Innovation 2024/07/08
Hondaなら、きっとできる──宇宙というフロンティアで新たな世界を創造したい
すべての人に生活の可能性が拡がる喜びを提供する──2030年ビジョンの実現に向け、培ってきた技術を活かして新領域に挑んでいるHonda。そのステージは宇宙へと拡大しています。ロボットや車両開発に携わってきた経験を活かし、宇宙におけるHondaの可能性を探るふたりの夢に迫ります。
室町 維昭Masaaki Muromachi
宇宙開発戦略室開発戦略ブロック
学生時代は人の操作をアシストする着用型ロボットを研究。2004年Hondaへ新卒入社以降は、長年ヒューマノイド型ロボットの研究開発に従事し、メカ設計業務を担当。その後、宇宙領域でロボット技術を活用する研究へ移行し、2023年より宇宙開発戦略室に所属。
藤井 遼太Ryota Fujii
宇宙開発戦略室開発戦略ブロック
2011年Hondaへ新卒入社し、四輪の電装系研究領域からキャリアをスタート。その後、NシリーズやFITなどの制御ECUの開発に従事。2019年からは宇宙領域で再使用型ロケットのシステム設計と電装設計に携わる。2023年より宇宙開発戦略室に所属。
なんでもできるから難しい。技術者の枠にとらわれずに、宇宙でHondaの価値を生む
Hondaの研究開発を担う本田技術研究所。燃焼・電動・制御・ロボティクスといったHondaが培ってきたコア技術を総合的に活用し、空、4次元といった新領域において新たな挑戦をしています。
その領域の一つが、宇宙。コア技術を活かした“夢”と“可能性”に向けて、宇宙での価値創造をめざしています。
「ひとことで宇宙と言っても、たくさんの可能性を秘めています。そのなかで、Hondaは何をめざすのかを決めなければなりません。Hondaが持っているアセットを活用することで、お客様にどのような価値を提供できるのか。その方向性を探るのが、私たち宇宙開発戦略室の役割です」
メンバーは、それぞれが技術職としての専門性を持っていることが特徴。各自の専門分野をリードしながら、チームの知見を掛け合わせてさまざまな検討をしています。
「私は、四輪の電装系からキャリアをスタートした後、再使用型ロケットの研究開発をしていました。これから人びとがロケットに乗って宇宙へ行く時代が来ると言われていますが、実際に実現するまでには多くのステップがあります。そこへ到達するまでにロケットを使って何ができるのか、これまでの専門性をもとに考えています」
「私は長年、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)の研究開発をしてきた経験から、宇宙空間でロボットを活用する方法を検討しています。独自のAIサポート遠隔操作機能を活かした物体操作が活用できるのではないかと考えています」
技術職としてキャリアを歩んできたふたり。まだまだ未知の領域である宇宙でビジネスを考えるやりがいと難しさを感じています。
「既存の領域であれば、利用するお客様をイメージできますし、製品の品質や性能を高めていくことでお客様に満足していただくというアプローチができます。
しかし、宇宙での事業は前例がありません。その分、『宇宙という領域でどんな世界を創ることができるのか』という視点から考えることができます。それがおもしろいところであり、難しいところでもあります」
「宇宙は完全にフロンティアなんですよね。クルマやバイクのように燃費やサイズといった条件がありません。だから、自由にいろいろなことを考えられる、なんでも考えていいという楽しさがあります。
一方で、私たちは技術畑の出身なので、『技術的には難しいよね』という制限を無意識にかけてしまう傾向があります。ですから、今の自分のレベルに縛られないことを心がけています」
ASIMOやFCX。学生時代にHondaの最新技術に触れたことが入社のきっかけ
新卒でHondaへ入社した室町と藤井。共に、「Hondaに入りたい」と強く思う出来事があったと言います。
大学で着用型ロボットの研究をしていた室町は、世界初の本格二足歩行ロボットとして話題になったASIMOが入社のきっかけでした。
「2003年にロボットの展示会に出展する機会があったのですが、その展示会でHondaが発表したのが“銀ASIMO”。従来の2倍速で歩くASIMOです。出会った瞬間、『僕がやりたかったのはこれだ!』と思いました」
室町が思い描いていた夢。それは、子どものころに見た未来の街の絵でした。
「当時よく描かれていた未来の街では、人とロボットが共存し、多種多様なロボットがさまざまな仕事をしていました。私は、そんな未来を作りたいとずっと思っていて。ASIMOを見た時、その夢とつながったんです」
念願かなって、入社後はASIMOの研究開発に携わることに。その後、およそ20年にわたりASIMOと共にキャリアを積んできた室町。プロジェクトが始まるたびに技術的なハードルが上がっていくなかで、モノづくりの喜びを感じる瞬間がありました。
「ASIMOは各地でデモンストレーションを行っていました。たまたま私の住んでいるエリアに来ることがあったので、子どもを連れて見に行ったんです。その時たくさんのお客様が楽しんでいる姿を見て、『これが作る喜びなんだ』と気がつきました。
当時はすでに入社7、8年目でしたが、普段はお客様と接する機会が少ないので、改めて仕事の楽しさを知った瞬間でした」
幼いころからクルマや機械が好きで、家電を分解して遊んでいたという藤井は、就職先として完成車メーカーを志望していたと言います。入社の決め手になったのは、高校生の時に見た燃料電池車「FCXクラリティ」でした。
「たまたま私の通っていた高校で環境をテーマにしたイベントがあり、FCXクラリティも紹介されたのです。Hondaの開発担当者と話をしたり、助手席に乗せてもらって急加速を体験したり。最先端のクルマに触れたことで、『Hondaはおもしろそうだ』と感じました」
入社後は、電装系の研究開発からキャリアをスタート。その後、NシリーズやFITなどの制御ECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)の開発に従事します。子どものころからの夢をかなえ、自分が関わったクルマが街中を走っている──その光景を目にした時、意外にもうれしさよりも勝る気持ちがあったと話します。
「『問題なく走っているかな』『エンジンはちゃんとかかっているかな』と心配になってしまって。できることは100%やりきっているのですが、しばらくは毎日、不具合の報告が上がっていないかを確認していました。
もちろん、うれしさも大きいのですが、新しいクルマが出るたびに心配になって……を繰り返していましたね」
三現主義が成立しないことが一番の難しさ。それでも、宇宙なら夢がかなうと信じて
ヒューマノイドロボットと量産車、それぞれでキャリアを積んできたふたりが次のチャレンジのステージに選んだのは、宇宙領域でした。
「クルマの開発において、新しい技術はもちろんあるのですが、基本的には先人たちが築いたレールの上を歩んでいく感覚なんです。けれど、誰も行ったことがない領域、自分の知らない領域に踏み入れてみたいと思うようになり、ロケットの開発に挑戦することにしました」
いざ宇宙の領域に足を踏み入れてみると、見える世界がまったく違ったと話します。
「ロケットの開発では役割も広がり、ハーネスや回路、センサーなど一つ一つの確認だけではなく、ロケット全体のシステムを見る必要がある点が大きな違いでした。
宇宙開発戦略室に来てからは、さらに視点を変える必要がありました。技術視点だけでなく、“お客様視点”をより強く意識して考える。クルマやロケットといったプロダクトから、一つ視点を上げなくてはいけない。それが自分の中で大きな変化でした」
一方の室町は、アバターロボットの活用が宇宙領域にチャレンジするきっかけだったと言います。
「Hondaは今、遠隔操作により異なる場所で自分の分身として使えるアバターロボットに力を入れています。遠隔操作する上で、どこが一番遠いかと言ったら宇宙です。でも、宇宙は一筋縄ではいきません。ですから、まずはロボットを何のために宇宙で使うのか。その価値を組み立てるところから始めようと思ったのです」
その決断を後押ししたのは、夢見ていた未来の街を実現したいという想いでした。
「 “手つかずの環境”である宇宙や月は、ロボティクスの投入スピードが速いのかもしれない、と考えました。東京の街中を想像すると、ASIMOのようなロボットを活躍させるためには越えなければならないハードルが非常に多いのです」
とはいえ、当然ながら地上で使うプロダクトの開発とは勝手が違います。とくに、Hondaが大切にする三現主義(現場・現物・現実)がかなわない状況での開発が難しいと口を揃えます。
「現在、宇宙がどんな環境なのかは調査中の段階。しかも、一度打ち上げてしまったら、現地で確認することはできません。何かトラブルが起きても、原因がわからない可能性があります」
「技術者としては、どうなるかわからないものを出すということは、とても怖いんですよね。地上で同じような環境を再現してテストをするのですが、宇宙とまったく同じ環境は作れませんから。現場が取れないということは、技術的には難しいポイントです」
技術やアイデアの前では誰もが平等。これまでの知見を結集して宇宙に挑む
技術者としての枠にとらわれず、宇宙というフロンティアで価値を生む──それを考える際にふたりが大切にしているのが、“Hondaらしさ”です。
「お客様に喜んでいただける価値は何かを一番に考えることがHonda流。そこにHondaの強みを紐づけていくことで、価値が生まれます」
「それに加えて、チャレンジと新しさ。Hondaには、新しい価値を生むためにチャレンジし続けてきた歴史があります。だから、宇宙でも『そこに目をつけるとは、さすがHondaだね』と言われるチャレンジがしたい。
フロンティアだからこそ、もっともHondaらしさが発揮できる領域だと思っています」
そして、Hondaならではの文化が、宇宙領域における強みになるはずだと続けます。
「まずは人材が豊富なこと。Hondaには、表から見えないものも含めて本当にさまざまな仕事があり、技術があります。
そして、夢にチャレンジできる文化があること。技術者たちのなかには、仕事が終わったあとにも趣味でモノづくりをしている人もいます。それを事業化させた人もいますし、大きな夢を口にしても受け入れてもらえるんですよね」
「技術やアイデアの前では誰もが平等。役職や立場に関係なく意見を求められますし、新入社員であっても良いアイデアであれば採用されます。むしろ、普通のアイデアの積み上げでは、『Hondaらしくない』と却下されます。そうやってより良いものを追い求めるからこそ、新しい何かが生まれるのだと思います。
あとは、数々のチャレンジを成し遂げてきたという歴史があること。クルマ、飛行機、ロボットなど、これまでの知見を全部合わせれば、宇宙でも価値を出せるはず。Hondaならできるんじゃないかという期待が、私たちにもあるんです」
Hondaの総合力を支えに、未来への戦略を描くため奮闘するふたり。夢見た世界に向け、着実に、しかし大胆に目標を掲げます。
「ロボットがいる街を作ると言っても、まずは調査が必要だったり、街の基礎を作るためのロボットを送り込む必要があったり、やらなくてはいけないことは山ほどあります。その先を実現するためにも、しっかり段階を踏んで取り組んでいきたいですね」
「私のような会社員でも、ロケットに乗って宇宙旅行ができるような世界を作りたいですね。他にも、宇宙という空間を使うことでモビリティの安全性を高められたり、地球上どこでも自動運転が可能になったりといったことも実現できるかもしれません。
夢を後押ししてくれるHondaで、そういった世界観が創れたら最高ですね」
まだ誰も実現していないことこそ、Hondaがやる──数々のフロンティアを開拓してきたHondaの力を結集し、宇宙というステージをめざします。
※ 記載内容は2024年6月時点のものです