世界の交通安全をリードする存在として、交通安全教育に取り組む
ホンダモビリティランド株式会社
鈴鹿サーキット交通教育センター
チーフインストラクター 田辺 隼人
Hondaは、日本における安全運転普及活動(以下、安運活動)を1970年からスタート。
日本の活動は、将来的に他地域のモデルとなる位置づけにあり、環境や時代の変化に合わせて常に新しい試みを取り入れてきました。
今回は、日本の最新の活動内容をホンダモビリティランド株式会社 鈴鹿サーキット交通教育センターの田辺より紹介します。
「説得」ではなく「納得」を重視した取り組み
Hondaは「危険を安全に体験する」という考え方に基づき、企業や個人のお客様に、弊社交通教育センターでの二輪・四輪の実車による安全運転トレーニングを進めてきました。その際重視していたのが、受講者を「説得」するのではなく、「納得」していただくこと。なぜなら、指導する側が「説得」して押し付けたとしても、人の行動が安全に変わり定着することはないためです。受講者が自ら「気づき」、心から「納得」してもらうことが重要です。
交通安全教育のコンテンツや運転行動を測定するシステムの開発
受講者の「気づき」を促すには、一人ひとりの行動特性を浮き彫りにして、客観的事実として伝えることが有効です。そのために私たちは「運転習慣チェックプログラム」と呼ばれる交通安全教育のコンテンツや、運転行動を測定するシステム「DTM(Driving Technique Measure)」を2008年に開発し、これらを活用したプログラムも展開しています。
このプログラムでは、まず受講者が「運転習慣チェックプログラム」で自分の運転を評価し、その後「DTM」を搭載した車輌で定められたコースを走行します。「DTM」では車載用測定機やGPS受信機により、運転行動や車両挙動などの客観的データを取得。受講者は自己と客観的データの2つの評価を比較することで、自身の運転の問題点に気づくことができ、結果として納得性の高いトレーニングをすることが可能となりました。
2017年には、こうした運転行動や車両挙動の測定に加え、走行情報を分析するシステム「DSP(Driving Style Proposal)」を開発し、さらに進化させています。DSPは「リアルタイム」での情報収集、蓄積された走行データの「分析」、時代背景やお客様ニーズに応える「拡張性」の高さを特徴としています。こうした特徴を活かしたDSPのひとつが、運転の集中度を測る「意識のわき見検証」のコンテンツです。近年、カーナビゲーションやスマートフォンなどへのわき見運転が交通事故に繋がるケースが増えていますが、運転中の考えごとや同乗者との会話など、運転以外のことに意識が向いている状態「意識のわき見」による危険についても理解する必要があります。こうした危険要因に受講者が気づき、納得することが、安全運転に近づくと考えています。
DSPは日頃の運転を振り返る良い機会となりますが、現在このプログラムを展開しているのは、鈴鹿サーキットの交通教育センターに限られています。今後はより多くの方にトレーニングを受けていただけるように、DSPの汎用性を高めていくと共に、活動場所の拡大にも取り組んでいきたいと考えています。
「2050年に全世界でHondaの二輪車・四輪車が関与する交通死者ゼロを目指す」にあたって
Hondaが、交通安全教育に関わる人の育成や各種教材・機器、プログラムの開発・普及を担ってから50年以上が経ちました。これまでの活動では、皆さんに認知・予測・判断・操作の運転の基本をお伝えするだけでなく、周囲に対する思いやりなど、交通参加者としての自覚を促すことも大切にしてきました。こうしたことは、「交通事故死者ゼロ」という高い目標に向けてより重要になってくると考えます。
今回、ご紹介したプログラムは、それぞれの運転者がお互いを尊重した運転ができる未来を目指すためのもの。今後もよりコンテンツを充実させ、日本各地、さらにはグローバルでも展開できるように努めて参ります。
ホンダモビリティランド株式会社田辺 隼人HAYATO TANABE
鈴鹿サーキット交通教育センター チーフインストラクター。二輪車・四輪車の運転者に対するセーフティスクールや、企業の業務車両運転者への安全運転研修などを担当。併せて企業に対しては、交通事故防止の取り組みについての提案なども行っている。