1985 Honda NSR500 [NV0B]
GP500ワークスロードレーサー

1985 NSR500の技術仕様

text=KIYOKAZU IMAI

新機軸・目の字断面アルミフレーム

4カ月で作り上げられたチャンピオンマシン

NV0Bの全体的なディメンションは先代のNV0Aのものに準じており、ホイールベースはほぼ同じ。ただし、NV0BのスイングアームはNV0Aのものより約15mm長い。これは、フロント荷重を上げる狙いでフレームに施した改修に対応した結果だ。またNV0Bは、低重心を狙って燃料タンクを下に置いたNV0Aより、重心高をさらに約10mm低めることに成功している。(Photo/Shinobu Matsukawa)

1985 NSR500 [NV0B](Photo/Shinobu Matsukawa)

NSR500の1985年モデルであるNV0Bを先代のNV0Aと見比べると、ガラリと変わった印象を受ける。だが、NV0Bの車体設計を担当した山本 馨は、「極端な言い方をすれば、NV0Aの部品の配置を、コンベンショナルな車体レイアウトに変更したのに合わせて見直した、という成り立ちの車両がNV0Bでした」と言う。

1984 NSR500 [NV0A](Photo/Yoshihiro Ishizuka)

エンジンは、Vアングルが90度のV型4気筒・500cc・クランクケースリードバルブ吸気・1軸クランクの2ストロークユニットで、基本的な構成はNV0Aのものと変わりない。ただし、当然ながら、まったく同じであったわけではない。最大の変更点は、NV0Aでは4軸だったものを、NV0Bでは3軸(※クランクシャフト→メインシャフト→カウンターシャフト)としたこと。省かれたプライマリーシャフトは鉄製で重く、この変更などによってNV0Bのエンジン重量はNV0Aより約4kgも軽く仕上げられた。

また、残る各シャフトの間隔(軸間)を詰めてクランクケースは再設計され、NV0Aのものよりコンパクトになっている。一方、ボア54mm×ストローク54.5mmのシリンダーの設計は先代から変更なし。他の様々な部位の設計も引き継ぎ、新たに作り起こす部品の数をできるだけ抑えたことで、まったくの新規開発ではあり得ない短期間でNV0Bのエンジンは作り上げられた。こうしたアプローチは、NV0Aのエンジンが十分な性能を出していたからこそ採れたものだった。

NV0Bのエンジンは、NV0Aと同じくVアングル90度のV型4気筒だが、前バンクが水平より少し前下がりになり、後バンクが直立より少し前傾する角度で搭載されている。写真で2番シリンダーから出るエキゾーストパイプの横に見える「Hマーク」のようなプレスが入ったアルミ製の箱は、排気デバイス「ATAC」のサブチャンバー。低速域ではこのサブチャンバーのバルブを開けて排気を流れ込ませ、脈動圧力波を高めることで、混合気が着火されないままシリンダーから吹き抜けてしまうことを防ぎ、低速トルクの増強を図る、という機構がATACで、シリンダーごとに装備した。(Photo/Shinobu Matsukawa)

4軸であったNV0Aのクランクシャフトは逆回転(進行方向の反対に回転)だったが、3軸になったNV0Bは正回転となった。慣性力が発生するクランクシャフト回転の向きは、前後輪への荷重のかかり方やハンドリングに影響を与える。正回転は前輪への荷重が軽くなる方向へ作用するため、ライダーにとって非常に重要な前輪の接地感がいくらかでも損なわれることになるのでないか、という懸念が開発者たちの間にはあった。だが実際には、悪い影響はさほどなかったという。ただ、エンジンが軽々と回りすぎてトラクションをつかみにくい、という訴えがフレディ・スペンサーからあった。そこで、エンジン回転の上がり方をわずかばかり鈍くするために、カウンターウェイトを若干重くしたクランクシャフトがシーズン序盤のうちに投入され、効果を得ていた。