Sustainable impacts 2022/06/27
専門外の知識を次々と身につけた“努力のDX人材”が描く、Hondaの未来に向けた戦略
将来のHondaの事業変革を見据えて、必要なシステム像を構想し、幅広く情報収集しながら戦略立案を進めている安。Hondaに入社し、目の前の仕事に真摯に向き合い続けたことでキャリアを切り拓いてきました。ITスキルを活用してHondaの戦略立案に携わる安の仕事内容や、今後のキャリアに迫ります。
安 商賢(アン サンヒョン)Sanghyun An
デジタル統括部 IT戦略企画部 IT戦略課
2014年にHondaへ入社して以来、IT本部(現在のデジタル統括部)でキャリアを積む。2021年より現在の所属となり、BEV(バッテリー式電気自動車)やリカーリングをはじめとするHondaの将来にかかわる戦略策定に携わる。
変革を予想し、やりたいことを明確にしてHondaの門を叩く
Hondaは今後どんな未来に向け、どのようなビジネスを進めていく必要があるのか。そんな戦略の立案をシステム面から支えている部署が、IT戦略企画部IT戦略課です。安は、Hondaの将来のためにシステムはどう変わらなければならないかを考え、ビジネス部門を巻き込みながら今、何をすべきかという提案を行っています。
2014年にHondaへ入社してから、8年間IT本部(現在のデジタル統括部)で経験を積んできた安。両親の仕事の都合で10代の頃に韓国から日本へ引っ越してきて、日本の大学に入学、母国での兵役などを経てから日本で就職することを決意しました。
安 「日本で働いてみようと決めたものの、自分がどのような仕事をしたいのか当時はよくわかっていませんでした。ただし、身近にある製品に触れられる仕事がいいと思い、食品や生活用品、自動車などさまざまな分野の会社にエントリーしたんです」
結果的にHondaへの就職を決めたのは、個性的なHondaの面接官に好印象を抱いたからでした。
安 「Hondaの面接官は、他の会社に比べて変わった質問をするなと感じましたね。私は文系出身で、面接ではマーケティングや海外営業などの仕事がしたいと話したんですが、『やりたい仕事ができなかったらどうする?』と聞かれたんです。
僕は今後自動車業界がどのようになるか自分の考えを示したうえで『やりたい仕事ができないなら、Hondaではない他のところでチャレンジします』と言いました。それを『やりたいことがしっかりしている』とポジティブに受け取ってもらえたのか、結果的に就職が決まったんです。今思えば幼稚で何も知らない若者の言葉でしたが、真剣に受け取ってもらえたのが嬉しかったですね」
面接時に安が面接官に語った自動車業界の未来は、まさに現在迎えている変革期に現れてきています。
安 「僕は当時から、場合によってはクルマを所有する必要はないかもしれないと考えていました。所有することで満足する人ももちろんいますが、クルマを移動手段として活用している人であれば、所有にこだわらない可能性もある。そのように自動車業界で変革が起こるなかで、Hondaの利益に貢献できる仕事がしたいと考えていました」
予想外の配属。努力を重ね知識をつけた結果、切り拓いた現在地
マーケティングや営業の仕事を希望していた安ですが、入社後配属されたのはIT本部(現在のデジタル統括部)でした。最初はそこまで強い興味を持っていない分野だったといいますが、コツコツと知識を身につけ経験を積んだ結果、マーケティングや営業を支えるシステム部門に配属されることになったのです。
安 「最初は販売会社の会計システムを担当しました。簿記という日本語も知らないくらい経理に無知だったので、社内資格を取るなどして勉強しましたね。その後は販売会社の営業領域のシステムに携わったり、マネジメント領域の機能を開発したりしました。徐々に営業領域の仕事に近づいていって、今に至る形です」
主に四輪の販売領域のシステムに携わってきた安は、2021年からIT戦略課に所属しています。実は、異動の1年前から「クルマの新しい売り方」に関する企画書を作成していたのです。
安 「今後はクルマの新しい売り方を考えなければいけない、やるとしたらどのような手順でやる必要があるのか考えてほしいと上長に言われ、前任の方をサポートしながら検討していました。1年後に『安がメインで進めてほしい』と伝えられて、異動して自分で戦略策定を推進するようになったんです」
安が結果的に興味のある分野に携われるようになったのは、「わからないことでもまずはやってみよう」という考えでコツコツと努力を積み重ねてきたからです。
安 「まずはやってみて、うまくいかなかったらそのときに考えようという意識があります。一度やってみて、どうしても辛かったらそのとき上司に相談すればいいと思いながら目の前の仕事に向き合っていました。また取り掛かったからには、中途半端にするのが好きではなくて。そうして取り組み続けた結果、ここまで来ましたね」
システムや経理など、前提知識がまったくない状態でIT本部(現在のデジタル統括部)に配属された安。何もわからない状態で仕事をするのは辛かったものの、周りの先輩や協力会社の方などに質問を繰り返すことで徐々に知識を身につけていきました。
安 「知らないことは悪くありませんが、自分に必要なのに知らないまま放っておくのは悪いことだと考えています。新人だからわからなくて当然という図々しさもあり、いろいろなことをとにかく聞いていました。
Hondaの社員は、積極的に聞きにいくとこころよく教えてくれる人ばかりです。むしろ『これも勉強したほうが君のためになるよ』とプラスアルファで教えてくれる人がたくさんいたので、すごく勉強になりましたね」
部門を横断し情報収集しながら、戦略をアップデート
安は2021年から、BEVや新ビジネスの今後を見据えたシステムのあり方を検討しています。
安 「これまでのHondaはクルマを売って利益を出す会社でしたが、今後は継続的に利益を得るリカーリングも考えていかなければなりません。クルマそのものだけでなく、カーシェアリングや、購入後に機能をアップデートできるような体験を提供しながらビジネスを創出する会社に変わっていきます。
そのためには、今のシステムが将来どのようになっていくべきかを考え、いつまでにいくらくらいのお金をかけてどれくらいの期間でどこの領域からシステムを変えなければならないのかというロードマップを描かなければなりません。まずはBEVを起点として将来像を描き、ビジネス部門に提案し、戦略を立てているところです」
将来を見据えた戦略を立てるためには、社内外の情報を収集して構想を練る必要があります。これまでは安がひとりで情報収集や提案を行っていましたが、2022年からはビジネス部門と一緒に進めています。
安 「僕はこれまでのキャリアから販売領域を専門としていますが、Hondaの戦略を考えるためには生産領域など他の領域とも連携しなければなりません。これまで他部門でも将来のための戦略は考えられていましたが、システムを含めた全体像を明確に考える部門はありませんでした。
だからこそ、僕は部門を横断して全体像のたたき台を作ったんです。そこから他部門のメンバーからもアドバイスをもらってブラッシュアップしながら、さらにバージョンアップさせていきました」
社内の情報を適切に収集するためには、これまで関わりのなかった部門に連絡して協力を依頼する必要がありました。戦略立案はやりがいがあるものの、部門横断や情報の収集、修正に苦労したと安は振り返ります。
安 「Hondaは大きな組織なので、部門横断で仕事を進めることは簡単なことではありません。自分よりはるかに年次が上の人にコンタクトを取って、話を聞かせてくださいと言わなければなりません。しかし、協力してくれる人が集まっている会社なので、ありがたかったですね。
また、正解のない未来を描くためには、幅広く情報を収集する必要があります。一度戦略を描いても、たとえば法令や環境規制によって実現できなくなったというような新たな情報が入ってきた時点で、すぐに修正しなければなりません。自分で情報を取りに行き、どんどんアップデートしなければならないのは、楽しいことでもあり大変なことでもあります」
より適切な戦略を立てるために、安は情報収集を心がけています。
安 「Hondaは本当に的外れなことでなければ、勉強したり調べたりすることを推奨してくれる環境が整っているんです。そのため、研修に参加する機会をもらったり、積極的にコミュニティに参加したりして情報を仕入れています」
ビジネスとITを掛け合わせ、新たな価値を創出したい
幅広く情報収集を行い、未来を見据えて戦略を立てる。一見すると、大掛かりで大変なイメージがありますが、安はアイデアや意欲がある人には戦略の仕事が向いていると考えています。
安 「世の中の変化を捉えたうえでこうしたい、こう変えたいというアイデアを持っていて、やってみたいという意欲があれば、戦略の仕事は向いていると思います。大変なこともありますが、仕事はひとりで進めるわけではありません。
自分が知っている情報がすべてではないので、課のなかでも議論を重ねますし、協力会社とも会議をしながら一緒に戦略を作り上げます。また、僕は販売領域の未来を主に考えますが、隣には生産や環境ビジネスの未来を考える方もいます。
描きたい未来は共通しているので、『将来的に販売はこうなると思う』と言うと『それなら生産にはこんな影響がある』と一緒に議論ができます。部門を超えたサポートを受けながら一緒にプロジェクトを進められるので、心配なく楽しくできる仕事だと思いますね」
入社当初は、文系出身でITを専門としていたわけではなく仕事に不安を抱えていた安。しかし、現在はIT必須の世の中になったからこそ、ITを理解しながらビジネスと掛け合わせて価値を生み出すことが大切だと考えています。
安 「今は日本の小学校でもプログラミング教育が必修化されていますし、ITリテラシーが高い人はこれから世の中にたくさん出てきます。だからこそ、ITだけを専門としていると価値がなくなってしまうと思うんです。今やビジネスは、ITがないと成り立ちません。ITがわかるからこそ提案できることもあります。
将来のビジネスを見据えたうえでシステムを考える仕事は、ITだけでなく経営やマーケティングを勉強した人のほうが良い目線で進められるんじゃないかと思います。ビジネス企画はビジネス部門がやるからいいやと考えるのではなく、ITと掛け合わせることで価値を生み出していきたいですね」
入社直後からITのスキルを身につけてきたからこそ、今ビジネス戦略の立案に関われている安。今後はビジネス部門とデジタル部門の境界線がなくなるだろうと予測し、両方の経験を積んでいきたいと考えています。
安 「今は世の中でDX人材が必要とされていますが、僕はITのデジタル技術を活用しながら新たな価値を創出できる人がDX人材だと思っています。だからこそ、ビジネスのことをもっと詳しく理解しながらデジタル技術も磨き上げて、どこよりも先駆けて新たな価値を提供できる仕事をしていきたいです。
そのために、今はデジタル部門にいますが今後はビジネス部門に行って企画をしたりサービスをローンチしたり、未来のビジネスを自分で経験しながらキャリアアップしたい想いがあります。
今のHondaはビジネス部門とデジタル部門に分かれていますが、いつかは境目がなくなるかもしれません。両方を俯瞰して仕事をする日に向けて、ITに限らずビジネスの経験も積んでいきたいと考えています」
さまざまなビジネスを展開しているHondaだからこそ、デジタルの知識を身につけることで幅広い領域に携われると安は感じています。
安 「僕はこれまで自動車に関するシステムだけでなく会計システムについて学んだり、販売領域に限らず生産領域の勉強をしたりしてきました。Hondaは組織が大きく部門が豊富にあるからこそ、戦略立案にはさまざまな知識を必要とします。そしてHondaでデジタル技術を活用すると、幅広い領域の最先端に関われます。
幅広く勉強できると仕事に還元できるだけでなく自分のキャリアアップにもつながるので、Hondaでデジタルの知識を活かした戦略立案に携わることは、人生においても大きなメリットだと思います」
コツコツと努力を積み重ねてキャリアを切り拓いてきた安。これからもデジタルとビジネスを掛け合わせながら、Hondaの未来を描いていきます。