1979 NR500 [NR1]
GP500ワークスロードレーサー

カムギアトレインにおける苦悩

1979年モデルのNR500(NR1)に搭載された0Xエンジンの縦断面図。クランクシャフトは5ジャーナル。この図の向きでは最も上側にあるジャーナルが、カムギアトレインの駆動力取り出しも受け持った。

2万回転で吸・排気バルブを確実に開け閉めするためのカムシャフト駆動方式はギアトレイン以外にあり得なかった。そして、これを右端に配置する設計を0Xエンジンでは採った。

横長の長円形ピストンを支持するには、コンロッドは各気筒で2本必要であった。そのため、コンロッドを保持するクランクピンは4個、エンジン本体側にクランクシャフトを保持させるクランクジャーナルは5個ないし6個を持たせなければならない。

このクランクジャーナルの数を5個で済ませることが、0Xでカムギアトレインをエンジン右端配置にした大きな理由だった。センターに配置すると、エンジン中央左右の気筒のあいだに位置するジャーナルをふたつに分ける形でギアトレインの駆動力取り出しギアを設ける格好になる。するとクランクジャーナルの数は6個になり、エンジン重量の増大につながる。それを避けた。

だが、0Xのベンチテストが始まると、そのカムギアトレインが大きな問題を抱えていることが明らかになった。エンジンの回転を上げていくとカムギアが共振によって破損してしまうのだ。

ギアトレインの設計を変えるには0Xの全体設計を変えねばならず、そんな時間はなかった。取れる対策は、カムギアの共振を吸収するダンパーを設けること。そして、そのようなものが仕込めるとしたら、クランクシャフトに設けたカムギアトレインのドライブギアと最初に接する単一のセカンドギア(リダクションギア)しかなかった。それも、ギアの大きさを変えることなしでの処置が求められ、シェアタイプと呼ばれるラバーブロック数個からなるダンパーが採用された。

ところが実際には、このシェアタイプのカムダンパーでは不十分だった。仕込めるゴムのボリュームが決定的に不足していた。つまり0Xの設計では解決できない問題であり、その反省に基づいた設計が、翌1980年のシーズンに投入する1Xに施されていくことになった。

1980年モデルのNR500(NR2)に搭載された1Xエンジンの縦断面図。ギアトレインの位置がエンジンのセンターとなったところが前作0Xに対する最も大きな変更点。センターにあったクランクジャーナルが分割された格好になって6ジャーナルのクランクシャフトとなり、重量が増すことになったが、信頼性確保を優先した。そしてカムダンパーは、振動の源であるカムシャフトのすべてに設けた。