1979 NR500 [NR1]
GP500ワークスロードレーサー

バルブスプリングが足かせに

同じ4気筒であっても、2ストロークより部品点数が多い4ストロークはおのずと重くなるうえ、コンロッドを各気筒で2本ずつ持つなど、さらなる重量増の要因をNRエンジンはいくつも抱えていた。そこで少しでも軽く仕上げるため、荷重がかからない部品には比重の小さいマグネシウム合金が惜しげなく使用された。(Photo/Honda)

NR500の4気筒エンジンは、2気筒ずつ並ぶシリンダーバンクを2つ持つV型レイアウトとされた。長円形シリンダーは横長であり、それを横並びにする並列4気筒の形態ではとんでもなく幅広なエンジンになってしまう。よってV型レイアウトの採用は必然だった。

4気筒分のキャブレターは、ふたつのシリンダーバンクが描くV字型の谷間に配置。そのVアングルは100°に設定された。クランクシャフトの一次振動を理論的にゼロにできる90°が本来は望ましかったが、この時点でのNR用キャブレターの大きさがVアングル90°では収まらないものであったためだ。

1979年モデルのNR500(NR1)に搭載された0Xエンジンの横断面図。クランクシャフト→プライマリーシャフト→メインシャフト→カウンターシャフトと出力伝達する4軸構成で、クランクシャフトは逆回転(タイヤの回転方向に対して逆)。

ホンダは1960年代に、2気筒の50ccレーサーであるRC115とその後継機RC116で2万回転を実現していた。一方、最初のNR500エンジンである0Xは1970年代の終盤に設計されたものである。にもかかわらず、2万回転をはるかに下回る回転数でバルブスプリングが折れまくるという事態がベンチテストの初期段階で起こっていた。

原因は材料にあった。RC115やRC116のバルブスプリングはマルエージング鋼線という強度や靭性に優れた超硬度鋼の線材から作られていたのに対し、0Xではシリコンクロム鋼オイルテンパー線という一般的な材料を使用していたのだ。マルエージング鋼は国の輸出規制の対象になるような特殊な希少性の高い材料のため、NRプロジェクトが立ち上がった時点では手に入れられなかったためであった。

0Xのバルブスプリングは、シリコンクロム鋼オイルテンパー線を用いつつ、2万回転を前提にした応力計算に基づいて作られた特別なものではあった。しかし、実際に2万回転に近づくとサージング(カム角の変化速度にバルブの動きが追従できなくなって発生する異常振動)を起こし、荷重に耐え切れず壊れてしまうのだった。

ホンダは材料メーカーと交渉を重ね、マルエージング鋼線の再生産を引き受けてもらった。ただ、初代NR500(NR1)のレース出場時にそれは間に合わなかった。そのため、シリコンクロム鋼オイルテンパー線製のバルブスプリングを使う以外になかったのである。

もっとも、バルブスプリングより脆弱な箇所がそこここにあり、それらが先に問題となったため、NR1がレースでバルブスプリング折損に見舞われることはなかった。