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RA109E
F1自然吸気エンジン規定元年にV型10気筒を選択
1989年はF1がターボ時代からの過渡期を経て、3.5ℓ自然吸気(NA)エンジンに一本化された初年度であった。Hondaは新型の3493ccV型10気筒RA109Eをマクラーレン1チームのみに絞って供給し、NAエンジン初年度を戦った。
F1に参戦する限りは、あくなき挑戦を続けるべきだとHondaは考え、規定刷新初年度であっても当然のことながら、ターボ時代から続くダブルタイトル3連覇を狙った。
新型V10エンジンの研究開発は、1987年初頭に着手し、2年の時間をかけている。レイアウトにV型10気筒を選んだ理由はとてもシンプルであった。
もとよりHondaは創業期にオートバイ・グランプリへ挑戦を開始した時代から、高出力を狙う多気筒の高回転レーシングエンジン技術を得意としてきた。一般にレーシングエンジン技術の世界で、自動車用多気筒エンジンのシンボルであるV12は、高回転高出力タイプだと考えられている。一方でポピュラーな人気があるV8は小型で軽量なエンジンと位置づけられている。高出力はレーシングエンジン技術の華で、小型軽量化は技術進化の王道だ。HondaはこのV12とV8の両方のメリットを両立させるエンジンとしてV10を企画し、チャレンジを開始した。ターボ時代から自然吸気時代にまたがるF1タイトル連覇は、できるまでやり続ける強固な意志と、失敗を認めてやり直す不断の努力が必要だった。
ダブルタイトル3連覇達成も、課題を残す
RA109E は研究開発中に、2度の大きな設計変更をしている。初期設計ではエンジンのVバンク角を80°としていたが、振動に悩まされていた。そこでエンジン設計を見直して、バンク角を72°に変更し、さらにレーシングエンジンでは画期的なバランサーシャフトを装備することで、振動を低減した。もうひとつの設計変更は、タイミングベルト駆動を、タイミングギア駆動に変更したことだ。テスト中にタイミングベルト駆動では耐久信頼性が不足することが判明したからである。この設計変更は1989年シーズン開幕のわずか3カ月前に決断したもので、時間的にぎりぎりのところで開幕戦に間に合った。
軽量化については、アルミ製のシリンダーブロックを採用して推進した。ターボエンジン時代は高い気筒圧に対応するため鋳鉄製を採用していたたが、自然吸気エンジン時代にふさわしい材質に変更をした。
こうして研究開発したRA109E はマクラーレンへ供給され、実戦の試練をうけた。新型のV10自然吸気エンジンは激しいF1の実戦を重ねていくなかでピストンリング溝の摩耗を始め、多くのトラブルが発覚していった。また動力性能においては、エンジン回転の立ち上がりがもたつき、アクセルペダルの操作にエンジンが素直に応じない不具合、いわゆるヘジテーションの問題に悩まされた。これらのトラブルや不具合は、1989年シーズン中にすべて解決することができず、エンジン開発チームは毎レース薄氷を踏むような心境で戦っていた。1990年シーズンへむけて大幅な改良が必要となった。
そのような厳しい状況を乗り越えて、1989年は全16戦で10勝することができ、3年連続のドライバーズ・チャンピオンと4年連続のコンストラクターズ・チャンピオンを獲得するエンジンになった。