アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト支援
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「モノづくり」の先に広がる未来へ!Honda賞受賞「広島商船高等専門学校」の開発現場レポート

高度な自動技術とスピードで中国地区の強豪を抑え、 念願の全国大会では見事Honda賞を受賞に至った広島商船高専。 そのロボット作りにかけるリアルな想いと一歩ずつ成長してきた、彼らの軌跡を追うため広島県の大崎上島にある広島商船高等専門学校を訪ねた。

2018年
高専ロボコン全国大会

「自らの頭で考え、自らの手でロボットを作る」
想像×創造の楽しさ・素晴らしさを発信する全国規模のイベント!
今年の課題は「ボトル・フリップ」。制限時間内にテーブルにペットボトルを投げ得点を競います。「自動ロボット」という高難易度の課題に124のチームが挑戦しました。
Hondaは、自由な発想でロボット開発に挑む高専生の夢を応援したい、そんな想いで、高専ロボコンの特別協賛を行っています。

彼らが成長してきた特別な場所
とことん挑戦できる充実した学習環境

2019年1月末。 昨年の高専ロボコン全国大会で見事Honda賞を受賞した「広島商船高等専門学校」にお邪魔した。
全国大会では惜しくも優勝は逃したが、自動ロボットという高度な難題に果敢に立ち向かい、
自分たちのアイデアを正確に形にしていた彼らは高い賞賛を得た。
そんな彼らが普段どんな環境でものづくりに臨んでいるのかを見せてもらった。

一般的な 高等学校と違い、5年間以上もの長い学修課程の高専高等学校。
さらに、生徒のほとんどが島内で寮生活もしくは下宿しているという。
この特殊な環境の中にも、彼らの成長のヒントがあるのだろう。

  • 学生のやる気を
    後押し
    する校風

    広島商船

    広島商船高等専門学校は2018年創起120周年を迎えた高等専門学校。約700名の学生たちが、商船学科・電子制御工学科・流通情報学科に分かれて日々、学んでいる。
    学生のやりたい事、主体性を大切に伸ばしながら専門的な知識・技術を修得することができる。

  • 人間性を育む島での生活

    広島商船

    広島市内から車とフェリーを乗り継いで1時間20分ほどにある大崎上島。瀬戸内海の島々に囲まれたこの場所に、広島商船高等専門学校はある。
    7800人ほどの人が暮らしている比較的大きめな島である。島の人とのかかわり合いも、豊かな人間性は育む上で重要な要素だという。

実習で
クルージングできる。

「商船高専」の名の通り、船に関する専門学科を設けている広島商船。商船学科の生徒以外も実際に練習船・広島丸に乗船体験できる。

全国大会出場を掴んだ
ロボコン製作現場に迫る!

海を臨む大きな校舎のふもとに部室はあった。
顧問の梶原先生に案内されて足を踏み入れるとそこには、工具や備品、さまざまな種類の工作機械が所狭しと並んでいる。
3Dプリンターや、専用PC、組み込み途中の回路基板、自作のセグウェイ…
一見遊んでいると思われそうなゲームのコントローラーもロボットを動かす大事な部品だ。
奥に広がる板張りのスペースで、試作機を組み立てたり試運転をするという。
ここが広島商船ロボコンチームのホームベース。
授業以外のほとんどの時間を、この場所で過ごしてきた。

  • 賑やかな部室

    広島商船

    部員が増えたこともありエリアを拡張した部室。ロボコン製作に必要な設備が揃っている。

  • 部品づくりも自分たちの手で

    広島商船

    部室以外の施設も利用可能。専用の教室で指導者立会のもと、学生自らが部品作りも行っている。

念願の全国大会出場に
至るまで。
仲間と共に成長を重ねた5年間。

全国大会が終わって、少し落ち着きを取り戻した部室に 見事Honda賞を受賞した今回の主役たちが、集まってくれていた。
全員が、もうすぐ卒業を控えた5年生だ。
慣れないインタビューに少し緊張ぎみのメンバーもいたが ロボコンの話が始まると、表情が一転。
目を輝かせて、一つ一つ思い出すように話しはじめてくれた。

ほとんどが「高専ロボコン」に憧れて入部してきた部員たち。学校の授業が進むつれ、できることが増えていき先輩たちの見よう見まねで、時には図書館やネットで調べながらロボットを作り始めた。
毎年5月、高専ロボコンの課題が発表されると全員でアイデア出しを行うのだが、これが大変。
学年関係なく、それぞれが本気で案を出し合うため喧々囂々だという。
特に今年の課題は「自動ロボット」。
相手チームが任意に設置したテーブルの位置をロボットが自動で認識してペットボトルを投げなくてはならない。
これまでのロボコンの課題としても初となる非常に高度な要求だった。

「初めて課題を見たときはやりたくない!と思いました。」と話してくれた。難しくて、正直どうすればよいか見当もつかなかったという。
ただ、ここで歩みを止めるわけにはいかない。
自分たちにできそうなもの、勝てる可能性がありそうなものを選んで、試作へとりかかる。
経路の計算やロボットの自己位置の推定など論文を漁って一から勉強したのだと教えてくれた。

上手く行かなければ、何が原因だったかを考え、解決に導く方法をまた探す。
試行錯誤を繰り返す中で、当初のアイデア出しで ボツになった案が掘り起こされることもあるという。
「ペットボトルをタイヤとして使う」という内田さんのアイデアも最終的に一閃に搭載され大きな得点力へ繋がった。
思い通りのロボットができず、果のない壁にぶつかることも。
「もう逃げたい」「これが終わったらやめよう」 そんなことが頭をよぎることも少なくないという。

それでも、前に進めたのは、頭を抱え、考え苦しみ悩んでいるのが 自分ひとりじゃないと分かっていたからだ。
「ロボコンは、一人ではできない。チームじゃないと絶対できないんです」 メンバーが呟いたその一言に、彼らの絆を感じた。

  • 一番長い時間、
    一緒に過ごした仲間

    広島商船

    5年生だけが集まったAチーム。苦楽を共にしてきた仲間は、大切な友人であり、「兄弟」や「家族」のような存在だと答えてくれた。照れながらも、それぞれがまっすぐ仲間を思っているのが言葉の端々から伝わってくる。

  • 息抜きも大事な時間

    広島商船

    学生らしい柔軟なアイデアを生み出すためには、息抜きも重要。海水浴場へ泳ぎに行ったり、釣りへ行ったり、部室でたこ焼きパーティーを開催することも。彼らの学生生活に無駄な時間など一瞬もない。

ロボコンにかける想い。
成長が形になって、やがて自信へと繋がる。

次に体育館へ移動して、全国大会で特別賞を受賞したロボットを実際に見せてもらった。
自動制御の「紫電」と手動制御の「一閃」このロボットの名前を決めるのも、今年は特に揉めたのだそうだ。
研ぎ澄まされた剣をひと振りするとき、一瞬ひらめく鋭い光という意味の言葉「紫電一閃」には彼らのいろんな想いが詰まっている。
ロボットはその名の通りの素早い動きで次々にペットボトルを発射していく。
形状、進行方向、装填方法、ペットボトルの中に何を入れるか…
全て自分たちで考えて、作り上げたのだ。
ロボットとしての精度や動きには自信があった。 ペットボトルの発射機構は課題発表の翌日から試作品を作り始めていた。
あらゆるテーブルの位置に対して現在位置からの最適なルートを計算して
進む技術はメンバーが一から論文を研究して作り上げたものだ。
授業が終わってまっすぐ部室へ向かい、周りが暗くなるまで時間を忘れてロボット開発に没頭してきた。

それでも、もし当日トラブルで動かなくなったら…
他校がもっとすごいロボットを作っていたら…
地区大会が近づくにつれ、言いようのない不安は募っていったという。
「地区大会前日のテスト走行時、他校のロボットを初めて見たんですが、 負けてない!いけるぞ!って思ったのを覚えています」 2台のロボットを見つめながら、キャプテンの河野さんが笑った。
広島商船のロボットは出場校のなかで唯一「全てのテーブルに同じクオリティで」
ペットボトルを立たせることができるロボットだったのだ。

全国大会という大舞台で、大きな成果を成し遂げた彼らだが、特別賞受賞は決して単に運が味方して起きた「奇跡」などではない。
チーム全員で創り上げた「軌跡」の結果なのだ。

広島商船
広島商船

「一閃」のモチーフは
部室に入ってくるカニ。

海に面した広島商船。部室内にカニが入ってくることもしばしば。試作中のロボットの動きが横移動だったこととリンクさせて、2018年の手動機「一閃」のモチーフは、カニになったという。

広島商船

「紫電」には想いの
こもった彫刻と
御守がついている

自動機「紫電」の柱部分にかかっている「御守」。これは、地区大会当日にチームメンバーが買ってきてくれたもの。3Dプリンターで作った「紫電」の文字は、想いを込めて皆で墨入れをした。

「高専ロボコン」を通じて
成長した学生たちと
それを見守ってきた先生の想い

キャプテンにとって
「高専ロボコン」とは?

取材中「キャプテンから見たメンバーの性格や強みは?」
という、少し難しい質問を投げかけた。
「青山くんは縁の下の力持ちで、僕らが気づかない部分も冷静にチェックしてくれます」
「矢山くんはチームの愛されキャラ。おっとりしているけど、加工のスピードはピカイチ!」
「内田くんは設計から組み立てまでが早い!試作機を作る時に頼りになるんです」
「一場くんは途中入部ながら、即戦力としてチームを引っ張って行ってくれました」
「渡邉くんの加工機メンテの技術や情報収集力は、部内で右に出るものはいません」
その答えは、どれも明確で、彼らの人となり、そして河野さんがどれだけメンバーのことを理解し、
よく見てきたかが、充分に伝わるものだった。
そんな河野さんにとって「高専ロボコン」は、どんな存在だったのか。

河野 龍紀さん

モノづくりの楽しさと難しさ、
仲間の大切さを教えてくれた大きな存在

「高専ロボコン」に出場したくて広島商船に入学したのがもう5年前。全国大会に出場できただけじゃなく、Honda賞を受賞できたことは、学生最後にして最高の思い出になりました。もちろん辛い事もあったし、キャプテンとして、全国大会へのプレッシャーも感じていました。うまく進まずイライラしてしまう自分を、チームメイトが何度も支えてくれました。
メンバーもみんな成長していて、周りの意見を聞き入れたり、積極的に自分のできることを探したり、技術面でもできることがどんどん増えていきました。苦手なこと・得意なことを知っているから、役割分担しなくてもスッと作業ができるんですよ。
全国大会が終わってみて、僕の5年間はなんて充実してたんだろうって改めて思いました。全国大会に出て競技に勝つことだけが「高専ロボコン」じゃない、仲間とモノづくりをするところから、もう始まっていたんだと、家族のように一緒にいてくれたメンバーが僕に教えてくれました。

先生が「高専ロボコン」を通じて
学生たちに伝えたかったことは?

学生たちのすぐ側で、目を細めて頷いていたのが、顧問の梶原先生。
入学当初、右往左往しながら、ロボットを作っていたまだ幼さの残る学生たち。
5年経って、見違えるように成長した彼らが 念願だった全国大会へ導いてくれた。
梶原先生が「高専ロボコン」を通じて、学生たちに伝えたかったこととは。

梶原 和範先生

自分や周りにある全ての「モノ」を大切に。

私自身は、ロボット設計なんてしたことないんです。だから、技術面で部員達に教えられることはない。逆に干渉していたら全国大会に行けてなかったかもしれません(笑)
いつも言っているのは「モノを大切にしなさい」これだけ。モノって、ロボットのことだけじゃないですよ。機材を雑に扱う人は、人の扱いも雑になる。整理整頓ができれば、思考も自然と整理できるようになる。精神論ですが、なにかが起こる時は必ず原因があって、それを分析しないと同じことを繰り返してしまう。これは授業でもよく学生に言っています。
これから大人になる彼らには、仕事をする力を身に着けた上で「やりたい事」をやれる人になってほしい。モノづくりの楽しさも大変さも知っている彼らが、いずれ「これは面白い」と思うものを作って、それが世の中を変えていく。そんな未来を楽しみにしています。

夢を叶えた自信を胸に
新しい目標へ進み始める

最後に将来の夢・目標について尋ねてみた。
少し考えを巡らせて一人、また一人とペンをとる学生たち。
書き終わった後、それぞれの書いた文字を見て「いいなそれ」「そうきたか」と楽しそうな声が響く。
少し照れくさい。本当に叶うかどうかも、分からない。
でも、それぞれの夢を嗤う人は一人もいなかった。

  • 河野 龍紀さん

    河野 龍紀さん

    会社に入ってからも、歳をとってからも、ずっとモノづくりをしたいです。モノづくりの楽しさを、ずっと心の中に留めておきたいと思います。

  • 内田 陽良さん

    内田 陽良さん

    高専ロボコンに参加して「モノづくり」の楽しさを知りました。設計職について「これ俺が作った!」と言えるようなものを作っていきたいです。

  • 青山 舜さん

    青山 舜さん

    昔から好きだった鉄道会社に入社することができたのが本当に嬉しい。今度は鉄道マンとして、誰かの見本になれるような人になりたいです。

  • 矢山 伴紀さん

    矢山 伴紀さん

    子供の頃から学者になりたくて新しいことを研究・開発したいと思っていました。技術や科学を発達させて、世の中をもっと豊かに変えていきたいです。

  • 渡邉 裕太さん

    渡邉 裕太さん

    高専ロボコンで、回路やロボットのプログラミングの楽しさに気づきました。IoTなどを使って社会に貢献できるエンジニアになりたいです。

  • 一場 悠仁さん

    一場 悠仁さん

    自分のアイデアを形にしたいです。新しいものを作って、それが世の中に普及して、身近な人や皆の役に立ってくれたら嬉しいな。

「モノづくり」の向こうに
彼らが創る未来が見える。

性格も、得意分野も、進路も違う彼らだが ひとたびロボコンの話をし始めると、皆一様に目が輝き始める。
彼らにとって「高専ロボコン」は、単なる部活ではない。
生活の一部であり、夢であり、大きな壁であり、 成長のヒントが集結した「学びの場所」だった。
これからまた新しい場所に身を投じる学生たち。
不安がないと言えば嘘になる。
ただ、「モノづくり」に夢中になった日々が 自信や経験、仲間を与えてくれた。
今までの軌跡が、彼らの背中を押してくれる。
一回りも二回りも大きく強く成長した彼らは これからも「モノづくり」に携わっていくことだろう。
未だ見たこともない何かを創り出してくれる日はきっと、そう遠くない。
彼らが創るのは、モノづくりの先にある豊かな未来だ。