POWERED by HONDA

RA100E

1990McLaren Honda MP4/5B

F1の燃費競争突入に合わせて進化

3.5ℓ自然吸気(NA)エンジンの2年目となった1990年は、前年型RA109E をベースにボア×ストロークを一新した新型RA100Eをマクラーレンに供給した。

RA109Eのボア×ストロークは91×53.7㎜だったが、RA100Eでは93×51.5㎜へと変更。ボアを拡大したのは燃焼の安定化を目的とするもので、結果的に燃費を向上させるのが狙いだ。燃費のいいエンジンは積載燃料を少なくできるため、スタート時の車体重量を軽くでき、レース序盤の動力性能が向上する。

NAエンジン時代の本格的な幕開けとなった1989年は、華々しいパワー競争が展開されたが、それが一段落すると今度は燃費競争が始まり、パワーでトップスピードを稼ぐ時代から、燃費でレースを競うシーズンになった。1990年のHonda RA100Eは、まさにその燃費競争のトップを争うエンジンであった。

ただ、このボア×ストローク変更によってピストンピンボスが慣性力によって破損するという想定外の初期トラブルが発生したが、ただちに必要な対策をほどこして解決している。

ドライバビリティも改善

一方、1989年シーズンにドライバーたちから改善要求が出されていたエンジン回転の立ち上がりのもたつきを解決する必要に迫られ、RA100Eではスロットル形式そのものが変更された。

前年型RA109Eはスライド式スロットルバルブを採用していた。スライド式は全開時にバルブが吸気流を邪魔することなく空気抵抗が少ないので、一般にレースエンジンに向いていると考えられているが、スロットル操作の過渡期において、スロットル下流に空気渦が発生して燃料を巻き込み、燃料供給の遅れが発生するデメリットがある。このデメリットによる回転立ち上がりのもたつきを解消してほしいというのが、ドライバーたちの要求だった。エンジンレスポンスが悪いと加速が滑らかにいかなくなり、コンマ1秒を争うバトルにおいては不利になる。要するにドライバビリティが良好ではなかった。そこでRA100Eは、レスポンスの大幅改善を目的としてスロットル形式をバタフライ式スロットルバルブに変更することによってドライバーたちの要求に応えた。また、エンジンのオイル・システムのトラブルを極力ゼロにするために、オイルタンク内の気液分離を十分に行う目的で、OAS(オイル・エア・セパレーター)を装備した。

こうして成熟したRA100Eエンジンは、1990年シーズン全16戦で6回の優勝を獲得し、5年連続のコンストラクターズ・チャンピオンと4年連続のドライバーズ・チャンピオンに輝いた。

なお1991年からHondaはF1主力エンジンをV型12気筒に移行するが、V10エンジンも研究開発を続け、ティレル・チームへRA101Eエンジンとして供給した。

McLaren Honda MP4/5B