四輪事業戦略

環境負荷ゼロに向けた四輪事業のビジョンと課題

環境負荷ゼロに向けた四輪事業のビジョンと課題

Hondaは環境負荷ゼロの実現に向け、2040年にEVおよびFCEV(燃料電池自動車)の販売をグローバルで100%にすることを目指しています。現在、北米および欧州では、EVの普及が一時的な停滞期に入ったという見方もありますが、Hondaは中長期的には四輪をはじめとした小型モビリティは着実にEVにシフトすると考えており、電動化のフロントランナーとして手綱を緩めることなく取り組みを推進していきます。
一方で、中国を中心とした新興EVメーカーがグローバルに進出してきており、競争は激化しています。この激動の環境下でHondaが掲げる電動化目標を達成するためには、単に電動車を普及させるだけでなく、ライフサイクル全体での取り組みが重要となると考えています。とくに、コア部品であるバッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーンの構築に注力するとともに、Hondaらしい魅力を備えたEVモデルの投入や、生産技術の進化、充電インフラの拡充などを積極的に進めていきます。
EVシフトに向けては2026年までのスピーディーな商品投入と2030年に向けた強いEVブランドと事業体質の構築を進めていきます。そのためには、ICE(内燃機関)事業のさらなる盤石化を図り、将来の電動化への投資に充てることが重要となります。2020年代後半以降のEV普及期を見据え、中長期的な視野で確実な準備を進めていきます。

収益ハイライト(売上/営業利益/台数)

収益ハイライト(売上/営業利益/台数)

未来のEV市場を見据えた
グローバル戦略

電動化の進展が地域によって差が大きい現在においては、地域特性に応じたEVを積極的に投入し、アライアンスを通じて得た知見を活かしながら、将来のEV商品や生産体制の構築に向けた基盤を着実に築いていきます。また、2020年代後半以降の全世界的なEV普及期を見据え、2026年からは新たなグローバルEVシリーズ「Honda 0シリーズ」を投入し、世界中で展開していく計画です。2031年3月期には、グローバルでのEV/FCEVの販売比率30%以上にすることを目指します。これらを実現するため、①Hondaならではの魅力的なEVの投入、②それを支えるバッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーンの構築、③生産技術・工場の進化の3点に注力していきます。

Honda四輪事業 電動化の方向性

Honda四輪事業 電動化の方向性

Honda 0シリーズの目指す姿

Honda 0シリーズは、“Thin, Light, and Wise.”という新たなEV開発アプローチに基づく、ゼロからの発想で創り出したまったく新しいEVシリーズです。これは、Hondaがクルマづくりで大切にしてきた理念である「M・M思想」のもと、「操る喜び」「自由な移動の喜び」をさらに高めることを目指しています。加えて、 Honda 0シリーズは、ソフトウエア進化を前提とした最適なアーキテクチャーを採用することで、顧客体験をアップデートし続けます。

Honda 0シリーズ

“Thin, Light, and Wise.”という開発アプローチ

Thin EV時代のM・M空間

新たに採用する中大型EV専用プラットフォームと進化したパワーユニットの連携により、EVでは他に類を見ない低全高のスタイルとショートオーバーハングなパッケージを実現します。モータールームやフロアは、新開発の小型「e-Axle」とトップクラスの超薄型バッテリーパックを採用し、極限まで「薄く」します。その一方で、部品レイアウトの最適化や部品点数の削減、Honda独自の衝突コントロール技術を採用することで、従来と比較して10%以上の低全高と、室内空間の最大化を両立させます。

  • e-Axle:モーター、インバーター、ギアボックスにより電力から動力へのエネルギー変換を担うシステム

Light 軽快な走り

ボディ骨格の軽量化に加え、HondaがF1やハイブリッドの開発で培った技術を駆使し、軽量・薄型化した新型パワーユニットを採用することで、従来と比較して約100kgの軽量化を実現します。また、バッテリーやパワーユニットなどの重量物を低く、車体中心に配置することで低重心化を図り、クルマの挙動を安定させ、軽快な走りを実現します。

Wise 新しい感動体験

独自のビークルOSを搭載し、進化したコネクテッド技術と合わせて、お客様一人ひとりに最適化されたデジタルUXを提供します。基盤となるE&Eアーキテクチャー、その上部レイヤーであるビークルOS、そしてその上に載るアプリケーションすべてを独自に開発していきます。
Honda独自のビークルOSを基盤とした一つひとつの機能が連携することで、いままで実現できなかった新しい感動体験をスピーディーに提供することが可能となります。クルマが自ら運転者の意図や環境の状態を理解し、やりたいことを先読みして自律的に提案することで、Hondaならではの新しい体験を提供します。また、運転者の能力を補完することによって運転不安をなくし、環境・音声を認識し操作を楽にします。
HondaはWiseという開発アプローチに基づき、クルマを自律化・知能化させることで、乗員を守り、寄り添い、安心を提供します。

お客様一人ひとりの嗜好やニーズにきめ細かく対応する知能化により、新しい感動体験を提供

お客様一人ひとりの嗜好やニーズにきめ細かく対応する知能化により、新しい感動体験を提供

これを達成するために、従来は多くのECU(電子制御ユニット)が個別に担っていたクルマのシステム制御の役割を、コアECUに集約し、クルマ全体の頭脳が1つになるセントラルアーキテクチャー型を採用します。このコアECUに搭載されるSoC半導体には、自動化・知能化の進化に不可欠なAIを搭載しつつ、消費電力を賢く抑えるなど、Honda独自のカスタマイズが施されています。これにより、人間のように認知・判断するモビリティを実現します。

Honda 0シリーズの提供価値

“Thin, Light, and Wise.”開発アプローチにより、以下の5つのコアバリューを提供します。

①安心・安全のAD/ADAS

2021年に自動運転レベル3:条件付自動運転車(限定領域)に適合する先進技術を有する「Honda SENSING Elite」を搭載した「LEGEND(日本向け)」を発売し、自動運転レベル3を実用化しました。この技術を世界中のお客様に提供するため、Honda 0シリーズには最新のADAS技術を搭載しています。2020年代後半には、さらに進化した次世代自動運転技術も搭載する予定です。
この自動運転技術は「人間中心」というHondaの安全哲学に基づいており、AI、センシング、認識判断、ドライバーモニターなどの知能化技術をさらに進化させます。これにより、クルマに乗っている間だけでなく、乗った瞬間から降りる瞬間までシームレスな移動体験を提供するとともに、より人の感性に近いAD/ADASの実現によって安心・安全な自動運転空間を提供します。
また、ハンズオフ機能の領域も拡大します。現在は高速道路のみでの利用が可能ですが、一般道でも安全に使用できるよう開発を進めています。これらの機能は、無線通信によってクルマの機能がアップデート(OTA)され、さらにHondaらしい、魅力的な商品へと継続的に進化していきます。

乗車から走行、降車まで、シームレスで人の感性に近いAD/ADASを実現

OTAアップデートでずっと進化 知能化進化/ADASを実現

②IoT・コネクテッドがもたらす新たな空間価値

Hondaはコネクテッド技術を通じて、「運転して楽しい、使って楽しい、つながって楽しい」という価値を提供します。AIとビッグデータの活用により、クルマがユーザーの好みや運転傾向を学習し、個々に合わせた提案を行います。使えば使うほどクルマとユーザーが親密になり、生活のさまざまな場面で、クルマが人の成長を助ける・クルマが人の好奇心を満たすように進化する・クルマが暮らしを変革させる「つながる楽しさ」を提供します。シームレスなUXとUIにより、究極的には「やりたいことがすぐできる」ストレスゼロのユーザー体験の実現を目指します。

UI/UXの進化 デジタルコックピットの採用に加え、顔認証や対話型AIにより、シームレスにやりたいことがすぐできる 「ストレスゼロ・楽しさMAXのUX」 を目指す

③高い電費性能

Hondaは、これまでに世界中で500万人以上のお客様に電動車(ハイブリッド含む)を提供してきました。この長年の経験と技術を基盤に、Honda 0シリーズではさらに高い電費性能を実現します。電力変換効率が高く、パッケージングに優れたe-Axleや、高密度バッテリーパックを採用。また、空力性能の向上により、バッテリー搭載量を減らしつつも、各モデルで300マイル以上の十分な航続距離を実現しています。
さらに、EVに対する充電時間やバッテリー劣化の不安を解消するため、2020年代後半に投入するHonda 0シリーズモデルでは、15~80%までの急速充電時間を15分以内に短縮することを目指しています。同時に、バッテリーシステム制御技術によりバッテリーの劣化を抑え、通常の使い方における10年後の劣化率を10%以下にすることを目指しています。

モータースポーツで培った「高効率パワーユニット」と「空力技術」で世界TOPクラスの電費性能を実現

④人車一体の操る喜び

「操る喜び」は、いつの時代も変わらないHondaの不変の哲学です。“Thin, Light, and Wise.”なEV専用アーキテクチャーを軸にした、Honda独自の電動技術とダイナミクス技術により、軽快で心も体もクルマと一体になる高揚感を次世代に提供します。
“Thin, Light, and Wise.”を体現する、Honda 0シリーズのフラッグシップコンセプトモデル「SALOON」では、ステアバイワイヤの採用に加え、Honda独自のロボティクス技術で培った姿勢制御などのモーションマネジメントシステムをさらに進化させ、多様な走行シーンでドライバーの思い通りのコントロールを実現します。また、Honda 0シリーズの低全高スタイルに、モータースポーツで培った空力技術を惜しみなく採用し、ダイナミクス性能、空力性能、デザインを高次元で融合させます。

⑤共鳴を呼ぶ芸術的なデザイン

Honda 0シリーズのデザインは、個々の感性を共鳴させ、独創性を生み出す「The Art of Resonance」を体現しています。一目見ただけでほかとは圧倒的に違う大胆でピュアなプロポーションは、見る者に新しい視点を呼び覚まします。爽快な視界と直感的な操作により、ドライバーの感性に響く楽しいドライビング体験を創り上げ、クルマを単なる移動手段から、個々の感性に寄り添う存在へと昇華させます。

包括的バリューチェーンの構築

2020年代前半においては、北米、中国、日本など地域ごとに最適なパートナーからバッテリーを調達し、コストを最小化しながら確実な調達を行っていきます。
2020年代中頃には、パートナー企業との合弁によるバッテリー生産を開始します。米国において、LGエナジーソリューションとの合弁によるバッテリー工場が2025年に稼働を開始し、年間40GWhのバッテリーを生産する予定です。また、競争力のあるバッテリーコストの実現に向けた強固なバリューチェーンを構築するとともに、高密度なパッケージング技術によってバッテリーパックの軽量化・コンパクト化を図ることで、Honda 0シリーズの商品力強化へと繋げていきます。
さらに、新会社ALTNAの設立など、車両の生産だけでなくライフサイクルビジネスにも参入していきます。充電サービス領域、エネルギーサービス、リユース・リサイクルに至るまで、事業領域を広げ、安定した事業基盤を確立します。
2020年代後半にはさらに領域を広げ、バッテリーを中心とした原材料の調達から完成車生産、バッテリーの二次利用、リサイクルまで含む垂直統合型のEVの包括的バリューチェーンの構築を目指します。カナダでは、GSユアサと共同開発したバッテリーの自前生産を開始します。また、主要部材についても、POSCO Future M Co., Ltd.とは車載バッテリー用正極材を、旭化成株式会社とは車載バッテリー用セパレーターを、それぞれ合弁による新工場で生産し、自前化を進めていきます。
全固体電池に関しては、2020年代後半に投入されるモデルへの採用を目指し、2024年秋に実証ラインを立ち上げます。バッテリーコストの最適化や安定調達はもちろん、川上から川下までバリューチェーン全体の競争力確保につなげ、2030年には北米で調達するバッテリーのコストを現行比で20%以上削減することを目指します。

  • ALTNA株式会社:Hondaと三菱商事株式会社が2024年7月に設立した新会社。バッテリーリース事業やスマート充電事業などを展開

バッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーンの構築

バッテリーを中心としたEVの包括的バリューチェーンの構築

EV普及スピードに応じた最適な生産技術の投入

ICEからEVへの移行期間においては、既存の生産設備を最大限活用しながら、EVの生産に必要とされるメガキャストなどの先進技術を先んじて投入し、進化・熟成させていきます。

生産技術・工場の進化

生産技術・工場の進化

2020年代中頃

EV生産において鍵となる薄型バッテリーパックの製造ラインでは、一部先進技術を既存設備に先取りしながら進化を加速させます。ここで進化・熟成させた技術は、将来的にEV専用工場にも投入し、さらに高効率な生産体質の構築につなげていきます。
オハイオのアンナ工場に新しく設置するバッテリーケースの製造ラインには、6,000トンクラスの高圧ダイキャストマシンであるメガキャストを導入します。従来、部品点数が60を超えていたバッテリーケースや付帯部品を、5部品に大きく削減することが可能です。また、摩擦攪拌接合(FSW)技術を組み合わせることで、投資の抑制と生産効率の向上を両立していきます。日本では初となる6,000トンクラスのメガキャストマシンを栃木にある生産技術の研究開発拠点に導入し、量産性の検証を実施中です。この技術は将来的に大物アルミ鋳造のボディ骨格部品に適用を拡大するなど、継続的に進化させていきます。
バッテリーパックの組み立てラインにおいては、クルマの特長に応じてモジュール化した部品構成とセル生産方式を組み合わせた、Honda独自の「フレックスセル生産システム」を先行導入していきます。これにより、生産機種の変更や生産量の変動にフレキシブルに対応することが可能です。
また、現実の生産ラインの状況をリアルタイムにサイバー空間で再現するデジタルツイン技術を活用し、工場への部品供給や生産量・スピードなどの生産効率を最適化します。これにより、市場のニーズに合わせてタイムリーに商品を供給することが可能となります。

2020年代後半

これらの取り組みは、2020年代後半にはカナダのEV専用工場でクルマ1台の生産に適用拡大され、完成形を迎える計画です。これにより、大幅な稼働率の向上と固定費の削減を含め、世界トップレベルの生産効率を実現し、従来の混流生産ラインと比較して約35%の生産コスト削減を目指します。

シリーズ別の最適ラインアップ投入

Honda 0シリーズ

2026年の北米における上市を皮切りとして、Honda 0シリーズのラインアップをグローバルに展開していきます。2030年までには、小型から中大型モデルまでの7モデルを投入する予定です。

「e:N」「烨(イエ)」シリーズ

EVの普及が進む中国において、グローバルに先駆けて2022年から2027年までに10機種のEVを投入し、2035年までにすべての四輪商品をEV化します。中国で現在展開中の「e:N」シリーズに続く新たなEVシリーズとして「烨(イエ:Ye)」シリーズを発表し、電動化への変化が速い中国市場でも挑戦と進化を追い求め、EVラインアップの拡充を加速します。具体的には、「Ye P7」と「Ye S7」は2024年末以降の発売を予定しています。さらに、「Ye GT CONCEPT」をベースとした量産モデルは、Yeシリーズ第2弾として2025年内の発売を予定しています。

小型EVシリーズ

日本で発売する軽商用EV「N-VAN e:」を皮切りに、2025年には軽乗用EVモデル、2026年には操る楽しさを際立たせる小型EVなどを、ニーズが高い地域に順次投入します。

環境変化に柔軟に対応するための体質強化

燃費の改善と上質で爽快な走りを高次元で両立させるため、Hondaは独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」およびプラットフォームの刷新を進めていきます。e:HEVは軽量化と高効率化を実現し、導入コストを大幅に削減します。また、プラットフォームの効率化と共用化を計画通りに進め、大幅な軽量化(-100kg)を実現します。
さらに「安心」と「運転の楽しさ」を提供するため、EV開発技術をハイブリッドに転用し、EVに搭載するモーターを活用した電動四駆を採用します。これにより、従来の機械式四駆と比較して最大駆動力の向上や高応答・高精度な駆動力の配分制御が可能となります。加えて、モーションマネジメントシステムとの協調制御により、車両挙動を安定させながら高い運動性能を引き出すことが可能です。
Hondaは、進化したハイブリッドモデルをグローバルで多くのお客様に提供することで、ICE事業の体質強化を図ります。また、需要や環境の変化に柔軟に対応しながら収益を確実に確保するために、EVとの混流生産を行います。創出した原資は、EV事業をはじめとする新事業に投入し、さらなる成長を目指していきます。

ハイブリッド進化(2026年投入予定)