POWERED by HONDA
RA167E
ターボ規制を跳ね返し、F1完全制覇を成し遂げる
1983年のF1第2期活動開始から、F1用1.5ℓV6ツインターボ・エンジンの開発を続けてきたHondaが、前年ウイリアムズとともに初のコンストラクターズ・チャンピオンを獲得し、今度こそダブルチャンピオンによるF1完全制覇を目指して開発したエンジン、それがRA167Eである。この1987年シーズンにはウイリアムズに加え、アイルトン・セナが所属するロータスにもエンジン供給を開始した。
FISA(国際自動車スポーツ連盟)はF1エンジンの際限のない高出力化競争に歯止めをかけるべく、段階的にターボ・エンジン禁止に向けて規制を強化。前年の燃料タンク容量規制(220ℓ→195ℓ)に続き、それまで無制限であったターボチャージャーの過給圧を最大4.0barに制限した。その一方で、3.5ℓ自然吸気(NA)エンジン車のグランプリ参戦をこの年から許可。ターボ車の最低規定重量を540㎏とするのに対し、NA車は500㎏と優遇した。パワー格差を調整するため、実質上ターボ車のパフォーマンスダウンを狙った。
しかしダブルタイトルを狙っていたHondaとしては、この規制に手をこまねいているわけにはいかなかった。そして、パワーダウンをさせないどころか、さらなるパワーアップを目標とする技術戦略を立てた。その具体的な技術戦術は、一般に「エンジンの吸入効率」と説明される充填効率を向上させる研究開発を推進することであった。
この年に使用した燃料は、一般市販レベルのハイオクタン・ガソリンにトルエンとノルマルヘプタンを混合したもので、その燃料の気化性を考慮した温度制御をして充填効率を向上させる目的で、新たに開発した吸入空気温度コントロール・システムを導入した。このシステムは期待通りの結果をみせ、Hondaエンジンの優位性のひとつ武器となった。
そうした新技術導入とともに、Hondaが伝統的に培ってきた高回転化と高圧縮化の技術をさらに磨き、RA167Eのパフォーマンスは前年型RA166Eとほぼ遜色なく、予選時には1000馬力以上のパワーを絞り出した。
ありあまるパワーを燃費性能にも振り分ける
こうして高出力を実現したRA167Eは、パワー重視のグランプリではいかんなくそのパフォーマンスを発揮して勝利をつかんだ。一方で燃費が勝敗の鍵となるレースでは、パワーを優先せずに、ポート径を絞ってバルブ開角を狭めるなどで燃費を向上させた仕様で勝利をおさめた。つまりありあまるパフォーマンスを身につけたRA167Eは、その余裕を燃費性能に転換することができたのである。
シーズン中に悩まされたトラブルは、FISAから支給されるターボ過給圧を機械的に制限するポップ・オフ・バルブの性能にバラツキがあったことだ。HondaはFISAへポップ・オフ・バルブの改良を共同でおこなうことを提案し、改良のための技術を提供して性能の安定を図り、ターボ・エンジンのコンストラクター各社を悩ませていたトラブルを解決した。
また、初めての2チーム供給でこれまでより2倍以上の台数のF1エンジンを製造し供給しなければならないことに懸念があったが、量産車メーカーのノウハウを活かし安定した生産体制を取ることができた。
こうしてRA167Eは、1987年シーズンは全16戦中11勝し、このシーズンの勝率は69%へ跳ね上がった。第7戦イギリスGPでは1位から4位までをHonda・エンジン搭載車が独占し、その速さを示している。
ウイリアムズがコンストラクターズ・チャンピンとなり、ネルソン・ピケがドライバーズ・チャンピオンを獲得し、RA167Eは初めてダブルタイトルを獲得した。この快挙は、名実ともにHondaパワーがトップに君臨したことを示すものでもあった。