Sustainable impacts2021/09/13
先人たちの想いをつなげ!「システム刷新プロジェクト」に立ちはだかる壁と希望
菱沼 浩平はHondaのアフターサービスを支えるパーツシステム*刷新の大規模プロジェクトに携わっています。入社以来HondaのIT本部でキャリアを積んできた菱沼が、現在取り組んでいるプロジェクトのやりがいや醍醐味、自身の仕事観を語ります。
*二輪、四輪、ライフクリエーションなど多岐に渡る事業の補給部品を管理・調達し、一日数十万件にのぼる国内外からのオーダーを受注、移送するというHondaのサプライチェーンを支えるシステム
菱沼 浩平Kohei Hishinuma
IT本部システムサービス部 パーツシステム課
アメリカの大学を卒業後、2007年Hondaに新卒入社。IT本部でキャリアを積み重ね、海外の現地法人向けのシステム導入や、国内補給部品倉庫システムの刷新に携わる。2017年よりHonda史上最大規模のシステム開発となるパーツシステム再構築プロジェクトに参画。
アメリカで学びを得て、海外での仕事を希望しHondaへ
IT本部システムサービス部パーツシステム課に所属する菱沼は、Hondaのアフターサービスを支えるパーツオペレーションを網羅する最大のシステムを刷新するプロジェクトに携わっています。
2021年9月現在で、4年ほどこのプロジェクトに関わっていますが、大規模なプロジェクトのため完遂までの道は長く続いています。メンバーの入れ替わりも起こるなか、菱沼は完遂に向けて地道に歩み続けています。
そんな菱沼がHondaへ入社したのは、2007年。会社の規模感や身近な存在であったことを考慮し、Hondaの門を叩きました。
菱沼 「海外で働けたらいいなと考えていたので、規模の大きいグローバル企業を中心に受けていました。また、私自身はクルマやバイクにあまり興味がありませんでしたが、兄がモータースポーツを好きであったり父がHondaのクルマに乗っていたりしたので、昔からHondaが身近な存在でした。そしてご縁があり、Hondaに入社することになりました」
菱沼が海外で働きたいと考える背景には、アメリカの大学に通った経験があります。4年間の大学生活では、英語で実施する授業についていくため必死で勉強していました。しかし、アメリカ留学生活は菱沼に授業以外の学びも与えてくれたのです。
菱沼 「留学を通じて感じたことは、ひとり一人の個性と向き合うことの大切さですね。振り返ってみると、渡米当初は人種や出身地などのとっつきやすい情報に着目して、相手の行動や思考をステレオタイプ的に誤ってとらえてしまうことが多かったのです。ただ、次第に自身のコミュニケーションの輪が広がってくると、バックグラウンドとは関係なく、個々人の人間性がものを言う、と強く感じるようになりました。“人間色んなやつがいるから面白い”──至極当たり前ではあるのですが、多種多様な人間が集まる地域で学生生活を送ったからこそ実感できたことです」
卒業後にHondaに入社した菱沼は、半年間の研修を終えた後、IT本部に配属され、それ以来IT本部でキャリアを積むことになります。2008年に異動したグローバルサポートセンターという部署では、海外の現地法人向けにシステムを作り、マレーシアの現地法人とともに運用していました。
その後は現在のパーツシステム課でスペアパーツに関するシステム全般の開発や維持、運用を担当。2017年に大規模刷新プロジェクトに参画するまでは、主に倉庫システムを担当していました。
高を括ったことで招いた手痛い失敗
アメリカの大学でコミュニケーション学を学んでいた文系の菱沼がIT本部に配属されたのは、先輩社員との出会いがきっかけで自ら志望したからです。
菱沼 「入社する前に偶然IT本部の先輩社員と知り合う機会があり、その方がすごく勢いのある魅力的な方だったので、IT本部の雰囲気が良さそうだと感じました。複数の職種を希望していましたが、そのひとつがIT職種でした。
私たちの時代はIT部門を志望する人が少なかったので、書いた瞬間に私の当選はほぼ確実となり、無事IT本部に配属されました(笑)。IT本部に配属された同期の半分はシステム系出身で、もう半分は私のような文系出身でしたね」
システムの利用者は海外在住者が多く、連絡を英語で取ったり海外出張で現地の方と話したりと、学生時代に身につけた英語力を活かしながら海外で働くという希望を叶えることができました。しかし、英語ができても適切にコミュニケーションを取れるわけではなかったと菱沼は振り返ります。
菱沼 「英語は一丁前にできるので、海外の方とのコミュニケーションに関しては問題ないだろう、と正直高を括っていたんです。しかし、たとえ同じ言語を使ったとしても、考え方や仕事の進め方は国によって違います。日本でのコミュニケーションは、海外では通用しないんですよね。
そこまで頻繁に海外出張へ行けるわけではないので、現地法人の担当者とは、基本的にはメールやドキュメントをベースにやり取りをしていたのですが、十分にコミュニケーションを取れていなかった結果、立ち上げたシステムがまったくユーザーの希望に沿っていなかったことがありました。システムの立ち上げのためにマレーシアに出張しましたが、最後のユーザーテストの段階で『欲しいものと少し違う』と言われてしまったんです」
その直後に異動することになった菱沼は、失敗を立て直す機会がないまま現在所属するパーツシステム課に配属されました。このときの失敗体験は、菱沼の心に戒めとして残り続けています。
菱沼 「当時は自分の中で現場・現物・現実を見る三現主義の意識が低くて、机上のやりとりでなんとかなるだろうと高を括っていたんです。ユーザーと一緒に仕様を詰めて設計するために、国を跨いだコミュニケーションにもっと力を入れるべきでした。
手痛い失敗をしたことで、現在の業務では三現主義をとても大切にしています。システム開発自体、ユーザーが触れるようになるまで実態がなく三現主義の実践が難しいのですが、工夫して現物ベースで確認できるところはとことん確認し、ユーザーから具体的に求められているものは何かを追求する姿勢を心がけています」
やるべきこともステークホルダーも多いなか、1つずつ地道に作り上げる
お客様ニーズに応える部品供給実現を目指し、アフターサービスのCS向上に貢献してきたHondaの部品事業。2017年から菱沼が携わっているパーツオペレーションを網羅する最大のシステム再構築プロジェクトは、これまでの仕組みを新しいものに置き換えさらに進化させるためのものです。歴史の長いHondaには長年使用するなかで老朽化しているシステムもあります。
100年に一度と言われる大変革期を迎える中、製品やサービスの変化に応じて補給部品サプライチェーンも進化が求められていますが、今のままでは複雑化した40年来のシステムがビジネス進化の足枷となりかねません。そのため、これからの環境変化のスピードに追従し、今後のDX化の主戦場となるアフターパーツビジネスの変化を加速させるための基盤を作り直すことが、本プロジェクトのミッションです。
菱沼が担当するパーツシステムも、もともとあったシステムをいわゆる“増改築”しながら使い続けたことにより、どんどん複雑化していました。そこで、新しいプラットフォームに着せ替えるべくミッションに取り組んでいるのです。
このプロジェクトはHondaのIT本部が行うシステム開発としても最大規模ということもあり、試行錯誤しながら進めています。参画する人員もそこまで多いわけではないので、一人ひとりが大きな役割を担わなければ先に進むことができません。
菱沼 「通常の開発はチームリーダー1人に部下が数人というイメージがありますが、本プロジェクトは規模が大きすぎてそのような体制を組むことはできず、私のようなチームリーダーが横並びになってすべての業務に力を注いでいる形です。
開発にあたっては、非常に細かいシステムの画面やプログラムの仕様をユーザーと相談して決めることから、プロジェクトの方針を決めてマネジメントすることまで、つまり、上流から下流までのすべてを、各メンバーが見なければなりません。今まで経験したことがないことも含めて、すべて自分でやらなければならないんです。大変ですが、超大規模システム開発の醍醐味だと思って前向きに取り組んでいますね」
菱沼はHondaに入社してからずっとIT本部で働いてきて、特定の技術に特化するというよりも、システム開発のいろはを幅広く知っているタイプとしてキャリアを積み重ねてきました。全方位型のスキルを活かしていくという今のプロジェクト環境は、そんな自身に合っていると感じています。
菱沼 「システム開発全般に言えますが、特に再構築系の開発プロジェクトには必勝法が存在しません。決まったビジネス要件を予算内で実現すれば良い、というものはないので、一般的なメソッドや知識体系が通用しない場面に度々遭遇します。ただ、その分創意工夫の余地が大きいとも言えますし、各メンバーのアイデアひとつでプロジェクトの流れを良い方向変えることもできます。
例えば開発のステップ分け。現在プロジェクト全体は3つのステップに分けて進めていますが、この分割方法を発案したのが私です。当初は2ステップでしたが、規模過大となり打開策が必要でした。分割と言っても、一つの巨大なシステムのどこに切れ目を入れるかで開発効率が大きく変わってきます。また、機能間の繋がりを見抜くことに加えて、ビジネス環境や全社のIT戦略なども多角的に考慮してステークホルダー全員にとって納得感のあるものにする必要があります。さまざまな要素を考えに考え抜いてできあがったのが今の形。自分次第で巨大プロジェクトを好転させることもできる、この仕事の醍醐味を実感した瞬間です」
温故知新を大切にし、先人たちの想いを受け継いで進む
長期的なプロジェクトに関わり続けるためには、モチベーションの維持が必要不可欠です。菱沼は、これまで老朽化システムの刷新を提案し続けてきた先輩の想いを受け止め、冷静に仕事に向き合うことでモチベーションを保っています。
菱沼 「先輩方の長年の努力が実り、ようやく企画が動き始めたので、松明の火を消してはいけないと強く感じています。先輩方が紡いできたものを引き継いでいる以上、モチベーションを下げずに責任持ってプロジェクトを完遂させたいですね」
菱沼は仕事をするうえで、前の部署での失敗から学んだ三現主義を大切にしています。それに加えてこのプロジェクトを通じて意識するようになったのは、温故知新の考え方です。
菱沼 「システムの刷新とはいっても、まったく新しいものに置き換えるのではありません。現役で動いているシステムには、先人たちの知恵や事業として積み上げてきたものがたくさん詰まっています。
そこをきちんと活かしながら、新しいプラットフォームに載せようとしているんです。当然無駄なものもたくさん入っているので、温故知新に加え整理もしなければなりませんが、昔からあるものを大切にしながら新しく進化させていくという考えを大切にしていますね」
プロジェクトに全力を注ぎつつ、入社当初から希望していた海外で仕事をすることも諦めていない菱沼。今後は海外駐在も視野に入れながら働きたいと考えています。
菱沼 「入社以来ずっとIT本部で働いてきて、先輩方が海外駐在する姿を見ています。私もせっかくグローバル企業のHondaで働いているからには、海外で仕事をするチャンスをつかみたいと思っています」
先人たちから受け継いだ想いを胸に、ようやく灯すことができた松明の火を消さないよう大規模なシステム刷新プロジェクトを進めている菱沼。
静かに情熱を燃やしながら、古いものを大切にしつつ新たなものに作り変える挑戦の日々は続きます。