世界で初めて交差点に信号機が登場したのは、1868年のイギリス・ロンドンだと言われている。ただし、これは電気式ではなく手動式の信号である。光源にガスを使い、緑と赤を手動で切り替えるもので、馬車の交通整理のために使われた。
その後、世界初の電気式信号が誕生したのは、それから半世紀も経た1918年のアメリカ・ニューヨークだった。それまで、人間や馬車だけが往来していた交差点には必要なかったが、自動車の普及とともに信号によって交差点を交通整理する必要が生じてきたためだ。
南アメリカ大陸へ行くと、信号機に求める安全性はさらに違ったものとなる。
例えば、ブラジル・サンパウロの街中を夜中に運転していて赤信号で止まっていると、後ろからクラクションを鳴らされたり、片道が2車線ある場合は追い越されてしまうケースがある。最初は単なる信号無視としか思っていなかったが、実はそうではなかった。地元の人によれば、「夜中の交差点には強盗がよく潜んでいて、赤信号で止まったときが奴らのチャンス」だとか。だから、赤信号でも交差点内の安全が確認できれば、右折だけでなく直進も左折もするというのだ。所変われば事情も変わる。まさに世界の交差点の珍しいトピックスといえよう。
もちろん信号無視を助長しているのではない。信号はあくまで交差点内を安全に通行するための大切なひとつのインフォメーションであるということ。日本でも交通量の少ない早朝など、青信号でも注意して通過した方がいい。青信号は「行け」ではなく、「行ってもいい」なのだから。
信号はドライバーに対して、交差点を安全に通行するための道案内であって、絶対的な存在ではない。したがって、アメリカではドライバーだけでなく歩行者も、信号だけに頼るのでなく自分の目で周囲の状況を確認する。そういう意識が根付いているから、右折に関しては信号に関係なく、ドライバーの判断で行ってもいいというルールがこの国には存在する。
アメリカは右側通行(左ハンドル)なので、この場合の右折というのは、日本でいうと左折を意味する。日本では交差点手前で赤信号が灯っていれば、標識や矢印の信号が出ていなければ直進はもちろん左折もできないが、アメリカでは日本でいう左折にあたる右折は、左側からクルマが来ていなければ、自らの判断で進んでもいいのだ。