寄与しています。

夢を追い掛ける「Borders」コミュニティから全社生成AIの活動へ

Hondaには、多くの才能あるアソシエイトがいます。エンジン開発に携わっていた私も、日々チャレンジングな課題を仲間とともに解決していました。私は新しいことが好きだったため、運良く営業、開発、生産、購買など多部門が協力するプロジェクトに参加し、「個々のスキルを連携させれば、世界一になれる」と確信しました。この想いから、ボトムアップでの学びのコミュニティ「Borders」を立ち上げました。活力あるメンバーを集めるために、あえて口コミだけで広げてきたコミュニティは、自由な情報のネットワークを通じて、Honda全体に「学ぶ喜び」を拡大してきました。
Bordersにとって、さらなる「学び」のフィールドとなる生成AIの登場は大きな転機であり、開催した勉強会には想像を超えた人数が集まりました。さらに、経営陣からHondaにおける生成AIの活用を企画して欲しい、と声が掛かったときには、こうしたインフォーマルコミュニティの価値が認められたことに喜びを感じると同時に、夢を持って恐れずにチャレンジすることが自分の世界をさらに広げていくのだということを実感しました。現在は全社からAI人材を集めたチームを任されたり、エキスパートをさらに認知・育成していくための制度を検討したりと、Bordersの皆さんとも深く連携しながら日々仕事に取り組んでいます。
「縦」の組織と「横」のコミュニティが強いHondaをつくり上げていくと信じて、これからも全力で走り続けていきます。

Borders創設者・リーダー
デジタル統括部
先進AI戦略企画課 課長
佐野 雄樹