事業戦略

モビリティの「電動化」と
「知能化」を追求し、
力強い事業変革を進めていきます。

取締役
代表執行役副社長
青山 真二

電動化を軸とした
事業変革に向けて

小型モビリティにおける
電動化アプローチ

「2050年カーボンニュートラルの実現」に向けてはバッテリーによる電動化のほかにもさまざまなアプローチがあり、例えば航空機や船舶などの大型モビリティにおいては航続距離の観点から持続可能な航空燃料であるSAF(Sustainable Aviation Fuel)やe-fuel(合成燃料)が有望視されるなど、モビリティの特徴に応じて多様なソリューションに対応していく必要があります。Hondaとしても燃料電池やSAF、DAC(Direct Air Capture)などの多角的なアプローチから、カーボンニュートラルの達成に向けて基礎研究や事業探索を推進しています。
一方で、Hondaの事業の中心である二輪・四輪といった小型のモビリティについては、長期的にはバッテリーEVが最も有効なソリューションであると考えています。電動化を取り巻く環境の変化は激しく、北米・欧州などでは「EVの普及は踊り場に差し掛かった」と、その減速感が指摘されていますが、長期的な視点で見ればEVシフトは着実に進んでいくと私たちは確信しています。
「EV移行期」ともいえる現在において、EVの普及スピードが変化することは当然であると捉えています。市場環境変化に対しフレキシブルに対応できる体制を整えていくことはもちろんですが、一方でこのような足元の状況変化にとらわれ過ぎることなく、2020年代後半以降に訪れるEV普及期を見据え、中長期的な視点での仕込み、そして強いEVブランドと強い事業体質の構築を確実に進めていくことが何よりも肝要であると考えています。市場の変化を追い掛けるのではなく、真摯に社会課題に向き合い、誰もが「自由な移動の喜び」を享受できる未来を自らの手で切り拓いていくべく、新しい価値の創出へと果敢にチャレンジしていきます。

四輪事業における電動化・知能化戦略

クルマづくりの原点と次世代EVで提供したい価値

Hondaはこれまで「M・M思想」と「操る喜び」という理念を大切にクルマづくりに取り組んできましたが、次世代のEVではこれらをさらに高みへ進化させるとともに、そこに電動化と知能化から生まれる新価値を付加することで、新しい移動体験を提供することを目指します。「自由な移動の喜び」の実現に向けて、ハードウエアとソフトウエアが高次元で融合したHondaならではの魅力的なEVをお届けしてまいります。

  • M・M思想:「人のためのスペースは最大に、メカニズムのためのスペースは最小に」を意味する「Man-Maximum、Mecha-Minimum」の考え方

EV普及期を見据えた電動化シフト

足元のEV移行期においては、アライアンスを積極的に活用することで新たな知見を獲得しながら、地域特性に応じたEVを戦略的に投入することで、将来的なEVへの事業転換に向けた仕込みを着実に行っていきます。2020年代後半以降の本格的なEV普及期に向けては、新たなグローバルEVである「Honda 0(ゼロ)シリーズ」を2026年から投入し、北米を皮切りにグローバルで展開していきます。
2031年3月期にはグローバルでのEV/FCEV(燃料電池車)の販売比率を30%以上とすることを目標としています。この実現に向けて、Hondaならではの独自の技術アプローチによる高い商品力と、バリューチェーン全体での提供価値の進化により、付加価値をさらに高めていきます。またコストについても、コア部品であるバッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーンの構築によってEV全体のコストの約4割を占めるバッテリーコストを20%削減するとともに、完成車工場における生産コストの35%削減を目指し、競争力のある事業基盤を構築していきます。
魅力的な商品とリーンな事業体質によってEV事業の自立化を加速し、2031年3月期にはEV事業単独で売上高営業利益率(ROS)を5%以上にしていくことを目指します。

EV商品ラインアップ戦略

(1) 2020年代前半(移行期):地域特性に応じたEVを機動的に投入

前述の通り、EV移行期となる2020年代前半においては、地域特性に応じたHondaらしい魅力的なEVを投入することで、将来のEV普及期に向けた仕込みを着実に行っていきます。
具体的には、北米ではGM社との共同開発モデルである「Prologue」を2024年より発売、EVの普及が進む中国では「e:N」シリーズに続く新たなEVシリーズとして「烨(イエ)」シリーズを発表しました。電動化への変化が速い中国でもたえず進化を追い求め、EVラインアップの拡充を加速させていきます。小型EVの領域では、日本で2024年秋に発売する軽商用EV「N-VAN e:」を皮切りに、2025年には軽乗用EV、2026年には操る楽しさを際立たせる小型EVなどを、ニーズがある地域に対して順次投入していきます。

(2) 2020年代後半(普及期):Honda 0シリーズのグローバル展開

2020年代後半以降の本格的なEV普及期に向けては、”Thin, Light, and Wise.”「薄く、軽く、賢く」という新たな開発アプローチで創り出すまったく新しいEV「Honda 0シリーズ」を2026年からグローバルで展開していきます。2024年1月、米国ネバダ州ラスベガス市で開催の「CES 2024」で発表したフラッグシップモデルである「SALOON」をはじめとしたさまざまなモデルの販売を計画しています。

知能化による新しい移動体験の実現

「Honda 0シリーズ」の開発アプローチの一つである“Wise“「賢く」の観点では、Honda独自のビークルOSを搭載し、コネクテッド技術の進化と合わせてお客様一人ひとりに最適化したデジタルUXを提供します。基盤となるE&Eアーキテクチャーとその上部レイヤーであるソフトウエアプラットフォーム(ビークルOS)、その上に載るアプリケーションを独自開発するとともに、搭載されるSoC(System on Chip)半導体についてもAIを搭載し、かつ消費電力を抑えるなど、Honda独自のカスタマイズを行うことで商品価値を高め、モビリティの自動化・知能化を通じた新たな移動体験を提供していきます。

  • E&E:Electrical&Electronicアーキテクチャ、自動車に搭載された ECUやセンサーなどのデバイスを繋ぐシステムの設計・構造

一人ひとりに最適化したデジタルUX提供へ ―― Honda独自のビークルOS搭載・基盤の独自開発

さらに2020年代後半に投入するモデルでは、コアECUにすべての頭脳を集中させる「セントラルアーキテクチャー」によって車全体の機能を相互に連携させることで、クルマが知性を宿すような進化を遂げていくことを目指します。これによって、お客様一人ひとりの嗜好やニーズにきめ細かくお応えし、いままで実現できなかったような新しい感動体験を提供していきます。
これらを実現するためには、ソフトウエアがハードウエアやサービスの価値を定義する「ソフトウエアデファインドモビリティ」の発想に基づく高いソフトウエア開発力が必要となります。また、AI技術を活用した知能化の加速を図っていく上では、高い処理能力と優れた省電力性能を両立させる高度な半導体設計のケイパビリティが求められます。そのためHondaでは、社内人材の活用やリスキリングのみならず、パートナーシップの拡充によるケイパビリティの補完を積極的に進めています。SCSK株式会社とのソフトウエア開発に関するパートナーシップ体制の構築や、IBM社と次世代半導体・ソフトウエア技術の長期的な共同研究開発に関する覚書を締結するなど、モビリティの知能化を通じて新たな感動体験をお客様へ提供するべく、網羅的な取り組みを推進しています。

外部環境変化に柔軟に対応できる体制の構築

ICE/HEV(内燃機関/ハイブリッド)からEVへの移行期間においては、HEVモデルのさらなる進化により電動化への投入資源を確保するとともに、EV需要の加速・減速やその他の環境変化に対して柔軟に対応できる生産体制の構築を図っていきます。HEVモデルについては、独自の2モーターHEVシステム「e:HEV」と車両プラットフォームの刷新によって大幅なコストダウンと軽量化を実現し、引き続きグローバルで多くのお客様へお届けしていくことで、HEVを含めたICE事業全体の体質強化を図り、着実に収益を確保します。一方で生産技術においては、既存設備を最大限活用したICE/EV混流組立ラインをEV専用工場とバランス良く組み合わせることで需要の変動に備えるとともに、バッテリー部品についても部品のモジュール化とセル生産方式を組み合わせた独自の「フレックスセル生産システム」を導入することで、EV需要や取り巻く環境の変化に対して、生産機種および生産量を柔軟にアジャストできる体制を構築します。

電動化・知能化シフトの全体像

二輪・パワープロダクツ事業における電動化戦略

二輪事業

二輪事業においては、2040年代にすべての製品でのカーボンニュートラルの実現を目指しています。その達成に向けて、2024年を電動二輪車のグローバル展開元年と位置付け、インド、ASEAN各国を中心に電動二輪市場への参入を本格化し、グローバルで商品ラインアップの拡充を図っていきます。また、世界最大の二輪市場であるインドにおいては、2024年に“インドのシリコンバレー”と呼ばれるベンガルールに新たな研究開発拠点を開設しました。電動化を加速させる魅力的な商品の創造に取り組むとともに、地の利を活かして新しいアイデアを持った企業と協働することにより、新しいサービスや事業の創出を目指します。
2030年のグローバルでの電動二輪車販売台数については、400万台を目標として掲げています。この販売台数を達成するために累計で約30のグローバル電動モデルを市場投入していきます。同時に完成車コストの低減のため、仕様・調達・生産の最適化、部品のモジュールプラットフォーム化などに取り組み、2030年には現行比約50%のコストを削減します。電動事業の自立化に向けて2031年3月期までに約5,000億円を投資し、電動二輪事業単体でROS 5%、2030年代には10%以上を目指して取り組みを強化していきます。

パワープロダクツ事業

パワープロダクツ事業は、電動化に加えて作業機の自動化技術など、Hondaならではの新しい価値を提供することで、人手不足などの社会課題を解決するとともに、人々の「仕事の質」と「暮らしの質」の向上に貢献していきます。
パワーユニット領域とガーデン領域を電動化の主要ドメインに位置付け、商品力の向上に向けた取り組みを強化することで、業界における電動化をリードしていきます。また、多様なモビリティを有するHondaの強みを活かし、電動化に必要なコア部品を二輪事業と共用化することでコストを削減するなど、事業間のシナジーによる開発・コスト競争力の強化を図っていきます。